縄文の女神 -異世界なんてないんだよ-

モモん

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第三章

第15話 寒川

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 泉の森から相模川までは比較的緩やかな道のりだ。川の手前で急な下り坂になり川岸にいたる。川に近づきすぎると、密生し枯れた葦のせいで見通しはあまりよくない。
「そういえば、このヘンに餌付けされたコブハクチョウがいたんだよね。」
 これは現代のことである。
「コブハクチョウ?」
「うん、皇居のお濠にもいるやつなんだけど、コブハクチョウって餌付けされると渡りをしなくなっちゃうんらしいんだ。」
「じゃあ、その白鳥も?」
「いや、経緯はわからないんだけど何度も見かけたんだよね。」
 とはいっても、4000年前のこの時代にそれがいるはずもない。水面を眺めつつ川を下っていくのだが、さすがに大きな川だけあって支流の数も多い。当然橋などはなく、支流にぶつかるたびに渡れる場所を探して迂回することになる。
「結構厳しいっすね。」
「荷物を減らして正解だったな。」
 それでも何とか昼過ぎには寒川の集落に到着した。竪穴式住居が20棟ほど建っており住民も多そうだ。ここでもハクとシェンロンを警戒して縄文犬が威嚇してくる。俺は二人と二匹をその場にとどめ、一人で挨拶にいく。
「こんにちわ。トラの里から来ました。」
「なぜオオカミを連れている。」
「安心してください。僕たちの仲間なんです。」
「嘘をつくな。オオカミが人に慣れるなど聞いたことがないぞ。しかも大きいし、白いオオカミなんぞ見たこともない。」
「二匹は木霊と同じ精霊なんですよ。もう少し暖かくなったら神山へいかなくてはいけないので、今日は下見にきたんです。」
「なぜ、神山へ行く。」
「セオリツヒメ様に呼ばれたんです。」
「それは神の名なのか?」
「白い龍の神様ですよ。」
 住民がざわつく。
「その白い龍の神に、お前は会ったというのか。」
「はい。お話しもさせていただきました。」
 再びのざわつき。多少の脚色はあるが概ね間違ってはいない。
「待て、オオカミを一匹だけ呼べ。おばば様に確認してもらう。」
「ハク、おいで。」
 ハクはいわれたとおりにテテテッと歩いてきた。
「こっちだ。」
 里の長らしき年長者についていくと、一軒の住居に通された。初めて見る敷石が敷かれた住居だった。
「おばば。この者がトラの里から来たというのだが、このオオカミは精霊で、この者も龍の神と話したという。まことであろうか。」
「うん?精霊とな。さすれば木霊が見えよう。オオカミよ、この家のどこに木霊がおるかのう?」
 ハクは悲しそうにクゥンとなき首を横に振った。
「ほう、ホンに見えているようじゃな。で、お主の拝謁した神はどのような神であった?」
「はい。セオリツヒメ様とおっしゃいまして、白い龍の神様でした。」
「なんと!わしも木霊達から聞いたことはあるが、目通りしたことはない。木霊たちの主じゃと言うておったが……」
「セオリツヒメ様からもそのように伺っております。」
「ふむ。間違いないようじゃな。というよりも、実は木霊より聞いておったのじゃ。近くの里で、カナという巫女が生まれたこと。それに、オオカミを連れた三人組がここを訪れるやもしれんとな。」
「カナのこともご存じとは思いませんでした。」
「カッカッカッ、それ故巫女は貴重な存在なのじゃよ。」

 おばば様の確認もとれ、俺たちは里に迎えられた。この里は西に神をいただく里といい、シャカムイと呼ばれているらしい。これが相模もしくは寒川の語源なのだろうか?古くから存在した言葉については、漢字が輸入されたあとで発音によってこじつけされた場合も多く、相模も西神であった……かもしれない。
「それで、今回は下見だけなのか?」
 シャカムイの長はトラさんと同年代で、フィオさんといった。
「いえ、トラの里で新しい産物を作りましたので、そのご紹介も兼ねています。」
「ほう。」
「こちらが薬といいまして、具合の悪い時に飲んだり貼ったりするものでございます。」
「具合が悪いとは?」
「これは熱の出たときに飲む薬で、熱を下げる効果があります。」
「そんなものがあるのか。」
「はい。こちらは咳の出るときに鎮める薬。これは傷を負ったときに治りを早める薬です。」
「本当に効果があるのか?」
「これは見本でおいておきますので、症状のでた時に試してください。すぐには効きませんので、半日から一日ほど安静にしていただく必要があります。」
「待てよ……、おい今朝がた熱をだした子供がいたよな。」
「はい、西のサクの息子が今朝から寝込んでいます。」
 あまり発汗がないのを確認してお湯を沸かしてもらい、葛湯を作って飲ませる。
「多分、汗が出ると思いますので、時々様子を見て汗をふいてあげてくださいね。」
 医者じゃないので滅多なことは言えないが、効果を期待しよう。
「それから、こちらがモリ頭とナタです。アラを加工して作ってありますので、とても丈夫ですよ。ナタは薪割りや丸太をくりぬく時に便利ですよ。」
「アラの加工なんて……出来るのかよ。」
「はい。特殊な方法でやっています。」
「信じられん。だが、石ではこんな加工はできんし、角よりもはるかに丈夫そうだ。おい、誰か試しに使ってみろ。」
 若い男が二人やってきてナタとモリ頭を受け取って出て行った。来るときに確認したが、海は里の近くまで来ている。ナタを持った男は、すぐに戻ってきた。
「これ、凄いですよ。薪は簡単に割れるし、木のくりぬきにも使えそうです。斧の代わりにもなりそうですね。」
「斧にはもっと大きいのがありますよ。これはあくまでも手元の作業で使うために作ってます。」
「ほかにも道具を作っているのか?」
「ええ、穴を掘る道具とか、畑を耕す道具。肉を焼く板とかもありますよ。」
 そこへモリを持った男が駆け込んできた。
「見てください、コレ。」
 モリの先に、30cmほどの魚が刺さってビチビチ暴れている。
「おいおい、こんな短時間で獲れたっていうのかよ。」
「刺さったら抜けないんですよ。だから一発です。」
「うーむ、効果はありそうだな。で、どうなんだ?」
「この二つは見本で差し上げます。でもアラ自体が希少なので、追加は高くなりますよ。」
 貨幣社会じゃないので高くなるというのは通じなかった。
「そうですね。人を派遣してください。最低でも3年間。」
「3年もかよ。」
「その間に、アラを加工する技術や薬の知識を教えます。3年後戻るか残るかは本人次第ということでいかがですか。」
「男だけでいいのか?」
「できれば女性もお願いします。」
「うーむ、誰か、行ってみたいってモンはおるか?」
 一人がおずおずと手をあげた。
「そんな色んな道具があるなら……見てみたいです。」
 それにつられて3人ほどが手をあげた。
「もし、さっきの薬っていうのが本当なら、私も覚えてみたいかも……」
 20歳前くらいの女性が発言した。
「おいおい、トラの里ってのは、海からも遠いし結構不便な里だぞ。貝も魚も獲れねえし。」
「その代わり、新しい仕事が出来たので、みんな張り切ってるんですよ。それこそ、土器の作り手が足りなくて今はオサが一人で作ってます。」
 笑いがおきた。その夜、熱を出していたはずの子供がむくりと起き上がり、お腹がすいたと一言。皆を驚かせた。


【あとがき】
 少し前のことですが、相模川の左岸を歩いた時は連続したサイクリングコースもなく、本流に近い橋も少ないため相当迂回した経験があります。右岸・左岸とは上流から見た左右であり、この場合東側になります。余談ですが右岸にはサイクリングコースが整備されていて左岸より歩きやすいです。一度で懲りたので、以後は右岸専門になりました。
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