短編集【令嬢の憂鬱】

モモん

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ガラポンと少女

第1話 サヤカ・メディスンの人生はガラポンで始まった

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 ガラポン抽選器だ……
 商店街の福引で見たガラガラポンだ……

 3才の私が、それの名称を知っていた事に違和感はない。
 これまでにも、アタマの中から知識が湧き出た事は何度もあり、3才にして習ってもいない字の読み書きが出来てしまったのだ。

 前日3才になった私は、両親に連れられて教会に来ていた。
 
「サヤカ、今からお前が選択するのは、5才までの2年間でお前が罹患する病などの厄災だ。」

「お父様、厄災という言葉の意味は分かりますが、具体的にはどのようなものなのでしょう?」

「20年以上前、私たちの頃には、ハシカ・オタフク・ヘビ毒・百日熱・四肢欠損などがあったらしい。その時私がひいたのは、左手の指マヒで、その後遺症で俺の左手中指は今もマヒしたままだ。」

「この試練で、命を落とす確率は5割程と言われているわ。」

「そんなの、ひかなければいいじゃない……」

「その時は、次の奇数年の誕生日にひくことになるが、遅くなるほど悪い結果になると言われている。ずっとひかない選択肢もあるのだが、そうなると15才で受け取る職業とスキルも得られなくなってしまう。」

「そうよ。無職・無スキルで過ごす人生は、奴隷みたいなものよ。上級職の指示に逆らえなくなってしまうし、職に就く事もできない。あなたに、そんな人生を歩いてほしくないのよ。」

 それはいいとして、神様のご神託みたいなものよね。
 なんか、水晶玉に手をおいて、文字が浮かび上がってくるとか、何かで見た記憶があるんだけど、何でガラポンでそれが決まっちゃうのよ。
 神様、手を抜きすぎだと思うわ……

 ガラガラ・コロン
 転げ落ちてきた青玉には、ハシカとオタフクが2列になって表示されていた。

「やったじゃないサヤカ!大当たりよ。」

「何で?病気になるのが確定したのに、あたりなの?」

「ハシカもオタフクも、子供のうちにかかってしまえば症状が軽いと言われているわ。死んだ人って聞いたことがないもの。」

「ああ、それに一度かかってしまえば体の中に免疫ができる。無病ってのもあるらしいが、それがアタリとは言えないらしいぞ。さあ、その玉を呑み込むんだ。」

 私は父の言葉を聞いてぞっとした。
 玉は1cmよりは小さいが、大人が飲むカプセルくらいの大きさだ。
 せめて砕いて粉にしてほしいと訴えたが、砕いてしまうと効果が消えてしまうらしい……つまり、再抽選が必要なんだと……

 私は意を決して青玉をノドの奥に押し込み、げーげーいいながら玉を呑み込んだ。

 その3日後、私はオタフクで5日ほど寝込み、3か月後にハシカに罹り39度の熱を出しながら全身に赤い発疹ができて苦しんだ。
 
 だが、それ以外に大きなケガもなく、私は5才の誕生日を迎えた。
 キレイな栗色の髪は肩まで伸びたし、同色の瞳も気に入っている。
 
 私は赤いガラポン抽選器を前にしていたが、その中央に”5才は2回ひけます”と書かれている。
 
「5才で病気が出る事があるらしい。でも、剣技や料理上達の玉とか初級裁縫術獲得なんていう玉も出るらしい。頑張れよ。」

 結局のところ、5才の私がひいたのは紫色とオレンジの玉だった。
 そこには”木から落ちる”と”魔力獲得”と書かれていた。
 いやいや、私は木なんか登らないしとか思いながら玉を飲み込んだ。

 何で、こんな苦しい思いをしなければならないのか……
 それよりも、こんな世界の法則を作った担当者出てこい。
 色々と雑すぎるだろ……

 その半年後、私は妖怪の猩々という赤毛の大きなサルに攫われてしまった。
 町の狩人に追い立てられた猩々は、逃走中に私を木の上から放り出し、森へ逃げていった。
 抱えられた時に匂ってきた脇の臭さは、未だにトラウマになっている。

 約3mの枝から落下した私は、3日間意識を喪失していたらしいが、目覚めた時には魔力というものを認識できていた。

 この世界で魔力を持つのは2割程度らしい。
 そして、魔法を覚えられるのは職業かスキルに依存する。
 つまり、魔力があっても魔法を覚えなければ役に立たないという事になる。
 それでも、魔力の溜まっている場所は身体が活性化しているのを感じた私は、魔力を移動させて手や足を活性化できるように訓練を続けた。

 やがて私は7才の誕生日を迎えた。
 3度目のガラポンは、3回出せると書いてある。
 今回の同行は、仲の良いサーニャとリグルだ。
 昨日までに父さんから聞いていた話しでは、出る内容は5才の時とそれほど変わらないが、学校への入学という選択肢が増えるそうだ。

 そういえば、私にはささやかな疑問がある。
 もし、4回目を回したらどうなるのだろうか?
 だが、恐そうな神父さんが張り付いているので、流石にそんな暴挙には出られない。
 玉を壊した場合には、壊した玉よりも悪い玉が出ると言われている以上、冒険をする必要はない。
 
「ヤッター!魔法学院入学をゲットよ。」

「えへへ、私も学院の初等科入学よ。サヤカは何だった?」

「私は赤・黒・緑で、錬金術師の弟子になるらしいわ。」

「……へえ、サヤカって魔力あるんだから私と同じ魔法学院とか、魔法使いの弟子とかだと思ってたけど、錬金術師って何するんだろうね。」

「辺境だとあんまりいないけど、王都には宮廷錬金術とかいて結構有名なんだよ。鉱石の加工をする人と薬やポーションを調合する人がいて生活に密着した職業だね。」

「それって、鍛冶する人とか薬師(くすし)と違うの?」

「鍛冶師はここにも大勢いるんだけど、金属を加熱して叩くでしょ。錬金術師は金属に魔力を流して魔法で加工するんだって。薬も同じで薬草をすり潰したり煎じたりするのが薬師で、魔力を流して成分を変質させて薬にするのが錬金術だって聞いてる。」

「そうなんだ。知らなかったよ。」

「私たちは学校だから選択肢はないけど、サヤカは自分で師匠になる人を捜すんでしょ。どうするつもりなの?」

「えへへ、実は魔力を授かった時から錬金術師のお爺ちゃんに色々と教えてもらってるんだよね。だから、簡単なポーションなら作れるんだよ。」

「もしかして、塀の外に出て草をとってきたのって、そのためだったの?」

「そうだよ。魔力ポーションの材料はなかなか見つからないんだけど、普通のポーションに使える草なら結構町の近くで見つかるからね。」

 玉はその場で飲んでしまうため、証拠は残らない。
 だから、魔法学院だったとウソをついて受験する事だって可能なのだ。
 逆に、魔法学院という玉が出ても、勉強を怠れば試験で落ちることもありえる。
 その場合は翌年に受けなおすのだが、それでも合格しない事があるらしい。
 
 家に帰った私は、両親に結果を伝えて母方の祖父、お爺ちゃんのところへ行く。

「ほう、錬金術師への弟子入りか。」

「うん。もうお爺ちゃんの弟子だから、今更なんだけどね。」

「だがなあ、わしの教えられることなどもう殆ど残っておらんぞ。そうじゃなあ、これまで見てきてサヤカはプラント系よりもメタル系の方が合っているんじゃないかな。」

「メタル系かあ……クロムの配列がよく分からないんだよね。もうちょっとで不錆鉄(ステンレス)が作れそうな気がするんだけどさ。」

「バカを言うな、そんなものを7才のガキに作られちまったら、王宮錬金術師の立場がないじゃろう。じゃが、硬鉄(チタン)は錬成できたんじゃろ。そっちの方が、使い勝手がいいんじゃないか?」

「でも、硬鉄はあんまり見つからないんだよね。軽くて使いやすいんだけどさ。」

「まあ、急ぐ事はないじゃろう。わしも、考えておくからな。」


【あとがき】
 新シリーズです。
 それが当たり前の世界ならば、ガラポンで決まる人生ってのもあるかなって感じです。
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