英雄王の末裔 ~青のラファール~

カザハナ

文字の大きさ
89 / 113
~デ・フォン領域~

リウリクに兄さんと付けない理由

しおりを挟む
「……珍しく、兄さんと付けないんだな?」

 僕がリウリクを呼び捨てにしている事を疑問に思ったのだろうレノ兄が聞いてくる。

「ああ、うん。白衣着てる人達には付けないようにしてるんだ。錬金術師の場合は、一人前は本名、半人前は師に付けられた渾名って慣例があって、半人前は師が付きっきりで教えるのと、複数の弟子がいる場合、上は兄姉が付くけど、半人前の時だけで、独立すれば本名呼び捨て、もしくは様付けなんだよね?」

 実の弟妹だといいけど、名前に兄姉の敬称は一人前以下の扱いになるらしい。
 一応、最後のほうはリウリクに確認を入れる。

「……だから、何でお前はそんな事知ってやがる……」
「錬金術師の専門書とか、手引き書とかに載ってたから」
「ねぇよ、そんな本!」
「あるよ。古代ルファール書の本に」

 僕の実家にあるからね。オリジナルも写本も。
 写本は代々字の練習に、先代の写本を手習いにしたり、晩年、家での暮らしをする赤の血族が、暇潰しに写本の少ない本を中心に写本して増やしたりとするからだ。

「ねぇっつうの!もし現存するなら見せてみろ!」

 ん~……。オリジナルは持って来れないからなぁ。家の写本も、家まで往復するのは時間が掛かるし、僕が写しを書くかラファス兄が書くかだけど……。

「写しで良いなら手に入るけど、僕の記憶だと完全版とは言い難いし、ラファス兄に交渉するならリウリクがそれに対する対価を出さなきゃ無理だよ?」

 僕が頼めば書いてくれるだろうけど、やっぱ僕達にもメリットがないとなぁ。

「誰だ、ラファス兄って……?」
「僕の実兄。でも、リウリクが略名で呼んじゃ駄目だよ。ラルファンスって呼ばなきゃ」
「待て……。ラルファンス?……いや、まさかな?」
「そこのラファールの兄は赤のラルファンスだ。だが、ラルファンスは名を呼ばれる事を嫌うぞ」

 レノ兄がリウリクに釘をさす。
 僕達にとって名は神聖な物だから、知らない人にはあんまり呼ばれたくないんだよね~。

「?!!!」

 あ、リウリク固まった。うん、まぁ、そうなるかな?

「ラファス兄、一度読んだ本は一言一句間違えずに暗記してるから。記憶内では誤字脱字も暗記してるけど、写しにする時はちゃんと改訂してくれるよ。でも、ラファス兄の知識を貰うには、それ相応の知識交換が基本だから。交渉するなら僕が間に立ってあげるけど、ラファス兄はいつデ・マームに来るかは未定なんだよね」
「……?赤の……なんだよな?お前の兄貴は。べらぼうに強いってだけじゃなく、そんなに凄いのか?知識の方も……?」
「両方とも、僕なんか足元にも及ばないよ。知識については全大陸の書物をかき集めても勝てるかどうか?」
「……兄弟でデタラメ物件かよ……」
「デタラメ……まぁ、デタラメに近いな」

 えっ?!レノ兄までそんな事言うの?!

「だが、レア度は古代技術の最盛期作品の中でも最高級品。使い方を間違えなければ良いだけの話だ」
「……間違えたらどうなるよ」
「勿論、武器の取り扱いと同じく、怪我だけで済むかは相手次第だな。まぁ犯罪に手を染めたり、喧嘩を売るような事をしなければ大体は大丈夫だと思うが?」

 まぁ、僕の場合、子供の癖にとか、団員じゃない癖にとかって言われると、事実だから言い返そうとかやり返そうとは思わないけど、ラファス兄の悪口とか言われたりすると、僕にすら勝てない癖に、何言ってんの?ってなるんだよね。

「ラファールにはラルファンスの、ラルファンスにはラファールの悪口や嘲りといった負の感情は見せない方が身の為だとは言えるがな」
「あー……肝に命じとく……」
「敵にさえ回さなければ、これ程使い勝手の良い奴はいない。上手く付き合う事だな」

 まぁ、否定はしない。知識で言えば全般的だし、薬学や戦闘は実践もしてるし、資産もあるし、権力や社会的地位はないけど、その分自由だし、ツテはいくらでもあるからね。

「そういやぁ白衣着てる人達っつったよな?医学関連者もか?」
「ああ、医学関連の人達の場合、師に複数の弟子が当たり前で、弟子同士の結束が強いんだよ。で、家族同然だから、独立した後も兄姉を付けたままだし、医者のお兄さんお姉さんって言い方なら問題ないけど、名前に付けるとあまりいい気はしないみたいだからね」
「……それも医学関連の専門書や手引き書辺りか?」
「そうだよ。家に古代書の、各専門分野のがあるんだ。でも、年代物だから外には持ち出せないけどね」
「……今度、お前の家に連れて行け」
「それ、アル兄……アーヴェル=デフォルト様にも言われた。けど、それ程親しくもないのに連れては行けないなぁ。特部の兄さん達すら未だに招待してないもん」

 まぁ、特部の兄さん達は、忙しすぎて時間が取れないってのが一番の理由だけど。

「……チッ。分かった。追い追い親しくなってやらぁ」
「まぁ頑張って?」

 スーヴェンさんと一緒に連れて行ってもいいだろうけど、5ティファル(※5年)も先の事だしね。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

処理中です...