英雄王の末裔 ~赤のラルファンス~

カザハナ

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アーヴェルとの出会い  (前編)

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 ~これは、ラファスが十三の時、中央デ・トルト大陸にある国の中で起きた出来事である~



 ラファスは、とある目的地を目指し急いでいた。その為、近道になるが物騒な噂が流れる街を通りすぎることに決めた。
 そこは、今いる場所の領主が腕の立つ人材を集めているという話。
 偶々立ち寄っただけで、誰かの下に入る気も無ければ組織に入る気も無いラファスは、噂を無視して旅を続けようとしていた。が、ラファスの背負う大きな両手持ち剣を見た兵士が、ラファスに目を付けたのだった。

「おい!そこのお前!この地を出たければ、コロシアムの競技に参加しろ」

 ラファスにとって、迷惑以外の何物でもなかった。何せラファスは急いでいるのだ。しかし、断ればこの街から出さない気だろう。
 勿論、ラファスが本気を出せば、止められる人間なんていない。既にあちこちでラファスの名が一人歩きする程に、ラファスの知名度は高く知れ渡っている。ただし、本人ではなく同名同色の人違いと勘違いされるが。
(面倒臭いが仕方ない。たったと終わらせ次に行く)
 何をさせられるのかは知らないが、大元ぶっ叩けばいいだけだ。そんな考えの中、渋々頷けば、コロシアムへと連れていかされた。


 コロシアムの控え室へと入れられたラファスの後ろで扉に鍵が掛かる音が響く。
 コロシアムの控え室には大勢の人がいて、やる気のある者、絶望してる者、自棄を起こしてる者とさまざまだ。
 絶望してる男の一人が入ってきたばかりのラファスに気付く。

「まだ成人もしてねぇってのに、何でこんな場所に来やがった。ここに来ればもう後戻りは出来ねえぞ」

 その言葉にラファスは聞き返す。

「どういう意味だ?」
「ここは小遣い稼ぎの場所じゃねえ。あいつに殺される為だけの場所だ」
「俺はただ、この地を出たければ参加しろと言われただけだが」

 そう告げると、男、ホバノールは驚き戸惑う。

「ちょっと待って。じゃあ、お前は何も知らずにここへ連れて来られたと?」
「みたいだな」
「何でまた……。その剣の所為か……」

 ラファスの背負う大きな剣に目が行く。

「多分な」
「ちょっと貸してみな」
「抜けないぞ」
「ああ?!何でんな剣持ってんだ!」
「父の形見だ」

 そう言いながら、ホバノールに剣を渡すラファス。

「ぬっ……ぬぬぬっ……マジで抜けねえぞコラァ!」

 そんなホバノールに溜め息を吐くラファス。

「だから言っただろ」
「こんな剣でどうやって闘えってんだ!おいコラ門番!!こいつだけは出してやれ!この剣は単なる飾りじゃねえか!!聞いてんのかオラァ!」
「五月蝿い!例外は認めない。そんな事すれば、他の奴等もとなるからな。運が悪かったと諦めろ」
「てめぇらそれでも人間か!!」
「……」
「ちっきしょう~~~っっ!!」
「ま、当然だな」

 事の成り行きを見ていたラファスが一人頷く。

「ちょっと待って!何でてめぇが落ち着いてんだ!!ちっとは悪あがきをしやがれ!」
「今ここで無駄な体力を使うのは馬鹿だ」

 かっ……可愛くねえ!言葉には出さなかったがそう思った事だろう。いや、頭に血が昇っている為言葉が出なかったという方が正解だろうか。

「それよりおっさん、“あいつ”って誰だ?」

 落ち着け落ち着け、と自分に言い聞かせていたホバノールがラファスの問いに答える。

「ああ、そっか。お前は知らずに連れて来られたんだったな。あいつってのは人殺しに魅せられた領主が雇った、人殺しが大好きな凄腕の剣士……腕だけでなら聖剣士にでもなれたんじゃねえかって噂のベルクスって剣士だ」
「……」

(聖剣士、な。全く興味はないが、どうせ玄人暗殺者アサシンに毛でも生えた程度だろう。俺のラルにすら届かんだろう雑魚ザコの分際で俺を足止めするからには、それ相応の対価をくれてやる)

「次の奴、外へ出ろ!」
「いっ、嫌だぁ~~っっ!!誰か、誰か助けてくれっ!!」
「早く来い!こっちは誰でもいいんだ。どうせ遅かれ早かれ皆同じ末路を辿るんだろうからな」
「そうとは限らないぞ?オレが行ってやるぜ!」

 血の気の多そうな男(ただし、ラファスから見たら全員ザコだろう)が、意気揚々と外へ出る。
 控え室の前方からは外の様子がよく見えるようになっており、今出て行った男がいたぶられ、なぶり殺しにされてしまう。

「ケッ。胸糞悪むなくそわりぃ……次はいよいよ俺様の番って訳だ」

 ホバノールが呟く。
 それまで試合とすら呼べない試合を黙って見ていたラファスが声を掛ける。

「あんたは出るな。俺が出る」

 ラファスの突然の申し出にホバノールは驚き戸惑う。

「お前……今の見てたんだろうが!何を考えてやがる?!もしも他の誰かがあいつを倒せばお前は助かるんだぞ!?」
「誰も倒せなければ俺に廻ってくるだけだ」
「確かにそうだが……みすみす死にに行ってどうすんだ!聖騎士団の奴等が噂を嗅ぎ付けてくれれば助かるかも知れんだろ!!」
「それまで、こんな下らん馬鹿げた茶番を見ていろと?俺はこんな事に時間を無駄に潰す気はない」
「茶ば……いや、待て」
「次の奴、外へ出ろ」
「うるせえ!今取り込み中……っておい、待てよ!そんな抜けない剣でどうする気だ?!」
「あんたらとは違う」

 ラファスはきっぱり言い切ってそのまま外へ出る。


「次の挑戦者は……子供?!子供ですよ皆さん!!見た目には旅人っぽいけど立派な剣だね。君、職種は?」

 馬鹿げたアナウンスが響き渡る。
 控え室内でも流れていたが、その馬鹿げたアナウンスにラファスのイライラが確実に上がる。

「ほらほら、答えてくんないと試合が始まらないよ~?」
「吟遊詩人だ」
「吟遊詩人?!うっわぁー、君、世の中嘗めてんでしょ……。まぁいいけどねぇ、どうせ死ぬだけだし……。それでは最後に、君の名前は?」
「……」
「名前だよ、名前。名前も言えないのぉ?それじゃあ試合が始まんないよぉ?ほぉら、言ってごらん?」

 あまりの馬鹿馬鹿しさにぶち切れそうになるラファス。このまま暴れてやろうかとも思うが名は教えてやるべきものだ。

「……ラルファンスだ」
「へぇ~?ラルファンス君ねぇ。君、あの・・“赤のラルファンス”と同じ名なんだぁ。同じ色だし可哀想に~。ではではこれより、天才剣士ベルクスvs吟遊詩人ラルファンス君の試合を始めま~す!!」

   パァン!

 銃声が鳴り響き、ラファスは剣の柄を握る。
 そんなラファスにベルクスが話し掛けてくる。

「お前みたいな子供には不釣り合いな剣だな。丁度いい。お前を殺した後、その剣は俺が貰ってやる。有り難く思いな」
「貴様にくれてやる物なんぞ持ち合わせていない」
「フッ、度胸だけは認めてやるが、いずれ――」
「五月蝿い」
「ああ?!」
「グダグダ言う暇があるならたったと来やがれ。ザコが」

 控え室内に流れてくるコロシアム内のラファスの声に、ホバノールが心の中で叫んでる。
(挑発してどうすんだ、あのバカぁ!!)

「その口の悪さ、今に後悔させてやる!」

 ラファスの挑発に乗り、ベルクスが攻撃を仕掛けるのだが、大きく振りかぶったベルクスのスピードが乗った剣をラファスの剣が軽々受け止める。

「何!?」

 咄嗟に間合いを空けるベルクス。正確には、ラファスの剣圧で弾かれたような物だがそれにベルクス本人が気付いていない。
 こいつ、何者だ?!とか思いつつも、再度ラファスに話し掛けるベルクス。

「やるじゃねぇか、この俺の一撃を受け止めた奴は初めてだ」


 ホバノールは呆然としていた。
(あれだけ力を入れても抜けなかった剣が、いとも容易く抜けてやがる……。しかもあれ、かなりの重さだったのに、あいつは片腕でかなりの速さ……しかもあいつが抜いたのはあの男の後だぞ?!なんて奴だ……嘘だろ?……あいつなら、勝てるかも知れねえなんて!!)
 ホバノールだけじゃない。控え室にいた他の奴等も皆、試合に釘付けだ。
 絶望していた奴等も顔つきが変わってきている。

「あいつなら……勝てるかも……」
「助かるのか?俺達……」
「あいつが勝てば……」
「助かる?」
「助かる……」
「助かる!!」
「負けるな小僧!」
「頼む、勝ってくれっっ!!」

 控え室の中は、ラファスへの声援に変わっていった。


 一方ベルクスは、ラファスに攻撃を幾度も幾度も仕掛けるが、どの攻撃も悉く受け止められる。

「いい気になるなよ小僧!」

 ラファスにがなり、連続攻撃を仕掛けるが、やはり全ての攻撃を受け止め流す。

「終わりか?」

 間合いを取って攻めあぐねているベルクスに再度挑発を仕掛けるラファス。その事にベルクスは頭に血が昇る。

「てめぇ、さっきから受けてばっかで攻めて来ないのは、受けるので精一杯だからなんじゃねぇのか?!ああ?!そんな大振りの剣じゃ、避けられりゃあ終わりだもんなぁ!」
「貴様のようなクズ相手にやられて堪るか」

 そしてベルクスは、ラファス相手に言ってはならない言葉を放つ。

「このガキ……!てめぇこそ、掛かって来やがれ!!」
「――いいんだな」

 ラファスの口がほんの僅かに吊り上がる。
 その瞬間、ゾワッと背筋に悪寒が走り、嫌な予感しか感じない。が、既にもう遅い。
 目にも留まらぬ強烈な一撃がベルクスを襲う。

「ぐわっ?!?」

 ベルクスには何が起きたのか、理解できない。間合いを取っていたにも拘わらず、一瞬で間合いを詰められ、コロシアムの壁にまで吹き飛ばされていた。
全身を強く打ち、骨も何本か折れているだろうベルクスに、ベルクスの間合いの少し外まで近付いて、剣先をベルクスに向けるラファス。

「動けるまで待っててやる。加減はしてやったんだ、とっとと立てよ?」

 ベルクスは恐怖感しかなく、動かなければ死ぬという本能に従い痛む身体を押してラファスに向かう。

「う……おおおおおおぉぉぉぉぉ!!!」

   ズバン!!

 ベルクスの腕と持っていた剣、一度に二つを綺麗に切断するラファス。そして剣の切っ先を、縫い止められたかのように動かないベルクスの顔スレスレ状態で留める。

「で?次はどこがいい?」

 その外見が業火のように鮮やかに燃えているような強烈な印象を纏うのと同時に、炎の色でありながら、真逆の心底凍えるような冷たい眼差しをベルクスに向けるラファス。

「そっちは誰でもいいんだろ?だったら、見せてやろうじゃないか。“赤”と呼ばれる由来をな」
「「「ほ……ほっ……本物ぉ~っっ?!!」」」

 あちこちからどよめきが走り、混乱状態の中、当事者でもあるここの領主が、このままではただでは済まないと本能的に感じ取り、自分一人でもと逃走を謀る。が、突然背後から、少年らしき若い声に呼び止められる。

「どこへ行かれるおつもりですか?」

 後ろへと視線を送ると、そこには金髪の少年、アーヴェルがいた。

「当事者である貴方をこのまま逃す訳には参りませんよ、聖騎士団の名に掛けて」
「!!!」

 そう言われても人間納得する訳もなく、最後の悪あがきの如く隠し扉へと逃げようとした、まさにその瞬間とき。隠し扉の場所にどこから飛んで来たのか、折れた剣が突き刺さる。アーヴェルはコロシアムの一角をチラッと確認する。

「彼も気付いていた様ですね。対戦相手の剣を使って退路を絶つのだから」
(しかし、この距離と高さを物ともしないなんて……)
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