氷結の毒華は王弟公爵に囲われる

カザハナ

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本編

297

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 店の扉を開けると、茶葉の良い匂いが場を満たす。

 リラは大きく息を吸い込んで、その匂いを堪能していると、店の奥から声が掛かる。


「おっ、お久し振りです、お嬢様!お嬢様が来られなかった間に、沢山の種類が入荷されていますよ」


 そこには、この店の後継ぎ息子がリラを見ていた。


「そう。どんな種類が入ったのかしら?」


 リラが聞き返すと、後継ぎの青年がチラチラとエドワルドを気にしながらも、新しく入荷されたであろう茶葉を並べていく。

 エドワルドは目を細め、相手の男を観察する。

 男から、リラへの恋慕を感じたからだ。


「こちらが最近入荷された物で、とても質の良い物です。それと、こちらは入荷数が少ない物ですが、中々手に入らない貴重な物ですね」


 リラは青年の言葉を聞きながら頷き、どこの産地か確認し、納得する。


「前にお嬢様がここの産地の物は、品質が良いと教えて下さったので、交渉して、何とか商談を成立する事が出来ました。お嬢様のお陰です。あのっ、お礼として、幾つかプレゼントさせて頂きたいのですが!」

「いらないよ。リラが欲しいのならば私が買うから」


 エドワルドの言葉に、後継ぎである青年が一瞬顔を歪めるが、直ぐに取り繕い、エドワルドにも笑みを見せる。


「そう言えば、ご婚約をなされたと伺いましたが、こちらの方がそうなのですか?随分と……いえ、とても貴族的な方なのですね。お嬢様、私で良ければどんな事でも相談して下さい。些細な事だろうと何だろうと、きっとお力になりますよ。私はお嬢様が悲しむ姿を見たくは有りませんから」

「私が彼女を悲しませると言いたいのか?」

「そもそも、お嬢様がお金に物を言わせるような方をお好きになるとは思えません。貴方程の方ならば、どんな女性でも選び放題ではないですか!選りにも選って、何故このお嬢様なのです?!もっと若い娘だろうと、妖艶な美女だろうと、他にもいらっしゃるでしょう!」


 青年の言葉に悪意を感じたリラは、全く違う解釈をした。

(わたくしが、よく知りもしない貴方に相談?力になるですって?エドワルド様が貴族的だと態々仰って下さると言う事は、わたくしはそう見えないと言いたい訳ですの?つまりは、わたくしでは力不足、と言いたいのよね……?確かにわたくしは、容姿も平凡以下で、大した取り柄を持ち合わせても居ませんが、だからと言って、高が顔見知り程度の店員に、面と向かって悪口を言われる筋合いは無くってよ?)


「随分と失礼な物言いね。貴方一体、何様のつもりですの?高が顔見知りの店員程度で偉そうに……」


 リラは不機嫌丸出しの声で、店の後継ぎである青年に怒りをぶつけた。
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