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本編

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 エドワルドが次にエヴァンス家へと訪れたのは、それから数日後。ドレファン国に赴く前日になった。

 リリーからの手紙を受け取り、ジルギリス本人に必ず手渡す事を約束し、リラの部屋で、その唇を幾度も貪り堪能する。

 そんな時間を過ごした翌朝、王宮にて、アレクシスと護衛の兵士、捕虜の男を連れて、ドレファン国へと向かう。

 縄で縛られた男に、アレクシスが近寄ろうとするのを、兵士が慌てて止めようとするが、アレクシスは逆に兵士の介入を拒む。

 エドワルドが大丈夫だと言い置いて、アレクシスの後に続く。


「この男があの国王の庶子か。私はお前の父である国王を確実に殺す。それを知りながら、阻止をしようと言う気はないのか?」

「いえ……私は……されて当然の事を、あの国王はしたと思っています。それに、国王が父と言っても、私は国王に面会したのは数える程で、息子として扱われた訳ではありませんから」

「今一度聞くが、お前はあの国をどうしたい?過去を繰り返し、この先多くの国民の命を無駄にするか、それとも、裏切り者の汚名を着てまで未来に進み、神を名乗り、国の心臓部に巣食う害虫共を、餌を与え続ける屑共々根刮ねこそぎ切除し、前に出るか」

「……裏切り者……」

「当然だろう。お前からすれば、正しい事をしているつもりでも、逆の立場からすれば、お前はディーランに付いた裏切り者だ。周辺国がドレファンの事をどう思っているのかも知らないし、あの国王を未だに神と崇めている程だ。そして、たちの悪い事に、あの国の中枢部もだ」


 エドワルドが残酷な事実を突き付ける。この程度で揺らぐなら見張り等務まらない。他の者を再教育するか、誰かを送り込んだ方がマシだろう。


「私達ディーランからすれば、度々迷惑しか掛けてこないドレファン等、滅んだ所で問題無い。ただ、その国民は、国に留まろうと他国に移ろうと、他国にとって価値は無い。国を踏み荒らす賊が増えるか、物乞いが増えるかの違いだ。そして賊なら討伐が下され、物乞いなら都市から追い出される。ドレファンの国民はどれ程の識字率だ?都市でも殆どの国民が読めないのではないか?ディーランでは場所にもよるが、王都の殆どの者は、簡単な物であれば子供を省き、ほぼ全員が読み書き計算が出来る。何を驚く事がある?周辺国はどこもそんな物だ。ドレファンぐらいだぞ。王候貴族とそれに仕える者しか学ばせない国は」


 エドワルドから聞かされる、あまりの認識の違いに、男は何も言えなくなった。
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