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悪役令嬢を嫁にした
第7話 聖女
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工房はどんどん拡張され、ある程度職人が育ってきた段階で、スカーレットはその職人を使って地方の都市に工房を作り始めた。
工房で作るのは照明と馬車だけではない。
ピーラーやゴムを使った密閉容器などを、次々に商業ギルドへ卸して販売していく。
そしていつしかスカーレットと同じ、黒パンツにベスト姿の側近が増えていった。
そうしたスタッフは、殆どが平民の娘だった。
「地方へは行かなくていいのかい?」
「大丈夫よ。そのために側近を増やしているんですからね。」
「でも、領主とかに呼びつけられたりしない?」
「お腹に子供が出来たかもしれないって断っているわ。」
「えっ、出来たの?」
「うーん、まだだと思うけど、いつ出来るか分からないでしょ。」
我が家では、昼間はどんなに忙しくても、朝と夜は必ず一緒に食事をしている。
「そういえばさ。」
「なあに?」
「俺には他人の能力が見えるんだ。」
「やっと話してくれる気になったのね。」
「気付いてたの?」
「ほら、最初に出逢った時に、王子の婚約者だって当てたでしょ。あれって、そういう類の能力がないと絶対に分からないハズだもの。」
「そっか。アタマのいい君なら、そう結論付けたんだね。」
「お褒めに預かって恐縮ですわ、旦那様。」
「それでさ、最近の君ってどうなのかなってさっき確認したんだよ。」
「……まあ、夫婦ですからいいですけど。」
「そしたらさ、君の特性に聖属性が追加されてたんだ。」
「はい?」
「思い当る事ないの?」
「……冗談ではないんですよね……もしかして、孤児たちの保護を始めた事?」
「どうだろう。でも、うちって国からは相応の料金をもらうけど、市場に出す時には利益を見込んでないよね。」
「それは、ハクがそういう意向だからじゃない。」
「うん。それを君が実現してくれてるんだけどね。」
「お父様、そういう利権とかに関与するのを嫌がるのよね。」
「そうそう。貴族は国民の手本にならなければいけないとかいうヤツだよね。うちの父もよく言ってるよ。」
「だから、私も国からはお金をもらうけど、それ以外で儲けようとは考えない。それはあなたも同じでしょ。」
「うん。キレイな奥さんがいて家がある。それで生きていければ十分でしょ。」
「工房の収益はなるべく国民に還元する。あなたがそう言ったから孤児院経営を始めたのよ。そしたら、お父様が補助金とかつけてくれちゃったから、そこに治療院や薬局を作ったら、そっちにも補助金がでちゃうし……私に何をさせたいのかしら?」
「スタッフはなんて言ってる?」
「学院の平民バージョンがあったらいいって。」
「孤児院を拡張して始めてみればいいよ。」
「でもね、お父様に相談したら、国務局から人を派遣するって……、教師に引退した貴族を採用するとか言って、その気になっちゃってるんだけど……」
「ああ、それなら、そろばんと黒板が必要だね。」
「黒板は分かるけど、そろばんって何?」
「簡単に計算する道具だよ。」
「……、まあ、そこはスタッフと工房に丸投げするかわいいわ。」
「そこがスカーレットの武器だよね。」
「えっ?」
「俺だったら、最後まで自分でやろうとしちゃうんだよね。でも、スカーレットはちゃんとそれを見切って俺から取り上げちゃうんだ。」
「なんだか、子供の玩具を取り上げるような言い方ですわね。」
「工房もスタッフも、ちゃんと組織として体形が作られていて、そういう人材を割り当てているじゃない。俺にはとてもマネできないよ。」
「でも、そんな事で聖属性なんて得られるのでしょうか……教会なんて、それこそ入学する前に行ったきりですのに……」
「教会か……スカーレットは、教会と聖属性に関係があると思っているのかい?」
「……どういう事でしょうか?聖なるモノといえば教会だと思いますが……」
「じゃあ聞くが、教会が聖だというのなら、教会のシスターは全員聖女で、司祭は聖人にでもなっているはずだろ。だが、俺が調べたところ歴代の聖女は皆、シスターなど経験してないんだぜ。」
「あっ……」
「教会は聖属性が発現した女性を無理やりにでも取り込んで聖女に祭り上げただけだな。いや、聖属性が発現してたかも怪しい、今回のムラサキみたいにな。」
「それって……。いえ、聖女に認定される条件って何なの?」
「教会が認めたかどうか……らしいぞ。まあ、厳密にいえば癒し、つまり治癒系の能力を持った女性の中から、教会の言う事を聞く者を聖女に祭り上げて国から補助金を吸い上げる悪徳商法みたいなもんだな。」
「そんな事って……」
「それに、聖女が治癒魔法を使えなかったとしても、側近に使い手がいれば済むだろ。実際に今回もムラサキが卒業したら、治癒術師を用意して聖女認定してしまおうと画策してたみたいだぞ。」
「それはムリがあるでしょ。」
「だが、ここ30年聖女が認定されていないから、教会は財政的に苦しいみたいだぞ。そして聖女を嫁に迎えれば、王位継承権3位でも国王にごり押しできるだろうと考えた王族が、教会と結託してムラサキを聖女に祭り上げようとしていた。」
「王族って……まさか……」
「後妻として王族に入った現王妃だよ。流石に現王妃を弾劾することは出来ないだろうけどね。」
「何よそれ!」
「そういえば……」
「何よ!」
「地方の孤児院で、子供たちがスカーレットの事を聖女だって呼び始めているらしいよ。」
「やめてよ!私が教会のいう事なんて聞くはずないでしょ。」
「まあ、歴代の聖女は、出産と同時に治癒系の力を失ったらしいけどね。」
「何言ってるの……私にそんな力はないわよ!」
「へえ、試したのかな?」
「えっ?…………まさか……あるの?……」
「さあ、どうだろう……どう思う?」
「だ、大丈夫よ。発現していたとしても、使わなければ存在しないと同じこと。」
スカーレットのステータスには、職業・聖女と表示されている。
スキルには、治癒も回復も出ているのだ。
妊娠して出産に至った時に、これが変化するのかどうか興味深いところである。
そして、側近の何人かが、スカーレットの聖女化を企んでいるのも知っている。
これは、教会の手先という訳ではなく、教会に与しない実質聖女を誕生させようという企みで、その親玉は現内務大臣だった。
教会に補助金を払うくらいなら、その予算を福祉や教育に充てた方が良いに決まっている。
その聖女は、国に照明をもたらし、都市間の流通を改善して、福祉や教育に貢献した。
そんな伝説が、今作られようとしているのだ。
俺は、国務大臣と協力して、そんな聖女を支えるだけの存在である。
【あとがき】
おしまいです。
お読みいただき、ありがとうございます。
引き続き、新シリーズ「ガラポンと少女(仮)」をお楽しみください。
工房で作るのは照明と馬車だけではない。
ピーラーやゴムを使った密閉容器などを、次々に商業ギルドへ卸して販売していく。
そしていつしかスカーレットと同じ、黒パンツにベスト姿の側近が増えていった。
そうしたスタッフは、殆どが平民の娘だった。
「地方へは行かなくていいのかい?」
「大丈夫よ。そのために側近を増やしているんですからね。」
「でも、領主とかに呼びつけられたりしない?」
「お腹に子供が出来たかもしれないって断っているわ。」
「えっ、出来たの?」
「うーん、まだだと思うけど、いつ出来るか分からないでしょ。」
我が家では、昼間はどんなに忙しくても、朝と夜は必ず一緒に食事をしている。
「そういえばさ。」
「なあに?」
「俺には他人の能力が見えるんだ。」
「やっと話してくれる気になったのね。」
「気付いてたの?」
「ほら、最初に出逢った時に、王子の婚約者だって当てたでしょ。あれって、そういう類の能力がないと絶対に分からないハズだもの。」
「そっか。アタマのいい君なら、そう結論付けたんだね。」
「お褒めに預かって恐縮ですわ、旦那様。」
「それでさ、最近の君ってどうなのかなってさっき確認したんだよ。」
「……まあ、夫婦ですからいいですけど。」
「そしたらさ、君の特性に聖属性が追加されてたんだ。」
「はい?」
「思い当る事ないの?」
「……冗談ではないんですよね……もしかして、孤児たちの保護を始めた事?」
「どうだろう。でも、うちって国からは相応の料金をもらうけど、市場に出す時には利益を見込んでないよね。」
「それは、ハクがそういう意向だからじゃない。」
「うん。それを君が実現してくれてるんだけどね。」
「お父様、そういう利権とかに関与するのを嫌がるのよね。」
「そうそう。貴族は国民の手本にならなければいけないとかいうヤツだよね。うちの父もよく言ってるよ。」
「だから、私も国からはお金をもらうけど、それ以外で儲けようとは考えない。それはあなたも同じでしょ。」
「うん。キレイな奥さんがいて家がある。それで生きていければ十分でしょ。」
「工房の収益はなるべく国民に還元する。あなたがそう言ったから孤児院経営を始めたのよ。そしたら、お父様が補助金とかつけてくれちゃったから、そこに治療院や薬局を作ったら、そっちにも補助金がでちゃうし……私に何をさせたいのかしら?」
「スタッフはなんて言ってる?」
「学院の平民バージョンがあったらいいって。」
「孤児院を拡張して始めてみればいいよ。」
「でもね、お父様に相談したら、国務局から人を派遣するって……、教師に引退した貴族を採用するとか言って、その気になっちゃってるんだけど……」
「ああ、それなら、そろばんと黒板が必要だね。」
「黒板は分かるけど、そろばんって何?」
「簡単に計算する道具だよ。」
「……、まあ、そこはスタッフと工房に丸投げするかわいいわ。」
「そこがスカーレットの武器だよね。」
「えっ?」
「俺だったら、最後まで自分でやろうとしちゃうんだよね。でも、スカーレットはちゃんとそれを見切って俺から取り上げちゃうんだ。」
「なんだか、子供の玩具を取り上げるような言い方ですわね。」
「工房もスタッフも、ちゃんと組織として体形が作られていて、そういう人材を割り当てているじゃない。俺にはとてもマネできないよ。」
「でも、そんな事で聖属性なんて得られるのでしょうか……教会なんて、それこそ入学する前に行ったきりですのに……」
「教会か……スカーレットは、教会と聖属性に関係があると思っているのかい?」
「……どういう事でしょうか?聖なるモノといえば教会だと思いますが……」
「じゃあ聞くが、教会が聖だというのなら、教会のシスターは全員聖女で、司祭は聖人にでもなっているはずだろ。だが、俺が調べたところ歴代の聖女は皆、シスターなど経験してないんだぜ。」
「あっ……」
「教会は聖属性が発現した女性を無理やりにでも取り込んで聖女に祭り上げただけだな。いや、聖属性が発現してたかも怪しい、今回のムラサキみたいにな。」
「それって……。いえ、聖女に認定される条件って何なの?」
「教会が認めたかどうか……らしいぞ。まあ、厳密にいえば癒し、つまり治癒系の能力を持った女性の中から、教会の言う事を聞く者を聖女に祭り上げて国から補助金を吸い上げる悪徳商法みたいなもんだな。」
「そんな事って……」
「それに、聖女が治癒魔法を使えなかったとしても、側近に使い手がいれば済むだろ。実際に今回もムラサキが卒業したら、治癒術師を用意して聖女認定してしまおうと画策してたみたいだぞ。」
「それはムリがあるでしょ。」
「だが、ここ30年聖女が認定されていないから、教会は財政的に苦しいみたいだぞ。そして聖女を嫁に迎えれば、王位継承権3位でも国王にごり押しできるだろうと考えた王族が、教会と結託してムラサキを聖女に祭り上げようとしていた。」
「王族って……まさか……」
「後妻として王族に入った現王妃だよ。流石に現王妃を弾劾することは出来ないだろうけどね。」
「何よそれ!」
「そういえば……」
「何よ!」
「地方の孤児院で、子供たちがスカーレットの事を聖女だって呼び始めているらしいよ。」
「やめてよ!私が教会のいう事なんて聞くはずないでしょ。」
「まあ、歴代の聖女は、出産と同時に治癒系の力を失ったらしいけどね。」
「何言ってるの……私にそんな力はないわよ!」
「へえ、試したのかな?」
「えっ?…………まさか……あるの?……」
「さあ、どうだろう……どう思う?」
「だ、大丈夫よ。発現していたとしても、使わなければ存在しないと同じこと。」
スカーレットのステータスには、職業・聖女と表示されている。
スキルには、治癒も回復も出ているのだ。
妊娠して出産に至った時に、これが変化するのかどうか興味深いところである。
そして、側近の何人かが、スカーレットの聖女化を企んでいるのも知っている。
これは、教会の手先という訳ではなく、教会に与しない実質聖女を誕生させようという企みで、その親玉は現内務大臣だった。
教会に補助金を払うくらいなら、その予算を福祉や教育に充てた方が良いに決まっている。
その聖女は、国に照明をもたらし、都市間の流通を改善して、福祉や教育に貢献した。
そんな伝説が、今作られようとしているのだ。
俺は、国務大臣と協力して、そんな聖女を支えるだけの存在である。
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お読みいただき、ありがとうございます。
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