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後日談

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 その後、婚約者と妹の前からどうやって部屋に戻って来たのか、よく覚えていない。

 ただ、あの二人の前で、不様な醜態を晒さないようにと、それだけは強く思っていた事だけを覚えていた。

 このまま家に残っていても、家では邪魔者、社交界では婚約者を妹に奪われた憐れな女と嘲笑われるに違いない。

 だからこそアシュリーは、家を出て、修道院へと行くつもりだった。

 その方が、彼等への当て付けにもなるし、もう二度と、この家の者達に関わりたくないと思ったからだ。

 アシュリーは、誰にも知られないようにこっそりと準備をし、誰にも気付かれないように、誰もが寝静まった時間に家を出たつもりだったのだが、家を出て門を抜けると、小声で声を掛けられ心底驚く。


「お嬢様、お待ち致しておりました。さぁ、こちらへ」


 そこには、貴族の交流が広い子爵からの紹介で入った、いつもなら強い訛り言葉を話す侍女がいた。

 その侍女は、強い訛り言葉を使いはするものの、とても優秀な侍女だからと預かったのだが、他の家族は彼女を田舎者と蔑んでいた為、アシュリーが傍に置いていたのだ。

 その侍女が、実家の都合でおいとますると言っていたが、その時はまだ強い訛り言葉を喋っていた筈だ。

 それなのに、今はスラスラと訛りの無い言葉で喋っていた。


「貴女……普通に喋れるのね……」

「はい。方言を取り入れて喋ると、相手の本質が分かり易かったりしますので。田舎者と侮る方も居れば、アシュリーお嬢様のように普通に接して下さる方も居ますから」


「……わたくしを、家に連れ戻す気ですか?」

「いいえ。私はお嬢様を連れ戻す気は有りません。とは言え、行き先を変更させては頂きますが」


 侍女の言葉にアシュリーは誘拐の文字が頭に浮かんだが、自分を誘拐した所で、無意味だろうと自嘲した。

「わたくしを誘拐した所で、この家は身代金なんて出しませんよ」


 アシュリーがそう言えば、侍女は首を横に振る。


「お嬢様は、修道院に駆け込むつもりでしょう?それよりもっと良い方法が有るのです。貴女の家族が吐いた嘘を、現実にしてみませんか?」

「???どういう事かしら?」


 聞き返すアシュリーに、侍女はにんまりと微笑み、言う。


「あのサラお嬢様を心底悔しがらせ、元婚約者や父親ですら太刀打ち出来ない程の、お金と美貌と権力をお持ちの若君がいらっしゃるのです。若君ならば、花嫁となるアシュリーお嬢様を、このまま泣き寝入りになんてさせませんよ。家族をとても大切になさる人ですから。本来は花嫁の実家も守る対象ですが、自分の花嫁を蔑ろにする家族等、家族とは呼べませんし、そんな害虫は駆除対象ですから」


 アシュリーにとっては良い話だが、そんな良い話が有る事自体に騙されているのではとアシュリーは疑った。
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