氷結の毒華は王弟公爵に囲われる

本編

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「そういう訳だから、前王妃が公の場で姿を現せば、実家は王家の信頼を落とした犯罪者だと陰口を叩かれ、前王妃は大きな後ろ楯を無くし、威張れなくなる。ハンナ様は威張る事も注目を浴びる事も大好きだけど、注目と言っても、羨ましがられる方のだから、同情や陰口系のは屈辱だろうね。しかもヒステリックに叫べば、益々悪化するんだから、あの気性なら叫びまくった後に、ほとぼりが冷めるまでは部屋に閉じ籠る気なんじゃない？まぁ、ほとぼりを冷ます気なんて誰もいないと思うけど」


　ハンナは王妃時代も今も、その地位に踏ん反り返り、周囲からは内心煙たがられていたと言うのに、本人は全く気付いていないか、その地位を羨ましがられていると思い込んでいるのだ。

　勿論、その地位を羨む者達もいるにはいるが、ハンナ自身に憧れや尊敬を抱く者は殆どいないと言っても良いだろう。

　しかも、何事であれ、自分が一番でなければ気が済まないタイプの女性だ。ハンナより目立った場合は嫌味や嫌がらせを受ける上、理由もなく当たられる事も有るのだ。そんな女に今までの恨み辛みを存分に返せるチャンスが来たと言うのに、見逃す筈も無いだろう。

　幾ら王族に嫁いだからと言っても、後ろ楯も人望も無いような女が蔑ろにされない訳が無い。しかも実家を潰した相手は息子である国王陛下なのだから。

　ハンナは味方だと思い込んでいた最愛の息子が裏切るとは思っていなかったようだが、息子のアレクシスからすれば、裏切り以前に味方でも無し、自分が味方をするとしたら、何の非も落ち度も無い弟のエドワルドと、最愛の妻であるアナスタシアだと言い切るだろう。

　そもそもアレクシスは、可愛い弟のエドワルドを蔑む実母のハンナに、好意的な感情を抱いていない。

　弟は間違いなくハンナの子供だ。それなのに、何が気に入らなかったのか、同じ父の子で有るにも関わらず、エドワルドにだけ異様に冷たい。

　アレクシスにとっては念願の兄弟だったのだから、尚更可愛い弟だと言うのにだ。

　そして、王族として学んだ観念からしても、母親のハンナは王族に相応しくないと理解していたのだから、母親への愛情よりも、弟への愛情が深くなるのは当然と言えよう。


「だから、ハンナ様は表立って出て来る事は無いと思うよ。万一エドワルド殿の方に来た場合、全力で僕達エヴァンス家が阻止するからね。その時はリラも協力してくれるでしょ？」


　ジーンの言葉に、リラはキラキラの笑顔で返事をした。


「勿論ですわ！」


　リラは機嫌を直し、ご機嫌のまま、朝食を済ませるのだった。