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第11話 魔王様、目の付け所が違います!
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あれから何時間経ったのだろうか。少なくとも一晩は寝ていないはずだが、肉体が全盛期の魔王の体だけに、体感があてにならない。おまけに研究にも没頭し過ぎた。あっという間に時間が過ぎたようにも感じるし、何時間も経っているような気もする。
つまり、時間の測定に失敗したという事だ。いや、そもそもこんな大事なことを体感に頼ろうとしたのが間違いだった。しかし、今日の発見が正しければ、ニホンはグッと近づく。そうすれば、日時計などに頼る必要なく時を知ることが出来るに違いない。
「いいか、エレナ。魔法の本質とはつまり、召喚だ」
腹ごしらえを終えて、俺はエレナに今日の発見を伝えた。
「召喚……ですか」
「例えばエレナは火の魔法を使う時どうしている?」
「え……、と、特別な事は何も……。ただ指先に魔力を集中して火を出そうと念じているだけですが」
「おそらくそれは、無意識のうちに“火”を召喚できているんだ。無意識に火を呼び出す魔法陣を思い浮かべて、魔力を媒介に」
そう、魔法とはつまり事象の召喚なのだ。何もないところから突然火や水や電気が発生するはずがない。物事には原因があって結果が生ずるのだ。
「俺としたことが、時空の行き来にとらわれ過ぎて魔法の根源を失念していたよ。俺達はもうすでに時空を超える魔法を使えているわけだ。マジックバッグにしたってそうだ。あれはどこか大きな空間を召喚しているのだろう」
「は、はぁ……」
「だが、問題はここからだ」
そう、この世界に存在する概念を召喚することと、そうでないものを召喚するのでは恐らく難易度が格段に違う。
「この世に存在しないものを召喚するためにはなるべく多くの共通認識を持つものが魔法を行使する必要がある」
「つ、つまり」
「ああ、俺達みたいな存在をなるべく集めたい」
なるべく多くの、チキュウ経験者を。そして、それは近代であればあるほど良い。
「しかし、どのようにして……? 我々が出会えたのも偶然と言うか奇跡のようなものでは? そもそもそんな者が他に存在するのでしょうか……」
「確かにな、そこについてはまだ考え中だ。バルバロムもどこかへ行ってしまったことだしな。だが、まあ色々試してみるに越したことはない」
ここにはエレナが居る。同じ国、同じ時期。共にチキュウに存在した二人が。一人よりは二人の方が複雑な物を召喚出来るはずだ。
「というわけで、食器を片付け終わったら早速実験に取り掛かりたい。手伝ってくれるな?」
「もちろんです! 私にお役にたてることであれば何なりと」
俺とエレナはさっさと食器を下げると、召喚魔法の準備に取り掛かった。こちらの世界にも召喚魔法はある。しかしそれはあくまでこの世界と、魔界や天界をつなぐもの。これをうまく応用すれば、自身をどこかに召喚することも可能だ。これを突き詰めれば、チキュウからの召喚やチキュウへの自身の召喚も可能になるはずだ。
「では早速、そうだな。試しに本を召喚してみよう。出来るだけ簡素な」
「わ、私はどうすれば……」
「出来るだけ詳細にイメージしてくれ。本の姿を。そうだな、ここはイメージしやすい『桃太郎』の絵本で試してみよう」
「なるほど。まずは簡単な物から徐々に難易度を上げていくわけですね」
「その通りだ。よし、イメージできたか?」
俺は普段の魔法で、対象に当たる部分を出来るだけ明確にイメージするように念じた。絵本絵本絵本絵本……。普段、炎や氷をイメージしている部分を絵本に変えるだけだ。そう難しいことではないはずだ。後は、召喚の代償に供物等を用意するのだが、今回は城から持ってきた魔石と我々の魔力だけでやってみることにしよう。これらだけでは当然足りないだろうが、何事もまずは実験からだ。
「ぬうううううううう!!!」
「はああああああ!!」
俺達の念じる力で僅かに力場が歪む。空中に小さな魔方陣が現れ、光の粒子の中から何かが象られていく。
「いいぞ! もう少しだ!」
「はい! ミルド様!!」
そうしてもうすぐ成功するかと思われた次の瞬間、パスッと情けない音を立てて魔方陣が消滅した。
「何!?」
「きゃっ!?」
力の反動によるものか、僅かに生暖かい風が頬を撫でていくが、目的の物はそこに現れていない。やはり、まだ異世界へのアクセスは早すぎたか、と肩を落としかけたその時、エレナが空中を指して叫んだ。
「ミルド様! あれを!」
その指先にはヒラリヒラリとさまようように漂う一枚の小さな紙。
「お……、おお!!」
それはやがてリビングに据え付けたテーブルの上にフワリと舞い降りた。
「紙……、まごうことなき紙だ!」
「ええ……、ええ……!!」
テーブルに乗ったその物体をつまんで感触を確かめてみた。大きさにして紙吹雪のひとかけら程だが、チキュウで慣れ親しんだこの硬いサラサラとした手触り。正直言って、大量に生産できない限り羊皮紙に比べて大きなメリットは無いのだが、それでもこの世界にやってきたチキュウ文明の第一歩だ。
「やはり、最初からそう全てが上手くいくわけがないとは思っていたが」
「しかし、異世界からの召喚が成功した、という事実は大きいです」
「ふむ、それはそうだな」
今後の課題としては必要な代償の確認とその省力化。適切でより洗練されたな魔方陣の構築と、さらに具体的な対象イメージの確立。問題は山ほどある。だが、ひとまずは。
「エレナよ、協力感謝する。俺だけでは恐らく魔力も想像力も足りなかっただろう」
「もったいなきお言葉です」
エレナは深々と頭を下げた。しかし、頭を下げたいのはこちらも同じだ。膨大な魔力消費にチキュウをイメージする力。その両方がエレナの協力なしでは全く足りていなかっただろう。
「よし、段々目標が明確になってきた。我々を蘇らせた存在が何をさせたいのか見当もつかないが、我らは我らで好きに第三の人生を楽しもうではないか」
「はい! ミルド様!」
こうして、オリオールチキュウ化計画(仮)の第一歩に目途を付けた俺は、不眠不休で研究していた反動からか、そのあと泥のように眠った。
つまり、時間の測定に失敗したという事だ。いや、そもそもこんな大事なことを体感に頼ろうとしたのが間違いだった。しかし、今日の発見が正しければ、ニホンはグッと近づく。そうすれば、日時計などに頼る必要なく時を知ることが出来るに違いない。
「いいか、エレナ。魔法の本質とはつまり、召喚だ」
腹ごしらえを終えて、俺はエレナに今日の発見を伝えた。
「召喚……ですか」
「例えばエレナは火の魔法を使う時どうしている?」
「え……、と、特別な事は何も……。ただ指先に魔力を集中して火を出そうと念じているだけですが」
「おそらくそれは、無意識のうちに“火”を召喚できているんだ。無意識に火を呼び出す魔法陣を思い浮かべて、魔力を媒介に」
そう、魔法とはつまり事象の召喚なのだ。何もないところから突然火や水や電気が発生するはずがない。物事には原因があって結果が生ずるのだ。
「俺としたことが、時空の行き来にとらわれ過ぎて魔法の根源を失念していたよ。俺達はもうすでに時空を超える魔法を使えているわけだ。マジックバッグにしたってそうだ。あれはどこか大きな空間を召喚しているのだろう」
「は、はぁ……」
「だが、問題はここからだ」
そう、この世界に存在する概念を召喚することと、そうでないものを召喚するのでは恐らく難易度が格段に違う。
「この世に存在しないものを召喚するためにはなるべく多くの共通認識を持つものが魔法を行使する必要がある」
「つ、つまり」
「ああ、俺達みたいな存在をなるべく集めたい」
なるべく多くの、チキュウ経験者を。そして、それは近代であればあるほど良い。
「しかし、どのようにして……? 我々が出会えたのも偶然と言うか奇跡のようなものでは? そもそもそんな者が他に存在するのでしょうか……」
「確かにな、そこについてはまだ考え中だ。バルバロムもどこかへ行ってしまったことだしな。だが、まあ色々試してみるに越したことはない」
ここにはエレナが居る。同じ国、同じ時期。共にチキュウに存在した二人が。一人よりは二人の方が複雑な物を召喚出来るはずだ。
「というわけで、食器を片付け終わったら早速実験に取り掛かりたい。手伝ってくれるな?」
「もちろんです! 私にお役にたてることであれば何なりと」
俺とエレナはさっさと食器を下げると、召喚魔法の準備に取り掛かった。こちらの世界にも召喚魔法はある。しかしそれはあくまでこの世界と、魔界や天界をつなぐもの。これをうまく応用すれば、自身をどこかに召喚することも可能だ。これを突き詰めれば、チキュウからの召喚やチキュウへの自身の召喚も可能になるはずだ。
「では早速、そうだな。試しに本を召喚してみよう。出来るだけ簡素な」
「わ、私はどうすれば……」
「出来るだけ詳細にイメージしてくれ。本の姿を。そうだな、ここはイメージしやすい『桃太郎』の絵本で試してみよう」
「なるほど。まずは簡単な物から徐々に難易度を上げていくわけですね」
「その通りだ。よし、イメージできたか?」
俺は普段の魔法で、対象に当たる部分を出来るだけ明確にイメージするように念じた。絵本絵本絵本絵本……。普段、炎や氷をイメージしている部分を絵本に変えるだけだ。そう難しいことではないはずだ。後は、召喚の代償に供物等を用意するのだが、今回は城から持ってきた魔石と我々の魔力だけでやってみることにしよう。これらだけでは当然足りないだろうが、何事もまずは実験からだ。
「ぬうううううううう!!!」
「はああああああ!!」
俺達の念じる力で僅かに力場が歪む。空中に小さな魔方陣が現れ、光の粒子の中から何かが象られていく。
「いいぞ! もう少しだ!」
「はい! ミルド様!!」
そうしてもうすぐ成功するかと思われた次の瞬間、パスッと情けない音を立てて魔方陣が消滅した。
「何!?」
「きゃっ!?」
力の反動によるものか、僅かに生暖かい風が頬を撫でていくが、目的の物はそこに現れていない。やはり、まだ異世界へのアクセスは早すぎたか、と肩を落としかけたその時、エレナが空中を指して叫んだ。
「ミルド様! あれを!」
その指先にはヒラリヒラリとさまようように漂う一枚の小さな紙。
「お……、おお!!」
それはやがてリビングに据え付けたテーブルの上にフワリと舞い降りた。
「紙……、まごうことなき紙だ!」
「ええ……、ええ……!!」
テーブルに乗ったその物体をつまんで感触を確かめてみた。大きさにして紙吹雪のひとかけら程だが、チキュウで慣れ親しんだこの硬いサラサラとした手触り。正直言って、大量に生産できない限り羊皮紙に比べて大きなメリットは無いのだが、それでもこの世界にやってきたチキュウ文明の第一歩だ。
「やはり、最初からそう全てが上手くいくわけがないとは思っていたが」
「しかし、異世界からの召喚が成功した、という事実は大きいです」
「ふむ、それはそうだな」
今後の課題としては必要な代償の確認とその省力化。適切でより洗練されたな魔方陣の構築と、さらに具体的な対象イメージの確立。問題は山ほどある。だが、ひとまずは。
「エレナよ、協力感謝する。俺だけでは恐らく魔力も想像力も足りなかっただろう」
「もったいなきお言葉です」
エレナは深々と頭を下げた。しかし、頭を下げたいのはこちらも同じだ。膨大な魔力消費にチキュウをイメージする力。その両方がエレナの協力なしでは全く足りていなかっただろう。
「よし、段々目標が明確になってきた。我々を蘇らせた存在が何をさせたいのか見当もつかないが、我らは我らで好きに第三の人生を楽しもうではないか」
「はい! ミルド様!」
こうして、オリオールチキュウ化計画(仮)の第一歩に目途を付けた俺は、不眠不休で研究していた反動からか、そのあと泥のように眠った。
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