英雄王の末裔 ~赤のラルファンス~

カザハナ

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アーヴェルとの出会い  (後編)

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 殺さない程度、ベルクスに止めを刺して、控え室の方へと進むラファス。

「くっ、来るなぁ~~っっ!!」

 その時に門番をしていた兵士が錯乱し、ラファスに突っ込んで行くが、ラファスは歩きながらの剣の一振りで軽々と吹っ飛ばし、壁に激突させる。
 何事もなかったかのように控え室の扉の前に立ち止まり、剣を構えるラファス。
 控え室にいた他の奴等も皆ラファスに殺されると思い込み、先程までの活気が無くなる。
 もう死んだも同然だと皆が皆口も開かず固唾を呑んでる中、ラファスが控え室の扉を壁ごと切り、切った部分を軽く蹴り倒す。

「いつまでそこにいる気だ、とっとと来い!」

 ラファスの言葉にビビりながらも急いで外に出る。従わなければ死あるのみだと本能が告げているからだ。
 それからラファスは少し歩き、コロシアムの出入口がある壁際に寄って、客席の方へと威圧する。

「死にたくなければ離れていろ」

 当然、そこにいた人々はダッシュで反対側へとすっ飛んで行く。
 領主を風魔法で拘束し、ラファスの行動をずっと見ていたアーヴェルは、予測不能なラファスを面白そうに見る。
(次は何をする気だろう?)
 自分と大して歳が離れていないだろう赤髪の少年、ラファスを見入る。と、ラファスが右手で剣を一振り、強烈な一撃を放った。
 コロシアムのスタンドが、剣圧により吹っ飛ぶ。ラファスの前にある被害の浅い場所でも二、三人は優に並ぶ事が出来、後ろになればなる程その幅は広がっている。
 ただ不思議なのは、破壊されたコロシアムの直ぐ後ろに生えていた木々には何の影響も及ぼしていない事だ。通常、魔法にしろ剣圧にしろ、影響する範囲は直線的で、壊されたコロシアムの直ぐ近くに位置する木が何の影響もないなんて普通では有り得ない。手前のコロシアム同様吹き飛ばされていて当然だ。
 アーヴェルは風を扱う。アーヴェルにしろ出来ない事ではない。が、ラファスのは剣撃だ。風ですら難しく、アーヴェルならば構想をして集中して十回中何回成功するやら。五回出来ればいい方だ。風の長と呼ばれる精霊と契約出来たアーヴェルですらそうなのだ。普通の人間が出来る技ではない。しかもアーヴェルの場合は風魔法のみでの想定だ。剣でなど、成功するイメージすら湧かない。
 アーヴェルは断然興味が湧いた。自分と似たような歳をした目の前のラファスに。
 ラファスが見せた技の難しさをどれだけの人が理解出来ているのか分からないが、観客の貴族連中も、控え室にいた奴等も、アーヴェル以外の全員が恐怖に身を固まらせる。

「おっさん、そいつ等連れてここを出ろ。巻き添えを食らう前にな」
「まっ……巻き添え?」

(これ以上何がー?!!)
ホバノールは心の中で一人突っ込む。

「この建物をぶっ壊す」

(ひぃ~~~!!!!)
(やるっ!!!こいつなら、っっつーか、もう一部壊してっし!!)
 控え室にいた奴等も心の中で突っ込む。

「てめぇらも、今回は見逃してやるが、次はないと思え。それと、ここで起きた事は他言無用。言えば……分かるな?」

 観客である貴族連中に威圧を掛けるラファス。ラファスの言葉を聞いて速攻で逃げ出す貴族連中を尻目に、アーヴェルへと向き直る。

「風使い。そこにいる馬鹿領主とここで震えるザコ二匹に薄いシールド掛けてやれ。こんな下らん馬鹿げた試合をさせやがったんだ。憂さ晴らしに“赤”の由来をその馬鹿な脳裏に刻み付けてやる。易々と死なせてやるものか!」

ラファスが壮絶な笑顔でアーヴェルに言い切る。

「……了解しました」

 取り敢えず、身振りでも分かるよう伝える。
 それを確認してからラファスは建物を全壊させる。勿論建物だけを拳大程の大きさにあっという間にしてしまう。
 遠目で見てた奴等は勿論、領主等三人は生きてなお、死よりも恐ろしい恐怖を目の当たりにし、今までのラファスに仕置きされた奴等同様、後々赤い色を目にしただけでも錯乱状態に陥り悪夢を見続け精神が病んでいく事になる。


 控え室にてラファスと喋っていた男、ホバノールが頃合いを見計らって戻って来る。怖いもの見たさというか何というか。取り敢えず戻って来て絶句するしかない。
(何じゃこりゃあ……)
 何せあるのは拳大の石ころばかり。ここにコロシアムがあった痕跡が何一つない。あるのは拳大の石だけだ。
 アーヴェルは宙に浮いて難を凌いでいたが、他の三人はラファスに言われた通り、薄いシールドが掛けられてあるのみ。生きてはいるがその顔色は白を通り越し死んだような土気色だ。
 アーヴェルが地に降りてきて、ラファスに駆け寄る。

「あっ……あのっ!私と手合わせ願います!!」

 その言葉にホバノールは我が耳を疑った。
(おまっ……今のを一番近くで見てたんじゃないのかよ!!?死ぬ気かぁ?!)
 ラファスが眉間に皺を寄せる。
(ひぃ~~~!!)
 そんな中、アーヴェルは自己紹介を始める。

「申し遅れました。私は、聖騎士団特殊部隊配属のアーヴェル=デフォルトと言います。以後お見知り置きを!」

(……って、あの特部のぉ?!!)
 アーヴェルの名にホバノールが心底驚く。
(アーヴェル=デフォルトといえば、七才の頃に風の長と契約を交わし、全大陸一の腕で、最強の名を持つ天才児!まさか、そんな奴が目の前に!!)
 ラファスもアーヴェルに興味を抱く。

「……ラルファンス=フォーゼだ。お前があの全大陸一の腕と評される者か。いいだろう、受けて立つ」

(世界最強……。まぁあれ・・を上回る奴なんざ存在しないだろうが、どの程度になるのか興味がある。こいつはベルクスとかいうザコ馬鹿の腕前とは違い、そこそこ出来るからな)
 不意にラファスがホバノールへと顔を向ける。

「おっさん、立ち会い人を頼む。それと、あんたの剣を貸してくれ」
「私からもお願いします」

(バレてっし……。まぁ当然だろうが)
 ホバノールは諦めの溜め息を吐く。
(断ったら何されるか分かんねえしなぁ)
ホバノールは剣を鞘ままラファスに投げる。

「まぁその剣じゃやりにくそ……う?!」

 両手持ち剣を左手に、ホバノールの剣を右手に持ち、構えるラファス。

「おまっ……二刀流、なのか?!」
「本来はな」

 さらっと返すラファスに頭を抱えたくなるホバノール。
(ほっ……本来はって……じゃあさっきのは手抜きかぁ~~~?!?……ダメだ。考えちゃあいけねえ!考えるな俺!!)
 最早現実逃避するホバノールは試合を始める事だけを考える。

「じっ、じゃあ、俺、ホバノール=ハルゼンが立ち会い人を務めさせてもらう。両者、始め!」


 壮絶なバトルが始まる。
 アーヴェルが風を操りラファスに仕掛けるが、ラファスはさらりと受け流したり弾いたり。ラファスの攻撃はとても速く、とても重いが何とか風で剣をサポートしている状態のアーヴェル。アーヴェルはラファスの剣筋を捉える事が出来ないけれど、何とか風を読んで避ける事が出来る。アーヴェルですら見えないのだから、他の人はさっぱりだしアーヴェルとラファスのバトルが繰り広げられるのを呆然と、細かな動き自体を捉える事の出来ない試合を見てホバノールは思う。
(ラルファンスがベルクスをザコザコ言う筈だ。あれと比べたら話にならん。赤子とプロの差程もありそうだ。俺等は赤子以下だがな……。何でベルクスが聖剣士になれる、なんて思ってたんだ?次元自体違うじゃねえか……)
 アーヴェルが身を避けた瞬間を見計らってフェイントを仕掛け、バランスを崩したアーヴェルの急所にラファスが剣を寸止めさせる。

「参りました」

 アーヴェルが声を上げ、目で追えないホバノールが呆然と立ち尽くす中、その声にやっと反応出来、終了を告げる。

「しゅっ……終了!!勝者、ラルファンス=フォーゼに決定!」
「驚きました。一撃必殺の風を何度も放った筈なのに、貴方には全く効かないなんて……」

(ゲッ……。殺す気でやってたのかよ!)

「ああ、この剣は特別製でな、魔法を吸収する特技があるし、俺自身魔法の類いが効き辛い体質なんだ」
「そうなんですか。それは是非、私達の隊へ入って頂かないと♪」
「……もう一回言ってみろ……」
「ですから、私達の隊、特殊部隊へ入って頂きます!」
「断る!!」

 ラファスに即答されるがめげないアーヴェル。

「それは無理だと思います。貴方は私をも上回る実力者なのですから」
「なら他を当たれ!」
「万が一、貴方より上の実力者が現れても、貴方の入隊は既に決定しました」
「取り消せ!!」
「ですが、立ち会い人の元で決まりましたし」
「グルか?!」

 ギッと睨み付けるラファスに半泣きになりながらも必死で首を振るホバノール。

「……何故そこまで嫌がるんですか?」

(普通は喜ぶ筈なのに……)
 アーヴェルが不思議に思っているとラファスには当然の、他からすれば予想外の言葉をラファスが放つ。

「面倒臭いからだ!」

(そ……そんな理由?!)
 二人にとっては想定外な答えでも、ラファスにとっては重要だ。

「貴方の悪いようにはしませんから。諦めて下さい」
「既に悪いし諦められるか!!」

 アーヴェルは少し考える。

「……では、私を殺して行きますか?貴方の腕なら出来るでしょう。それなら隊に入る事にはなりません」

(おいおい。こいつはあの“赤”だぞ?!本当に殺されるっての!!)
 ホバノールは焦るがアーヴェルは淡々としたものだ。

「選択肢は二つ。私を殺すか隊に入るかです。貴方はどちらを選びますか?」

 ラファスは剣に手を掛ける。
(ダメだ、殺される!!!)
剣がアーヴェルの首のスレスレで止まる。その間アーヴェルは動かない。
 ラファスが溜め息一つ。

「……隊に入ってやる。お前は殺すには惜しい男だ。だが、俺は俺の好きなようにするぞ」

 ラファスの言葉にアーヴェルが笑顔になる。

「はい!」

 ホバノールは腰を抜かして地面にへたり込む。
(かっ……賭けに勝ちやがった……)

「ああ、ホバノールさん。貴方も入りませんか?特殊部隊は無理ですが、私の推薦があれば、聖騎士団には入れる筈です」

(こんなの、命が幾つあっても足りねぇよ)

「滅相もない。俺には無理だ」
「入れ」

 ラファスの目が、てめぇだけ断るなんざ許さねぇからなと脅す為、生きた心地がしないホバノール。

「……入ります」
「それは良かった。では早速手続きを♪」

(このアーヴェル=デフォルトも、相当な曲者だよ……)
 諦めの心境で、泣く泣く連行されるホバノール。


 その後聖騎士団で、彼は“不動のホバノール”と呼ばれる事になるのだった。
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