人生ゲーム

竹内 晴

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第拾仇章

賽は投げられた

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 「それではウラヌス様、サイコロを振ってください。これが貴方様の運命となります。」

 ウラヌスがこれまでに起きたことを目の当たりにし、自身が置かれている立場を理解した瞬間でもあった。サイコロの出た目次第では、先程とは同じようにコマの運命で自身の命も危うい。そして、回を重ねるにつれてそれは起こりやすくなってくるもの。1と2マス先には、ハデスとアマテラスの駒がある。もし、1か2が出てしまえば・・・。

 ウラヌスが自身の心情と戦っていた。なぜなら、ウラヌスは恐怖していた。人間だけではなく、神も同様に死に直面したとき恐怖する。今までに体感したことのない恐怖に、ウラヌスは精神をむしばまれていたのだ。

 それもそのはず、彼らにとって死とは無縁むえんのものだと思っていたのだから。過去に、先代の太陽神プロメテウスが死んだと聞かされた際には、誰よりもその死をあざ笑っていた。

 「人知を超えた我々が死ぬ?プロメテウスもヤキがまわったな。我々に死などありえないことだ。」

 だからこそ今、サイコロ1つに運命を左右され、自身の命すらもこの正方形の小さな物に握られている。

 重い・・・。

 ウラヌスがそう感じた瞬間でもあった。しかし、ここで引くことはしなかった。なぜなら、ウラヌスの中のプライドが逃げることを許さなかったからだ。葛藤の中、ウラヌスがついにサイコロを振った。

 さいは投げられた・・・。

 サイコロが盤上をコロコロと音を立てて転がる。サイコロはやがてその動きを止める。サイコロが②の目で止まろうとしたその時・・・。

 突然のそよ風がサイコロを押し戻し、サイコロの目が⑤で止まった。

 ウラヌスが駒を5マス進めた。しかし、カオスは今の不自然なそよ風に疑問を持っていた。

 「只今の不自然な風について能力の発動を感じました。しかしながら、何方どなたが使用した能力かまでは感知しきれなかった為、今回は特別にそのままゲームを進めますが・・・。皆様、次はないと思って下さい。」

 カオスのただなるぬ雰囲気に息を飲む。

 危なかった・・・。我が力、ユヌ・ブリーズを感知するとは・・・。一体何者なんだ・・・。

 ウラヌスが冷や汗を流していた。ウラヌスの駒が止まり、マス目に浮きでてきたのは「妹のお見舞いで彼氏と対面」この意味が示すことは何なのだろうか。

 そんなことを思いつつも、一同はモニターを見る。

 「ったく・・・、また変なことに巻き込まれやがって。あいつの巻き込まれ体質はどうにかならんのかね?」

 花束を手に持ち弓弦ゆずるがボヤきながら病院へ向かっていた。永野総合病院ながのそうごうびょういんというところで入院しているそうだが・・・。

 「あの、こちらの病院で入院している・・・・・・。」

 弓弦が受付で部屋番号を聞き、少し緊張しているのかぎこちない動きをしていた。なぜなら、妹に連絡をしたところ彼氏が見舞いに来ているからである。

 初めて見る妹の彼氏とこんな場所で・・・。しかし、弓弦にはもうひとつ懸念けねんしていることがあった。

 「初めまして!」

 弓弦が病室に着くと、妹の彼氏らしき人物が立ち上がり、頭を深々と下げていた。勢いに負けて弓弦も頭を下げる。

 「初めまして!村田弓弦です。この度は妹を助けて頂きありがとうございます。」

 弓弦の妹とは・・・。

 「2人とも頭上げてよ。ここ病室だよ?ほら!和真くんも座ってよ。」

 美空が弓弦と和真に笑顔で言った。美空が2人の間に入り話題をふり、2人はしだいに打ち解けて行った。そんな中、和真がひとつの疑問を感じていた。

 「先程お伺いしていた名前なんですが・・・。村田?美空の苗字は確か・・・。」

 和真が触れていいのか探り探り弓弦に尋ねた。

 「そだよ?私は永野、お兄ちゃんとは今別々に暮らしてるの。こないだ話してたのは弓弦お兄ちゃんのことなんだよ。」

 美空が少し悲しそうな表情で言った。

 「それともう1つ、この病院って永野総合病院だよね?まさかとは思うけど・・・。美空の・・・。」

 言いずらそうにする和真の表情を見て美空が言った。

 「そうだよ?ここはお母さんのお父さんが建てた病院なんだって?私も知らなかったんだけどね?」

 その話を一部始終いちぶしじゅう隣のベッドで聞いていた人物がいた。

 「ホント驚きよね!まさか私の働いてる病院がまさか美空のおじい様の建てられた病院だなんて・・・。」

 突然の声に驚く弓弦。その姿を見た和真が説明をする。

 「今回の事件で一緒に人質にされていた安達恵さんです。彼女はここの病院で看護師をしてまして、そのおかげでこちらに入院させて頂くことが出来ました。」

 事情を理解した弓弦が慌てて立ち上がる。

 「この度は妹がご迷惑お掛けしてしまい申し訳ありません!」

 弓弦が勢いよく頭を下げる。

 「いやいや、妹さんがって言うより私が原因みたいなところもあるから・・・。あの時・・・、和真くんを信用してればこんなことにはならなかったと思います。謝るならむしろ私の方です。大切な妹さんをこんな目に合わせてしまいすいません!」

 恵がベッドに座った状態で頭を深く下げる。そんな2人を見て、美空がなだめるように言った。

 「やめてよ、2人とも・・・。恵さんもほら。今回のことは誰のせいとかじゃないじゃない?私は軽傷で済んだんだし、もしも恵さんいなかったらどうなっていたか分からないんだから?」

 美空の言葉で2人が頭をあげる。しかし、美空には気になることがあった。

 (昨日の和真・・・。なんだか少し怖かった。あの時の和真はゴミを見るような目で、光もなくいつもの優しさはなかった。)

 美空がそう考えながら和真を見てほっとする。

 「よかった・・・。いつもの和真だ・・・。」

 その目には、少しだけ涙を浮かべていた。
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