氷結の毒華は王弟公爵に囲われる

カザハナ

文字の大きさ
782 / 805
後日談

2

しおりを挟む
 エリオールの目の前に、初めて見る大人の男性が二人。

 エリオールは日常的に、この王宮を出入りしている自国の人間は、ほぼ全て、どこの誰かを把握してると言ってもいい。

 そうでなければこの国で、王族として生き残る事は難しい。

 そしてこの王宮に居ると言う事は、国王に認められた相手、他国の王族や大使、外交官になるだろう。

 そして今、この王宮に滞在する外国籍の人間で、顔を確認していないのは、件の外交官しか当て嵌まらないのだ。

 ここは中庭。遠目ながらも人目は有る。

 他の王位継承者と手を組んでいたとしても、こうして顔を合わせると言う事は、今直ぐどうこうされる事は無いだろうと、エリオールは二人を見上げる。

 その男性の内の一人は、何故か肩に人を一人担いでいた。

 顔は見えないが、服装からして自国の貴族。

 それを何故他国の者が担ぎ上げているのかと疑問に思ったら、担ぎ上げていた男は担いでいた男をドサリとエリオールの前の地面に置いた。

 置かれた男の顔を確認すれば、その男はエリオールの腹違いの妹に取り巻く一族の一人だった。

(この男も信じているのね。あのこの嘘と虚言に。騙されているとも知らずに、ご苦労な事だわ)

 エリオールは可愛い容姿をしているが、正論武装の毒舌で、相手の本質を見極めるのに対し、二つ下の腹違いの妹は、その可愛い容姿を利用して、無邪気を装い、王位には興味が無いと言いながら、周囲を操り、虎視眈々とその座を狙っている。

 自身は王位に興味は無いが、周囲が期待しているので仕方無く、といったていでだ。

 幼いながらもその演技力に、どれだけの人間が騙されているのかと思うと、気が滅入るし、その本性を嫌と言う程思い知るエリオールが、近付きたくないと思うのは当然の事だと言えよう。

 エリオールがそんな事を思い返していると、二人の大人が会話をし出した。


「相変わらず物騒な国ですね。この時期は特にと聞いてはいましたが、白昼堂々他人の命を狙うとは。しかも武器は吹き針だなんて、陰険ですよね」


 男を担いでいた男の隣にいた青み掛かった銀髪の外交官らしき者が溜め息混じりに声を出せば、男を担いでいたもう一人の男も隣の男に問い掛けていた。


「我々を狙って来たのか?」

「いえ、我々では有りません。彼女を狙ったのでしょう。ただ、私達が背後を取り、話し掛けてしまったので、反射的にこちらに吹いただけでしょう。勿論、私達がどこの誰かも知らないで。理解していたなら、攻撃は絶対にしなかったと思いますよ?」


 そんな会話を交わした後に、青み掛かった銀髪の外交官らしき男、ジルギリスがエリオールへと向き直り、身を屈めて視線を合わせる。


「初めまして、エリオール姫。私はディーラン王国の外交官で、ジルギリス=エヴァンスと言います。こちらは私の護衛を務めるマーウ。この男が物陰に隠れてこそこそと怪しい動きをしていたので、一応声を掛けたら、こちらに針を飛ばしてきたので、反撃はさせて頂きました。死んではいないので、どうぞご安心を」


 にっこりと微笑むジルギリスに、エリオールの頭の中で、都市伝説のような逸話が頭を過ったのだった。
しおりを挟む
感想 2,440

あなたにおすすめの小説

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~

cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。 同棲はかれこれもう7年目。 お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。 合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。 焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。 何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。 美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。 私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな? そしてわたしの30歳の誕生日。 「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」 「なに言ってるの?」 優しかったはずの隼人が豹変。 「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」 彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。 「絶対に逃がさないよ?」

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

黒騎士団の娼婦

イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

処理中です...