悪役令嬢はやめられない

モモん

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第6話 放逐

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 その頃、王子は宝石を売ろうと入った店で近衛兵に拘束されていた。

「何をする!俺は王子だぞ!」

「ご自分の意思で城を出られた以上、もう王族とは認められません。」

「何だと!だったら一般市民として離したらどうだ!」

「城を出られる際、部屋にあった貴金属類を持ち出されましたよね。その腕輪も剣もカバンの中の宝石類も王子という身分に提供されたモノであって、個人所有のモノではございません。よって、窃盗の容疑で拘束させていただきます。」

「バ、バカな!父上はこのことをご存じなのか!」

「それは、ご自身で確認してください。抵抗されるようなら、武力行使もさせていただきます。」

「くっ……」

 こうして、第3王子は城に連れ戻され、全ての持ち物を没収されたうえで、市民階級の服と銀貨3枚だけ渡されて城から放逐された。
 銀貨3枚あれば、数日宿屋に泊まる事も可能だ。

 だが、シュルル王子はその足で学園に押しかけた。
 徒歩で学園の敷地内に立ち入ろうとしたところで警備員に止められた。

「こちらでは、関係者以外の立ち入りをお断りしています。」

「俺はシュルル=ローズレア、去年の卒業生だ!」

「卒業生であっても、正当な要件がなければ立ち入りは許可できません。」

「くっ、学園長を呼べ!」

「ご用件は?」

「いい加減にしろ!俺は王子だぞ!」

「……城から通達があり、第3王子は廃嫡されたと聞き及んでいます。もし、王族を名乗るようですと、身分詐称として犯罪者となりますがよろしいのでしょうか?」

「ば、バカな……、ならば4年生のラルへの面会を求める。」

「生徒への面会は、ご家族に限定されています。」

「お、俺はラルの婚約者……」

「婚約者というのは家族に含まれません。ちなみに、ラル嬢の城通いは中止となっておりますので念のためお伝えいたします。」

「くっ……、俺から全てを奪うのか……」

「はあ、ご自分で全てを捨てたのではないですか……」

「煩い!お前ら平民に、俺の苦しみが分かってたまるか!」

 王子はその場から走り去った。

「ふう、陛下も徹底的に王子を追い込むんだな。」

「いや、見捨てたようでこうして監視させているんだ。俺たちにとってはいい迷惑だぜ……」

 警備員に扮していたのは、国軍の兵士だった。


 ラルは苛立っていた。
 卒業式までは思い通りに進んでいた。
 彼女にとって目障りな子爵令嬢は完全に潰せたものだと思っていた。
 婚約者だった第3王子を唆し、卒業式という衆目の集まるステージで婚約を破棄させ、自分との婚約を宣言させたのだ。
 自分だったら人前に出てこられない程の屈辱だと感じただろう。

 だが、レイミはその現場でも平然とした表情をしており、翌日の終業式でも毅然とした態度を崩さなかった。
 最初は強がっているだけだと思ったが、むしろすっきりとした顔をしている。

 正直に言えば、王子など彼女にとって装飾品と同じくらいの価値しかなかった。
 自分の価値を周囲に示すためのお飾りみたいなものだった。

 そして、終業式の日に王子に連れられて初めて登城した。
 すれ違う人がみな道を開け、自分に向かって目礼をしてくる。
 ラルにとっては、自分の価値が認められたように思えた。
 
 違和感を覚えたのは、国王に謁見した時だ。
 国王はラルのことなど気にも留めず、シュルル王子を叱責した。
 理由は勝手に婚約を解消した事を怒っているのだ。

 あんな子爵令嬢などよりも、自分の方が余程優れている!
 ラルは自分を受け入れるように周囲の思いを送ったが、その思いは国王には届かず、打ち消されるような感じ……レイミと同じような感じだ。

 王子は何とか陛下に食い下がり、婚約の解消は認めてもらった。
 だがそれは、認めたというよりも”好きにしろ”と突き放されたような言い方だった。
 しかし、ラルとの婚約になるとそうはいかなかった。
 これ以上王家の恥を晒すつもりかと一蹴され、最後までラルを見る事はなかった。

 ラルの部屋を与えてほしいという懇願も受け入れられる事はなかった。
 それでも、王子が自分で動いて、レイミにほどこしていた教育は翌日からラルが受ける事になり、送迎の手配も王子の側近たちが手配してくれた。

 翌日からの”教育”はラルにとって苦痛でしかなかった。

「よろしいですか。上の王子お二人に万一の事があった場合、シュルル王子が国王となられる事もあり得ます。」

「えっ!本当ですか!」

「その場合、あなたが王妃となる可能性もあるという事です。」

「私が……王妃に……」

「その場合を考えて、あなたには王妃になっても恥ずかしくないだけの教養とマナーを身につけていただきます。」

「はい!頑張ります!」

「ふう……、レイミ様ならば完璧な王妃になられるでしょうに、何で婚約を解消されたのか……」

 あからさまな態度を示されても、レイミと近しい人間にはラルの思念が届かなかった。
 ただ、強い思念をぶつければ対象が体調を崩す事が多くなり、結果的に教育係がどんどんと交代していき、新年度が始まる頃にはラルの教育係はラルの信奉者ばかりになっていた。
 だが、それは教育レベルの低下にしかならない。
 形だけの指導が行われるだけで、堅苦しい反復練習などラルが受ける事はない。
 それよりも、ラルにとって重要なのは、どうすれば自分が王妃の座につけるかという事に絞られていった。

 それは単純な事だった。
 シュルルの兄二人がいなくなればいい。
 だが、ラルと他の王族など、何の接点もない。
 となればシュルルにその接点を作らせようと考えたのだが、シュルルは新入社員のようなものだ。
 新人研修や地方への出張等で殆ど顔を合わせる機会がない。

 そんな中で、突然城での教育が中断されてしまった。

「どういう事ですか!なぜ急に!」

「それは存じません。城からの使者が、その旨を伝えてきただけですから。」

 ラルにそれを告げた教師は、そういって教員室に戻っていった。
 全寮制の学園では、情報が遅いのだ。
 週末に自宅に帰った者からもたらされる情報が唯一の情報源となるのだが、平民であるラルの家では馬車を仕立てる事もできないし、歩いて帰ったところで城の情報など噂レベルしか入らない。
 クラスメイトの男爵・子爵系子女は、それなりの情報しかもたらさない。

 それに、ラルは自分の影響力が落ちているのを感じていた。
 この数カ月は、学園で過ごす時間が減っていたせいだろうと彼女は考えていたが、そんな中でシュルル王子が城から放逐されたという情報が耳に入ってくる。
 
「どういう事なの!」

「はい。私の兄がシュルル様と同じ部署にいるのですが、昨日帰宅した折りに聞いたところでは、シュルル様が仕事も辞めて城を飛び出してしまったと。」

「えっ、うちの父がいうには、陛下を怒らせてしまい、城から追い出されたと言っていましたわ。」

「そうそう。金品は全て取り上げられて、裸同然で放逐されたとか。」

「そ、そんな事が……あるはずないわ……」

「わ、わたくしの知る限りでは、投獄されていると……」

「えっ、王子は王都から追放されたと聞きましたけど。」

 Cクラスでは、このような無責任な情報しか集まらない。
 だが、Bクラスから入手した情報で、どうやら廃嫡されて放逐されてしまったのは事実らしい。
 
 王子がいなければ、ラルが城に行っても相手をしてくれるような知り合いは数人の教育係しかいない。
 ましてや、城に行く馬車もない。
 歩いて城に行ったところで、衛兵に追い返されるのが目に見えている。
 ラルは手詰まっていた。


【あとがき】
 孤立
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