稀代の魔物使い

モモん

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第Ⅱ章 二人旅

生涯の忠誠を……

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敷地はほかの屋敷の2倍あります。
2階建ての母屋に3軒の離れがあり、厩は別になります。

「まさか、私達二人にここに住めと?」

「ジョセフ様が退任された後で、宮廷魔物使い相談役をお迎えする屋敷を作ろうという計画が持ち上がり、10年の歳月を経て今年完成いたしました」

ナタリーもフランも口を開いたままポカンとしてます。

「いやいや、私達って宮廷魔物使いですらないし……」

「長年、このお屋敷の建築に携わってきた私も、当初は反対していました。
ここは、3階級ある爵位の一番上である公爵級を想定していましたから」

「で、ですよねー。娘二人が住む家じゃないですよ。ええ、却下です!」

「でも、今日、私は確信いたしました。この家の主はお二人しか考えられません」

「ヘッ?」 お姉ちゃん、変な声が出てるよ。

「二つの町をアンデッドの襲撃から被害なしで守り切り、キメラの大軍を打ち倒す。
武勇としては文句のつけようもありませんが、兵団長もしくは宮廷魔物使い隊長級といったところで、爵位としては男爵級」

「そ、そうですね」

「聖角灯を配備し、すべての町に寄贈する。これは、総務局長級の功績と考えます。
国は名誉男爵といたしましたが、個人的には子爵級が妥当だと考えています。
そして明日、内務局の長年の夢であった定時連絡便が実現します。
結果として国の事業となりましたが、国が渋った時には個人で実現されるおつもりでしたよね」

「え、ええ。そのつもりで各町の領主様と調整してきましたから」

「聖角灯にしても、国はお金を出しましたが、無償でも提供されたのではないでしょうか。
確約もなしに国全体の分を作っておられたし、町には無償で提供されたのですから」

「私たちは、メリルの町でアンデッドに襲われ、命からがら逃げかえってきました。
あの時の恐怖は、今も夢に見ます。
ガルド先生が王都に応援を呼びに行ってしまった数日間、十分とは言えない状況でアンデッドに備えていました。
幸運にも一角獣の角が2本見つかり、一万に及ぶアンデッドを退けることができました。
あれは、従魔のおかげです。本当に幸運な出来事でした。
その中で、住民の皆様と恐怖を共にし、幸運を喜び合ったものです。
あの恐怖を払しょくできるものならば、金銭的な供与など問題ではありません」

「……」

「私達二人は、ただの魔物使い。お金がなくても食べていくくらいはできますからね。
その延長線上に定時連絡便構想もあります。
不慮の災害が発生した。
でも、数日待てば援軍が必ずやってくる。それは住民の安心感になります」

「本当に、そのとおりだと思います」

「今、お金なら潤沢にあります。
幸運なことに、王様は私たちの提案を聞き入れてくださいます……から、……、住民の安全を……心から願って……
あれ、どうしちゃったんだろう私……」

お姉ちゃんの目から涙があふれています。

ケイトさんが片膝をついて言いました。

「わたくしケイト・モスライトは、シーリーン・アートランド様、ならびにシーリア・アートランド様の手足となり、生涯の忠誠を誓います」

「えっ?」

「「わ、私たちも」」

ナタリーさんとフランさんもケイトさんにならいます。
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