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第28話 ゲンカイジャー、NewTuberとも戦う⑤
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「ハハハ! どうだ! 役に立つだろう! 俺も!」
「うーん、強い男は好きだけど自己主張が、って意味じゃないのよねぇ」
スライムの襲撃を受けながら軽口を流す二人。ゲンカイジャーきっての力持ち、ゲンカイイエローことアンコと、格闘系NewTuber、タクティカル岩田である。
「肉体的な強さもあるだろ、ほら!」
タクティカル岩田はそう言うと、たまたま草野球へ向かう途中で手にしていたという金属製のバットを振り回した。
「ぶにぃっ!!」
「ハッハッハ! これならゴブリンやオークも余裕だな!」
確かに、岩田はアンコほどではないにしろ恵まれた体格をしていたし、傭兵時代の経験の裏付けもある。その他の現場に現れているNewTuberよりは余程役に立っていた。だが、相手はスライムである。一般人の中にも警察の制止を振り切って戦っているものがいるし、結果勝利を収めている者も少なくない。
岩田は慢心しきっていた。こんな楽な敵を相手に配信出来てしかも驚異的な注目を集める事が出来るのだ。上手く立ち回れば一生を安泰に暮らせるほどの収入を得る事も不可能ではない。ここで名を売っておけば、コメンテーターとして安全な場所から物申す事も出来る。岩田の皮算用は人知れず加速していった。
「ま、オークぐらいなら大丈夫かもしれないけどゴーレムなんかが出てきたらすぐ逃げるのよ」
「ハッ! ソイツも想定済みよ! 俺の戦闘能力をとくと見よ! ってな!」
アンコは溢れかえるスライムを片っ端から処理していたが、他のゲンカイジャーとの会話の中で言い知れぬ不安を抱いていた。アンコはゲンカイジャーに加わってからそう多くの戦闘を経験したわけではない。だが、キワム達の話を聞いたり動画を見る限り、敵の狙いは侵攻と領地の確保を目的としていたはずだ。
序盤こそ地球側の戦力を侮っていた節があるが、最近ではきちんと特性を分けた徒党を組ませていた、とアンコは思う。斥候と前衛後衛。召喚できる物量に制限がある中で、それなりの工夫が出てきた、と感じていたにも関わらず。スライムを大量に送り込んだからと言って領地の維持が可能とは到底思えない。
敵に何か策があるとすれば、今の渋谷の状況は最悪と言えた。
「ベアリーちゃん。魔素が濃いところって無い?」
『待ってください……。二箇所、極端に濃いところがあります! 一つは……イエロー! あなたの近くです!』
「あらあら」
アンコは現役時代にはほとんど感じた事の無い、何か冷たいものが背中を這う感覚を感じた。
自分の特性は紛れもなく“攻”だ。もし仮に、この場に強敵が現れたとして、スライムを倒して興奮状態にある一般人を守りながら戦えるだろうか。敵が近づかなくても守る対象が近づいていくのだ。グリーンの様に素早く動けるわけではない自分に、それが可能か。アンコは呼吸を整え、両手で顔を張った。
「フフフ。漢は根性、女は度胸。やるっきゃないわね」
このままでは、いずれ守に回されるのは自明。暴走する一般人を御して守勢に回るのは詰みしか待っていない。ならば、こちらから出向くほか選択肢は無い。
“おお、イエローが本気出すぞ”
“と、闘気が見えるでごわす”
“あれ? 変だな画面が熱い?”
「手強いのが来るわよ! みんな! 逃げなさい!!」
「そうだ! 一般人は逃げろよ!」
「貴方もよ♡」
「へ?」
アンコは片手で岩田を掴むと、優しく放り投げた。
「お、おわあああああああああっ!!!」
岩田は見る間に吹き飛んでいった。
「さて、行くわよ」
アンコはベアリーの導きで魔素発生装置が設置されているらしき方向へ進んだ。立ち並ぶビルを抜け、都会にぽっかりと出来た死角のような広場。そこで、ソレは魔素を吸収しながら佇んでいた。
「ゴァガガガガガ……」
以前に立ち会ったゴーレムとは明らかに違う。黒曜石の様な輝きを放つソレは、アンコを見つけると静かに立ち上がり、ゲンカイイエローに向けて敵意を露わにした。異様な巨体に、刺々しい肩。一歩踏み出せばそれはさながら歩く砦のようでもあった。
『ダークゴーレム! 見た通り、ゴーレムの強化種です!』
ベアリーからの通信に、フフンと鼻を鳴らすアンコ。
「滾るじゃあないの……。再戦ってわけね」
腕をクルクルと回すと、ゆっくりとダークゴーレムの下へ歩を進める。一歩、また一歩と互いの距離が縮まる。互いの制空圏が触れ合おうかという正にその時、アンコは腰を低く落とし、ダークゴーレムに組み合った。
硬い。アンコの第一印象はその一言だった。硬くて重い。それは、鉄塊を相手に組稽古を行うかの如く。
アンコの胸に一つ、現役時代の立ち合いが去来した。
当時無敵無敗で連勝街道を驀進していたアンコこと、玉聖があわや土を着けられるかという一戦。極武山との対戦だ。後にも先にも、玉聖を土俵際まで追い詰めたのは彼一人だった。
現、横綱である。
玉聖を除けば、歴代最強とも謳われる彼との立ち合いはアンコが冷や汗を流すに値する好勝負だった。かつての難局を思い、アンコは笑う。
「ウフフ……、たまらないじゃない! ダークゴーレムちゃん!」
アンコはダークゴーレムを突き飛ばすと、『国崩し』と呼ばれた張り手を腹部らしき辺りに打ち据えた。
「ダメージ、なのかしらそれ」
ダークゴーレムの腹部はゲンカイガントレットの手の平状に凹んでいた。
「グァガガ」
痛みの見えない文字通り鉄面皮。アンコは休むことなく攻撃を続けるしか選択肢が無い。
“見入ってしもた”
“なんかすごいもん見てないかコレ”
“同接100万人やと……?”
“大都会渋谷ですからねぇ。世界も注目しますわ”
「グオォア!!」
ダークゴーレムは腕を振り下ろし、アンコの頭蓋を狙う。アンコは両腕を交差しそれを防ぐが、地面にめり込むほどの衝撃が全身を突き抜ける。
「くっ……、あぁぁぁぁぁっ!!」
いなすように、振り下ろされた拳を払い、ダークゴーレムの足へ張り手を一撃。
「ゴォォォォォォ」
痛覚をシャットアウトされたかの如く、ダークゴーレムは躊躇いなくその足を振り上げ、アンコの顎を跳ね上げた。
「ぐぅっ!! 痛い……わね!!」
アンコも執拗に足を狙う。弱点が見えないなら作るしかない。手当たり次第にぶちかますより、一点集中でバランスを崩した方が良いと考えたからだ。
「どっこいしょおおおおっ!!」
やがてダークゴーレムの膝はひしゃげて崩れ落ちる様に地面についた。それでもなお、ダークゴーレムに弱体化の兆しは見えない。膝を摺りながら前進するダークゴーレム。
距離を取り、深呼吸を一つ。
ここからは武の理を外れた単純な力、鉄拳と張り手の応酬。暴風のように砂塵を巻き上げ、一人と一体はぶつかり合う。
“頑張れ! 頑張れ! ゲンカイイエロー!!”
“うおおおおおおおお”
“負けるなあああああ”
やがて、二人を包む砂塵が緩やかに晴れた時。
一人と一体の内、先に手を地ついていたのは
イエローだった。
“そんな……”
“マジかよ”
“嘘……だろ?”
「ハァッ……ハァッ……ハァッ……」
「グゥオオガアァァ!」
ダークゴーレムは一切の感情なく拳を振り下ろした。
「うーん、強い男は好きだけど自己主張が、って意味じゃないのよねぇ」
スライムの襲撃を受けながら軽口を流す二人。ゲンカイジャーきっての力持ち、ゲンカイイエローことアンコと、格闘系NewTuber、タクティカル岩田である。
「肉体的な強さもあるだろ、ほら!」
タクティカル岩田はそう言うと、たまたま草野球へ向かう途中で手にしていたという金属製のバットを振り回した。
「ぶにぃっ!!」
「ハッハッハ! これならゴブリンやオークも余裕だな!」
確かに、岩田はアンコほどではないにしろ恵まれた体格をしていたし、傭兵時代の経験の裏付けもある。その他の現場に現れているNewTuberよりは余程役に立っていた。だが、相手はスライムである。一般人の中にも警察の制止を振り切って戦っているものがいるし、結果勝利を収めている者も少なくない。
岩田は慢心しきっていた。こんな楽な敵を相手に配信出来てしかも驚異的な注目を集める事が出来るのだ。上手く立ち回れば一生を安泰に暮らせるほどの収入を得る事も不可能ではない。ここで名を売っておけば、コメンテーターとして安全な場所から物申す事も出来る。岩田の皮算用は人知れず加速していった。
「ま、オークぐらいなら大丈夫かもしれないけどゴーレムなんかが出てきたらすぐ逃げるのよ」
「ハッ! ソイツも想定済みよ! 俺の戦闘能力をとくと見よ! ってな!」
アンコは溢れかえるスライムを片っ端から処理していたが、他のゲンカイジャーとの会話の中で言い知れぬ不安を抱いていた。アンコはゲンカイジャーに加わってからそう多くの戦闘を経験したわけではない。だが、キワム達の話を聞いたり動画を見る限り、敵の狙いは侵攻と領地の確保を目的としていたはずだ。
序盤こそ地球側の戦力を侮っていた節があるが、最近ではきちんと特性を分けた徒党を組ませていた、とアンコは思う。斥候と前衛後衛。召喚できる物量に制限がある中で、それなりの工夫が出てきた、と感じていたにも関わらず。スライムを大量に送り込んだからと言って領地の維持が可能とは到底思えない。
敵に何か策があるとすれば、今の渋谷の状況は最悪と言えた。
「ベアリーちゃん。魔素が濃いところって無い?」
『待ってください……。二箇所、極端に濃いところがあります! 一つは……イエロー! あなたの近くです!』
「あらあら」
アンコは現役時代にはほとんど感じた事の無い、何か冷たいものが背中を這う感覚を感じた。
自分の特性は紛れもなく“攻”だ。もし仮に、この場に強敵が現れたとして、スライムを倒して興奮状態にある一般人を守りながら戦えるだろうか。敵が近づかなくても守る対象が近づいていくのだ。グリーンの様に素早く動けるわけではない自分に、それが可能か。アンコは呼吸を整え、両手で顔を張った。
「フフフ。漢は根性、女は度胸。やるっきゃないわね」
このままでは、いずれ守に回されるのは自明。暴走する一般人を御して守勢に回るのは詰みしか待っていない。ならば、こちらから出向くほか選択肢は無い。
“おお、イエローが本気出すぞ”
“と、闘気が見えるでごわす”
“あれ? 変だな画面が熱い?”
「手強いのが来るわよ! みんな! 逃げなさい!!」
「そうだ! 一般人は逃げろよ!」
「貴方もよ♡」
「へ?」
アンコは片手で岩田を掴むと、優しく放り投げた。
「お、おわあああああああああっ!!!」
岩田は見る間に吹き飛んでいった。
「さて、行くわよ」
アンコはベアリーの導きで魔素発生装置が設置されているらしき方向へ進んだ。立ち並ぶビルを抜け、都会にぽっかりと出来た死角のような広場。そこで、ソレは魔素を吸収しながら佇んでいた。
「ゴァガガガガガ……」
以前に立ち会ったゴーレムとは明らかに違う。黒曜石の様な輝きを放つソレは、アンコを見つけると静かに立ち上がり、ゲンカイイエローに向けて敵意を露わにした。異様な巨体に、刺々しい肩。一歩踏み出せばそれはさながら歩く砦のようでもあった。
『ダークゴーレム! 見た通り、ゴーレムの強化種です!』
ベアリーからの通信に、フフンと鼻を鳴らすアンコ。
「滾るじゃあないの……。再戦ってわけね」
腕をクルクルと回すと、ゆっくりとダークゴーレムの下へ歩を進める。一歩、また一歩と互いの距離が縮まる。互いの制空圏が触れ合おうかという正にその時、アンコは腰を低く落とし、ダークゴーレムに組み合った。
硬い。アンコの第一印象はその一言だった。硬くて重い。それは、鉄塊を相手に組稽古を行うかの如く。
アンコの胸に一つ、現役時代の立ち合いが去来した。
当時無敵無敗で連勝街道を驀進していたアンコこと、玉聖があわや土を着けられるかという一戦。極武山との対戦だ。後にも先にも、玉聖を土俵際まで追い詰めたのは彼一人だった。
現、横綱である。
玉聖を除けば、歴代最強とも謳われる彼との立ち合いはアンコが冷や汗を流すに値する好勝負だった。かつての難局を思い、アンコは笑う。
「ウフフ……、たまらないじゃない! ダークゴーレムちゃん!」
アンコはダークゴーレムを突き飛ばすと、『国崩し』と呼ばれた張り手を腹部らしき辺りに打ち据えた。
「ダメージ、なのかしらそれ」
ダークゴーレムの腹部はゲンカイガントレットの手の平状に凹んでいた。
「グァガガ」
痛みの見えない文字通り鉄面皮。アンコは休むことなく攻撃を続けるしか選択肢が無い。
“見入ってしもた”
“なんかすごいもん見てないかコレ”
“同接100万人やと……?”
“大都会渋谷ですからねぇ。世界も注目しますわ”
「グオォア!!」
ダークゴーレムは腕を振り下ろし、アンコの頭蓋を狙う。アンコは両腕を交差しそれを防ぐが、地面にめり込むほどの衝撃が全身を突き抜ける。
「くっ……、あぁぁぁぁぁっ!!」
いなすように、振り下ろされた拳を払い、ダークゴーレムの足へ張り手を一撃。
「ゴォォォォォォ」
痛覚をシャットアウトされたかの如く、ダークゴーレムは躊躇いなくその足を振り上げ、アンコの顎を跳ね上げた。
「ぐぅっ!! 痛い……わね!!」
アンコも執拗に足を狙う。弱点が見えないなら作るしかない。手当たり次第にぶちかますより、一点集中でバランスを崩した方が良いと考えたからだ。
「どっこいしょおおおおっ!!」
やがてダークゴーレムの膝はひしゃげて崩れ落ちる様に地面についた。それでもなお、ダークゴーレムに弱体化の兆しは見えない。膝を摺りながら前進するダークゴーレム。
距離を取り、深呼吸を一つ。
ここからは武の理を外れた単純な力、鉄拳と張り手の応酬。暴風のように砂塵を巻き上げ、一人と一体はぶつかり合う。
“頑張れ! 頑張れ! ゲンカイイエロー!!”
“うおおおおおおおお”
“負けるなあああああ”
やがて、二人を包む砂塵が緩やかに晴れた時。
一人と一体の内、先に手を地ついていたのは
イエローだった。
“そんな……”
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