人生ゲーム

竹内 晴

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第弐拾壱章

2人の物語

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 カオスの宣言によりゲームが再開された。そんな中、ゼウスには気になっていることがあった。

 (このままではまずい。もしあの人間がこのまま思考を交えたら、いずれ自分たちの置かれている状況に気がつくはずだ。どういうわけだか、あの人間の思考は我自身に似たものを感じる。それに、我が恩恵である帝王エンペラーを所持していることも・・・。仮にエデンガーディアンに伝わる伝承が真実だとしてあの人間は危険すぎる。我らの命がリンクしている以上、何らかの形で命を失えば・・・。)

 ゼウスの懸念は思わぬ形で現実のものとなった。

 ここは彼らの住む地上。和真は美空と初めて出会った場所に来ていた。

 「ここで俺たちは出会ったんだよな。」

 和真が押しては返す波のせせらぎを聴きながらあの日のことを思い返していた。

 「もし、あの日学校をサボっていなければ・・・。美空と出会うこともなかっただろう。それ以前に、俺はあの日死んでたかもしれない。」

 あの日、葵と2人で登校中に事故にあい、俺たち2人は命を落としていたかもしれない。それに、あの時だってそうだ。銀行強盗に襲われて俺も美空も・・・。それに、恵さんだって命を落としていたかもしれない。けど、どうしてこんなにも事件や事故が多発する?なぜ、こんなにも運命的な出来事が重なるんだ?

 和真が海を眺めながら1人考え事をしていた。すると、背後から美空がやってきた。

 「どうしたの?何か悩み事かな?」

 初めてあった日を彷彿ほうふつとさせるように美空が声をかけてきた。

 「なんだか懐かしいね?あの時も、和真はこうやって考え事してたよね?」

 美空の言葉に和真が懐かしむ。

 「そうだったな。あの時は、全てがどうでも良くなって・・・。俺の・・・、大切な人が・・・。」

 大切な人が・・・。大切な人?何言ってんだ?俺の大切な人は美空じゃないか。他に大切な人なんて・・・。違う!違う違う!何言ってんだ?

 和真の脳裏に思い浮かぶのは・・・。

 「葵・・・。」

 和真の突然の言葉に少し美空が戸惑う。

 「葵?誰?あー!和真もしかして浮気?名前間違うなんて酷いなー。」

 美空が頬を膨らませて拗ねた。そのまま顔を海の方に向ける。

 「いや、違うんだ。そうじゃなくて・・・。葵って幼なじみが俺にはいてさ。あの日も葵を事故に巻き込んだことを考えてて・・・。俺にとっては美空と同じくらい大切な人なんだ!」

 美空が和真の言葉にヤキモチを隠しきれずにいた。

 「ほら!私と同じってことはその子のこと好きなんじゃん!」

 美空の言葉に和真が違和感を覚える。

 俺が?葵を?なんでそうなる?俺が好きなのは美空で葵はただの幼なじみだろ?美空と同じって・・・。

 「美空・・・。ほんとに俺の事好きなのか?」

 和真の質問に少し疑問に思う美空。

 「どういうこと?好きに決まってるじゃん?この気持ちは本物だし、絶対に誰がなんと言おうと揺るぎません!葵って子にも負けないくらいにはね?」

 確かにそうだ。俺も美空を好きなのはホントの気持ちだ。けど、何かおかしい。そんな感情に思える時がある。まるで、ような・・・。

 和真の感じている違和感は正しいものだった。しかし、なぜその感情が芽生え始めたのか。本来であれば気がつくことなど無いはずの感情だった。そのマスに刻まれた事が真実となりその人間に起こる。それが、人生ゲームのルールであり、絶対的な神の力による呪縛でもあった。

 「そうだよな・・・。俺も美空が好きだ。ごめんな、変なこと言ったりして・・・。」

 いつもとどこか違うと思った美空。和真を心配そうに見つめていた。

 「大丈夫?最近色んなことあったし疲れてるんじゃない?」

 美空の言葉に和真は、今までのことを思い返した。

 確かに色んなことがあった。葵と事故にあったり、美空と偶然出会ったり、美空と付き合って、初めてのデートのはずが強盗に人質にされたり。まるでで弄ばれてるみたいだ。

 その瞬間、和真の頭に異様な光景が映った。

 なんだ・・・、これ。駒?それに、サイコロ?てか、なんだよこれ?テーブルの上にあるのは・・・。人生、ゲーム・・・だよな?

 「ぐ・・・、うあああああああ!」

 突然頭を抱えて苦しみ始める和真。尋常ではない汗。焦点の合わない目には涙が溜まっていた。

 「なんだよ、なんなんだよ?あの文字・・・。そんなことって・・・。俺は・・・、美空・・・。やめろ、やめてくれよ・・・。嫌だ、嫌だあああ!」

 和真があまりのショックに意識を失った。いつもと違い取り乱す和真に動揺しながら必死で呼びかける美空。

 「和真!?和真?!ねぇ?大丈夫?和真ってば!?」

 しかし、美空の声は和真に届くことはなかった。美空によって病院に緊急搬送される和真。心配そうに付き添う美空だったが、いつの間にか和真のベッドに顔を伏せて眠ってしまっていた。

 「ここは・・・。」

 和真が目を覚ました。月明かりが窓から差し込む病室の天井を眺める。ここがどこなのか理解した和真はいつもの様な明るい目はしていなかった。

 「俺たちは弄ばれていたんだ。文字通り人生をゲームにして・・・。やっぱり世界は腐ってる。俺が世界を変えなきゃいけないんだ。」

 これは神と人、2人の物語である。
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