縄文の女神 -異世界なんてないんだよ-

モモん

文字の大きさ
11 / 25
第二章

第10話 別涙

しおりを挟む
 季節は夏に移行し眩しいほどの光が降り注ぐのだが、体感温度はそれほどでもない。逆に水面をわたってくる風が心地よくもある。
「このオオバコは、下痢に効くし咳止めにも使えるみたいだよ。」
「すごいですね。どこにでも生えてる雑草なのに……」
「調べて文字にして残してくれた人に感謝だね。」
「あっ、ツユクサがあります。これも下痢と熱を下げるのに使えるんでしたよね。」
「おっ、ノビルだ、こいつの根っこは虫刺されに使えるから畑に植え替えよう。」
「畑も広げないともういっぱいですよ。そういえば、大豆の実がなってますけどまだ採らないんですか?」
「茹でて食べるならこれくらいの時期なんだけど、今は種として収穫したいからね。枯れるまで待ってるんだよ。」
「早く食べてみたいです。」
「まあ、来年の夏には塩ゆでした枝豆が食べられるから待つんだね。」
「枝豆?大豆じゃないんですか?」
「大豆を枝についたまま茹でたものを枝豆って呼んでるんだよ。」
「大豆は大豆なのに、なんで呼び方を変えちゃうんですか!余計にこんがらがってきます!」
 薬草も30種類を超えてきた。畑だけでも15種類くらい植えてある。俺たちがいなくなっても、カナがうまくやってくれるだろう。この世界で初めての医者ってことかな。できることなら高床式の住居を作ってやって、もっと衛生的な環境に住ませてやりたいが、この里の規模では無理だ。板が量産できればとか、セメントがあったらとか考えるが無理なものはどうしようもない。日干しレンガも試してみたが粘土を掘り出すだけでギブアップした。

 さすがに夏場の鍛冶はきついので、秋まで中断することになったが、その間に屋根づくりが行われた。里から程近くにあった大木が切られ四つに切断される。それを作業場の四隅に立てて補助木をめぐらせてカヤをかける。屋根ができると早く鍛冶を再開したくてウズウズする男衆の気持ちがあふれていた。鍛冶で作った鉄板も好評だ。屋外にかまどを組み全員で鉄板を囲む。箸で生肉を触らないように徹底していた影響で、複数のトングが作られることになった。大勢でワイワイやりながらの食事は楽しい。
 やがて季節は晩夏・初秋へとうつっていく。
「お前たちはいつまでここにいてくれるんだ?」
 いつもの食後のひと時である。アラさんからの突然の問いかけであった。
「……冬の前には海まで行ってみようと思っています。」
「えっ、そんな……」
 カナが絶句する。
「大豆とゴマの収穫が終わった出ようと思っています。」
「それって、もうすぐじゃまいですか!」
「カナ、無理はいうな。」
「だって……だって……」
 カナは泣きながら小屋から出て行ってしまった。ミコトがそれを追いかける。
「すまんな……」
「いえ。」
「文字や薬草のことを教えてもらって、カナもこの里にとって大切な存在になった。本当ならお前たちに同行させたいくらいなんだが、そうもいかないほどにな。」
「大丈夫ですよ。俺たちの拠点はここから近いので、ちょくちょく帰ってきますから。」
「そうしてくれると助かるよ。カナもそれを聞けば落ち着いてくれるだろうよ。」

 大豆とゴマは思ったよりも大量に収穫できた。俺たちは収穫量の3割を布袋に収めると残りをカナに手渡した。
「来年は同じ場所に植えないようにするんだぞ。」
「連作はダメってことですね。」
「ああ、そのとおりだ。それから、これをあげる。」
「えっ?こ、こんな大切なものを……」
 俺がカナに手渡したのは、緑色をした勾玉の首飾りだ。俺が普段しているものよりも一回り小さい。俺のバッグの中にはいくつかの勾玉が入っている。その中の一つに紐を通したものだ。
「カナは俺の大切な弟子だからな。これはその証だ。」
「泣いたら隈取が落ちちゃうだろ。」
「だって、だって……」
 カナの涙は止まらなかった。しばらくの間、カナは俺の胸で泣き続けた。

 11月初旬、俺たちはトラさんの里を後にした。これから向かうネの島の里の場所はトラさんから聞いてある。現代でいう片瀬山のあたりだ。ルートとしては引地川沿いに海へ出てそこから東に向かえばすぐに江の島だ。泉の森から海までは現代の整備された川岸で半日程度。早朝に出発したので夕方前には江の島まで到達できるだろう。チーチーとカワセミの泣き声を聞きながら俺たちは気楽に川を下っていく。引地川はそれほど水量が多いわけではない。中ほどでも川幅2m程度だ。
「いい天気っすね。」
「ミコトは残ってもよかったんだぞ。」
「勘弁っすよ。そんで二人だけ元の世界に戻っちゃったら、俺どうすりゃいいんっすか。」
「カナと仲睦まじく暮せばいいだろ。」
「いやいや、俺には薬草の知識も鍛冶の知識もないんすよ。リュウジさんみたいに強くもないし、狩りの知識なんてこっちの人の方が上っすから。それに、終わらせてないゲームがあるっす。」
「アハハッ、今更ゲームかよ。もうどうでもいいだろ。俺はこっちの方が遥かに面白いと思うぜ。」
「それはそうっすけどね。僕、時々思うんすよ。」
「何を?」
「カナが好きなのは、本当は委員長なんじゃないかって。」
「ああ、俺もそう思う時があるな。」
「でしょ!」
「それは無いな。カナは妹みたいなもんだ。」
「それって、お兄ちゃん、実は私お兄ちゃんのことが……ってやつじゃねえの。」
「そうっすよ。俺、許さないっすからね!」
「でも、ミコトやっちゃったんだろ?」
「そ、それは……」
「はっきり言わないってのは肯定ってことだな。」
「……」
「わかりやすいヤツだな、アハハ。」
「あれっ?」
「おっ、海に出たじゃねえか。」
「いや、あれが江の島だろ。それで横にあるのが片瀬山だとして……、この辺は鵠沼だよね。」
「鵠沼って、沼地じゃないんですか。これじゃあ、まんま海ですよね。」
「ああ、思っていたよりも内陸部に海が入り込んでいるみたいだね。」
「どうする?」
「仕方ないから、海岸線沿いに迂回していこう。」
「まあ、それっきゃねえよな。」
 こうして俺たちは海岸線沿いに東をまわり、堺川らしき場所をびしゃびしゃになりながら超えて途中で野宿し翌日の昼前には片瀬山にたどり着いた。


【あとがき】
 当時の復元地図を見ると、現在の藤沢駅近くまで海だったようです。ここから第三章に入ります。縄文人の身長は、男で160cmくらい。カナは150cm弱をイメージしています。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~

杵築しゅん
ファンタジー
 戦争で父を亡くしたサンタナリア2歳は、母や兄と一緒に父の家から追い出され、母の実家であるファイト子爵家に身を寄せる。でも、そこも安住の地ではなかった。  3歳の職業選別で【過去】という奇怪な職業を授かったサンタナリアは、失われた超古代高度文明紀に生きた守護霊である魔法使いの能力を受け継ぐ。  家族には内緒で魔法の練習をし、古代遺跡でトレジャーハンターとして活躍することを夢見る。  そして、新たな家門を興し母と兄を養うと決心し奮闘する。  こっそり古代遺跡に潜っては、ピンチになったトレジャーハンターを助けるサンタさん。  身分差も授かった能力の偏見も投げ飛ばし、今日も元気に三歩先を行く。

無属性魔法しか使えない少年冒険者!!

藤城満定
ファンタジー
「祝福の儀式」で授かった属性魔法は無属性魔法だった。無属性と書いてハズレや役立たずと読まれている属性魔法を極めて馬鹿にしてきた奴らの常識を覆して見返す「ざまあ」系ストーリー。  不定期投稿作品です。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、生命を懸けて鬩ぎ合い、幾度も涙を流す旅路の中で自分の在り方を探す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※基本週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開中(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

処理中です...