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第二章
第16話 魔石って質の悪い宝石としてアクセサリーに使っているけど、魔法の発動にも使えるんじゃない?
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『人間の吐く息って、また吸えるんじゃないかって思わない?』
『吸えないんですか?』
『そうなのよね。これを研究した龍がいるんだけど、吐いた息と吸う息の違いって、ダイヤの成分が含まれていたんだって判明したのよ。』
『炭素でしたっけ。』
『ええ。だから、吐いた息から炭素を除去すれば、また吸える空気になるんだって。』
『じゃあ、月まで行っても大丈夫ってこと?』
『他にも色々とあるらしいのよ。』
『色々って?』
『ものすごく寒くって、目に見えない毒みたいな波動が降り注いでいるんだって言ってたわ。』
『それって、月まで行く意味無さそうじゃない。』
『だから、さっき伝言を頼んだの。こっちに来てくれるようにってね。』
北の町ソラリスで武具をそろえた私は、帰ってきてからパンを食べ終わったところです。
ロングソードは重くて私には振れませんでした。
そのため、ナイフよりも長くて細身の短刀を買いました。
防具は革の胸当てです。
他にも革の手甲や肩までの癖っ毛をまとめるリボンなんかも買いました。
それから2日後の夜中にシルバードラゴンのアキさんがやってきました。
『来たわよ。洞窟で待っているわ。』
『ありがとう。すぐに行くわ。』
ベッドから降りて着替え洞窟までいくと、奥の一段高くなった場所に銀色の龍が浮いていました。
大きさは7m程だと思います。
『わざわざ来てもらって悪いわね。』
『女帝様のご要望ですからね。問題ないですわ。』
『早速なんだけど、私と同調して感覚を共有できるかしら。』
リーズの指示で、アキさんの頭に手を置いて身体も密着させます。
『これでいいかしら?』
『じゃあ、行くわよ。』
『何を……、えっ!』
『モグモグ……私の感じている味が伝わるかな?』
『こ、こんな……、ああ、食べるって……こういう事なの……。』
『これは普段の食事とは違って、楽しむための食事なのよ。』
『今食べているのは何ですの?』
『小麦の粉を水で練って、生地を作ってから、中にチーズとミルクとタマゴと砂糖を混ぜたものを詰めて焼いたタルトという菓子よ。美味しいでしょ。』
『ああ、口の中に広がる優しい味と香り。サクサクした生地と、ねっとりした中身。この触感の違いも楽しいですわ。』
『こういう楽しみの追及は、竜人にはないものよね。人間だけの特性よ。』
『リーズ。人間と融合して楽しそうね。』
『毎日が新しいことの発見ですからね。楽しくて仕方ないわ。』
『まさか、こんな方法で人間の感覚を共有できるとは思わなかったわ。もしかして、パーティーで披露するの?』
『パーティーね……考えてなかったけど、それも面白そうね。』
『複数の龍が同時に共有可能かどうか、事前調査が必要よね。……それで、私を呼んだ本当の理由は何かしら?』
『パーティーにも影響するかもなんだけど、食材を作った状態で保存できないかと思って来てもらったのよ。』
『時間凍結庫ね。』
『時間凍結?』
『私が命名したのよ。結論からいうと、命あるものの時間を止める事は出来なかったわ。』
『植物も?』
『そう。ただし、種や果実は生命活動が休止の状態だから、時間の停止は可能だったわ。』
『それって、箱とか部屋とかに展開できるのかしら?』
『そこなんだけどね。視覚的に認識できる空間なら展開可能よ。壁に囲まれた空間なら大丈夫だけど、柱だけで区画されたところは空間として確立されていないって感じだと思うわ。』
『じゃあ、荷馬車とかでも大丈夫なのね。』
『停止している間はね。』
『えっ?』
『箱でもそうなんだけど、動いた瞬間に解除されちゃうの。あなたも知っているように、星としては絶えず動いているはずだから、絶対的な静止じゃなく、術者の感覚に左右されるのかもね。』
『そんなの使えないじゃないのよ!』
『わたしがそこで終わらせると思う?』
『そ、そうよね。アキちゃんだものね。』
『対価は?』
『くっ……、やっぱりアキちゃんよね。』
『そうよ。ただ働きは御免だわ。』
『……月に1回、新しい味を共有するわ。もちろん、厳選したものを。』
『2種類の味でお願い。』
『わかった。』
『移動すると解除されてしまうのなら、場所は固定しておいてどこからでも出し入れできるようにすればいいのよ。』
『まさか、2空間の連結に成功したっていうの!』
『そういうこと。私のいる月の裏側に長さ50km幅2km前後で高さ50m程の地下空洞を見つけたから、そこを強化して時間凍結庫にしてあるわ。』
『もう作ってあるのね。』
『そこへのアクセスゲートをこのポシェットに設定してあるわ。』
『えっ、こんなに小さい口じゃ何も入れられないわ。』
『実際にここから出し入れする訳じゃないのよ。引き寄せの呪文アトラクトを使っているから、これは単なるゲートよ。これを開いてイメージすれば引き出せるし、入れるものに触りながらゲートを開けば凍結庫に送れるわ。』
ポーチの口を開いた中身は、淡い色の虹が渦巻いている感じでどこまでも引き込まれていく感じがしました。
『リーズの魔力を認識させたから、他の人間には使えないわ。』
『ありがとう!』
『ねえアキちゃん。』
『何?』
『もしかしてこれを使えば、瞬間移動もできるんじゃないの?』
『あっ、それは考えていなかったわ。ちょっと待ってね。』
アキさんは洞窟の壁に爪で文字を刻んでいきます。
10分ほど経ってアキさんがそこに魔力を流し込むと、その一画はポーチと同じように淡い虹色の渦が巻いているトンネルのような感じになりました。
直径3mほどの穴はアキさんの身体が十分に通れる大きさです。
『まだ向こう側を作っていないから使わないでね。』
『開通したら、念話も使えるようになるのかな?』
『念話が通じるのって、5kmくらいよね。帰ったら試してみるわ。』
こうしてアキさんは帰っていきました。
2日後にはゲートが開通して頻繁に行き来できるようになるんですけどね。
私はソラリスに飛んで、焼きたてパンの追加発注をお願いしました。
もちろん、リーズの好物であるクルミパンも含めてお願いします。
『うちのパンを気に入ってくれて嬉しいよ。』
店主のゴンさんはマッチョで逞しい男性でした。
最初に対応してくれたサーシャさんとはご夫婦で、幼馴染なんだそうです。
二人はこの町の施設で育ててもらった孤児で、忙しい時には施設から子供たちが応援に来ているそうです。
店の保冷庫に使っている氷は、施設の子供が作っていると聞いています。
ジャムやバターなどの他に、タマゴやソーセージ、ヨーグルトにミルクなど、冷温保存が望ましいものは多いと聞きました。
『ねえリーズ。』
『なに?』
『魔物がたまに落とす魔石って、魔力の塊だって言ってたわよね。』
『ええ、そうよ。厳密には魔力が結晶化したものね。』
『魔石から魔力を取り出して魔法を使うことはできないの?』
『別に、自分の魔力があるんだから、そんなの必要ないじゃない。』
『違うのよ。常に冷やしておきたい保冷庫って、今は氷を作り置きして冷やすじゃない。そういうのじゃなくて、常時冷風が噴き出す道具があったら便利じゃない。』
『言いたいことは分かるけど……。』
『それに、瞬間冷凍したものを、そのまま冷凍状態で保管できる冷凍庫も、あったら便利でしょ。』
『時間凍結庫があるんだから、それも要らないわよ。』
『私たちには必要ないけど、人間には必要だと思わない?』
『まあ、そうかもしれないけど……。』
そんな事を考えながら、私たちは竜人の里をあとにして帰路につきました。
【あとがき】
魔道具の構想。
『吸えないんですか?』
『そうなのよね。これを研究した龍がいるんだけど、吐いた息と吸う息の違いって、ダイヤの成分が含まれていたんだって判明したのよ。』
『炭素でしたっけ。』
『ええ。だから、吐いた息から炭素を除去すれば、また吸える空気になるんだって。』
『じゃあ、月まで行っても大丈夫ってこと?』
『他にも色々とあるらしいのよ。』
『色々って?』
『ものすごく寒くって、目に見えない毒みたいな波動が降り注いでいるんだって言ってたわ。』
『それって、月まで行く意味無さそうじゃない。』
『だから、さっき伝言を頼んだの。こっちに来てくれるようにってね。』
北の町ソラリスで武具をそろえた私は、帰ってきてからパンを食べ終わったところです。
ロングソードは重くて私には振れませんでした。
そのため、ナイフよりも長くて細身の短刀を買いました。
防具は革の胸当てです。
他にも革の手甲や肩までの癖っ毛をまとめるリボンなんかも買いました。
それから2日後の夜中にシルバードラゴンのアキさんがやってきました。
『来たわよ。洞窟で待っているわ。』
『ありがとう。すぐに行くわ。』
ベッドから降りて着替え洞窟までいくと、奥の一段高くなった場所に銀色の龍が浮いていました。
大きさは7m程だと思います。
『わざわざ来てもらって悪いわね。』
『女帝様のご要望ですからね。問題ないですわ。』
『早速なんだけど、私と同調して感覚を共有できるかしら。』
リーズの指示で、アキさんの頭に手を置いて身体も密着させます。
『これでいいかしら?』
『じゃあ、行くわよ。』
『何を……、えっ!』
『モグモグ……私の感じている味が伝わるかな?』
『こ、こんな……、ああ、食べるって……こういう事なの……。』
『これは普段の食事とは違って、楽しむための食事なのよ。』
『今食べているのは何ですの?』
『小麦の粉を水で練って、生地を作ってから、中にチーズとミルクとタマゴと砂糖を混ぜたものを詰めて焼いたタルトという菓子よ。美味しいでしょ。』
『ああ、口の中に広がる優しい味と香り。サクサクした生地と、ねっとりした中身。この触感の違いも楽しいですわ。』
『こういう楽しみの追及は、竜人にはないものよね。人間だけの特性よ。』
『リーズ。人間と融合して楽しそうね。』
『毎日が新しいことの発見ですからね。楽しくて仕方ないわ。』
『まさか、こんな方法で人間の感覚を共有できるとは思わなかったわ。もしかして、パーティーで披露するの?』
『パーティーね……考えてなかったけど、それも面白そうね。』
『複数の龍が同時に共有可能かどうか、事前調査が必要よね。……それで、私を呼んだ本当の理由は何かしら?』
『パーティーにも影響するかもなんだけど、食材を作った状態で保存できないかと思って来てもらったのよ。』
『時間凍結庫ね。』
『時間凍結?』
『私が命名したのよ。結論からいうと、命あるものの時間を止める事は出来なかったわ。』
『植物も?』
『そう。ただし、種や果実は生命活動が休止の状態だから、時間の停止は可能だったわ。』
『それって、箱とか部屋とかに展開できるのかしら?』
『そこなんだけどね。視覚的に認識できる空間なら展開可能よ。壁に囲まれた空間なら大丈夫だけど、柱だけで区画されたところは空間として確立されていないって感じだと思うわ。』
『じゃあ、荷馬車とかでも大丈夫なのね。』
『停止している間はね。』
『えっ?』
『箱でもそうなんだけど、動いた瞬間に解除されちゃうの。あなたも知っているように、星としては絶えず動いているはずだから、絶対的な静止じゃなく、術者の感覚に左右されるのかもね。』
『そんなの使えないじゃないのよ!』
『わたしがそこで終わらせると思う?』
『そ、そうよね。アキちゃんだものね。』
『対価は?』
『くっ……、やっぱりアキちゃんよね。』
『そうよ。ただ働きは御免だわ。』
『……月に1回、新しい味を共有するわ。もちろん、厳選したものを。』
『2種類の味でお願い。』
『わかった。』
『移動すると解除されてしまうのなら、場所は固定しておいてどこからでも出し入れできるようにすればいいのよ。』
『まさか、2空間の連結に成功したっていうの!』
『そういうこと。私のいる月の裏側に長さ50km幅2km前後で高さ50m程の地下空洞を見つけたから、そこを強化して時間凍結庫にしてあるわ。』
『もう作ってあるのね。』
『そこへのアクセスゲートをこのポシェットに設定してあるわ。』
『えっ、こんなに小さい口じゃ何も入れられないわ。』
『実際にここから出し入れする訳じゃないのよ。引き寄せの呪文アトラクトを使っているから、これは単なるゲートよ。これを開いてイメージすれば引き出せるし、入れるものに触りながらゲートを開けば凍結庫に送れるわ。』
ポーチの口を開いた中身は、淡い色の虹が渦巻いている感じでどこまでも引き込まれていく感じがしました。
『リーズの魔力を認識させたから、他の人間には使えないわ。』
『ありがとう!』
『ねえアキちゃん。』
『何?』
『もしかしてこれを使えば、瞬間移動もできるんじゃないの?』
『あっ、それは考えていなかったわ。ちょっと待ってね。』
アキさんは洞窟の壁に爪で文字を刻んでいきます。
10分ほど経ってアキさんがそこに魔力を流し込むと、その一画はポーチと同じように淡い虹色の渦が巻いているトンネルのような感じになりました。
直径3mほどの穴はアキさんの身体が十分に通れる大きさです。
『まだ向こう側を作っていないから使わないでね。』
『開通したら、念話も使えるようになるのかな?』
『念話が通じるのって、5kmくらいよね。帰ったら試してみるわ。』
こうしてアキさんは帰っていきました。
2日後にはゲートが開通して頻繁に行き来できるようになるんですけどね。
私はソラリスに飛んで、焼きたてパンの追加発注をお願いしました。
もちろん、リーズの好物であるクルミパンも含めてお願いします。
『うちのパンを気に入ってくれて嬉しいよ。』
店主のゴンさんはマッチョで逞しい男性でした。
最初に対応してくれたサーシャさんとはご夫婦で、幼馴染なんだそうです。
二人はこの町の施設で育ててもらった孤児で、忙しい時には施設から子供たちが応援に来ているそうです。
店の保冷庫に使っている氷は、施設の子供が作っていると聞いています。
ジャムやバターなどの他に、タマゴやソーセージ、ヨーグルトにミルクなど、冷温保存が望ましいものは多いと聞きました。
『ねえリーズ。』
『なに?』
『魔物がたまに落とす魔石って、魔力の塊だって言ってたわよね。』
『ええ、そうよ。厳密には魔力が結晶化したものね。』
『魔石から魔力を取り出して魔法を使うことはできないの?』
『別に、自分の魔力があるんだから、そんなの必要ないじゃない。』
『違うのよ。常に冷やしておきたい保冷庫って、今は氷を作り置きして冷やすじゃない。そういうのじゃなくて、常時冷風が噴き出す道具があったら便利じゃない。』
『言いたいことは分かるけど……。』
『それに、瞬間冷凍したものを、そのまま冷凍状態で保管できる冷凍庫も、あったら便利でしょ。』
『時間凍結庫があるんだから、それも要らないわよ。』
『私たちには必要ないけど、人間には必要だと思わない?』
『まあ、そうかもしれないけど……。』
そんな事を考えながら、私たちは竜人の里をあとにして帰路につきました。
【あとがき】
魔道具の構想。
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