カルピスサワー

ふうか

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 改めて好きだと告白された時『三年も、ずっと好きでいてくれたのか』という感動はあった。だけど、何となくそんなに強い気持ちじゃなくて、中学生が隣の席に座った子を「いいな」と思うようなそんな気持ちだと思っていた。

 ──俺、怖くて重いんで。加藤さん、次までに覚悟してくださいね。

 囁かれた言葉が耳に甦る。

 近すぎて顔は見えなかったけど、きっと俺の見た事のない真剣な顔をしてたはず。仕事をしている時の真剣な表情? それとも三年前に告白した時みたいな? 見たことのない表情を思い描いてみる。

 当然見た事のない表情なんてわかるわけもなく、でもそれだけでドキドキと胸が躍る。重い愛情が嬉しい。
 真剣に想いを寄せられるというのは、こんなに浮足立つものだったか? そんなことすら、もう忘れてしまった。

 握った手の熱さと、触れそうになった身体の熱さ、耳元に囁かれた言葉の熱さを思い出して俺はゾクリと身体を震わせた。

 ……なんか、久々すぎて本当に色々忘れてるな。

 部屋の窓は昼の熱気を追い出すために開けたままで、一階のこの部屋は通行人に音が筒抜けだ。そんなことわかっているけど、この熱を逃してしまうのが惜しくてそっと股間に手を伸ばす。

 ジワリと熱くなる予感。……これも、久々かも。
 自慰をするのが珍しい程枯れてはいないが、誰か特定の人を想って、身体が先に反応するのは久々だった。

 いつもは『抜こうかな』という行為が先で、エロ動画もティッシュも準備断端用意して挑む。もちろん通行人対策に窓も閉める。声や気配を察知されるのも恥ずかしいが、良い所で酔ったオッサンの愚痴なんか聞いた日には萎えてしまうからだ。

 いつでも手に取れる位置に置いてあるリモコンで、とりあえずテレビを付ける。流れていても一番気にならなそうな自然のドキュメンタリー番組を選んで、飛び上がるクジラの映像を流す。
 テレビから流れる海上の波の音と、コポコポと水中の空気が上がる音を聞きながら、もう固くなり始めた性器を握る。

「……ふ」

 あまりの気持ち良さに思わず息が漏れた。……こんなに、気持ち良いものだったっけ?

 宮下の熱さを思い出すだけで熱を持ち、握るだけで固くなる。くちづけを思い出すだけでピクリと震える。
 二十代に戻ったみたいだった。自分の手を宮下の手に置き換える。暗い夜道で、たどたどしく手を握った繊細な指先。

 あの指先で、宮下はどうやって触るんだろう? やっぱり優しく触れるんだろうか、それとも強引にキスした時みたいに?

 生ぬるいカルピスの味を思い出す。宮下にくちづけて、薄いキュッと切り上がった唇を舐め、あの甘い味のする舌を味わいって舌先を吸い上げたい。それから、宮下の熱を、もっと確かめたい……。

 宮下の性器はどんなだろう? 身体と同じに細くて長い? 見た目通りのきれいな性器だろうか。あぁ、でも骨格はしっかりしているから思いの外逞しいかもしれない、太い性器は好きだ。握った時の充実感も、咥えた時のいっぱいになる感じも……。知らず知らずのうちに自分好みの性器を思い描く。

 キスして、互いの性器を愛撫し合う。……そんな、想像をする。

 そのまま奥深くまで舌を差し込んで腔内を侵したら声を漏らすだろうか。強く性器を扱き上げたらどんなふうに啼くんだろう。胸も弱いだろうか。つまんで舐めたら、震えて悦ぶだろうか。

 妄想の中の、滑らかな肌を俺の指が辿っていく。時折ハスキーな喘ぎを漏らしながら、されるがままに快感を訴える身体。ふるりと震えて、俺に抱き付き、耳元で囁く。

「もう、挿れて下さい……」

 誘われるままに宮下の長い足を抱えて、最奥に押し当て、押し込む。

「……ーっ」

 息を詰めて俺の性器を受け入れ、ハクハクと喘ぐ。苦し気に息を継ぐ唇を口でふさいで、ビクリと震えた尻を掴み思うさま揺さぶって……。

「ぁあっ、あぁーー……っ」

 絶頂の声を上げ、宮下が長い手足でぎゅっと俺にしがみつく──。



 はっ、はっ、と荒い息を吐き、自慰とは思えない充足感に満たされる。想像の中の宮下は可愛らしく、いやらしかった。

 手のひらで受け止めた精液を拭うために身体を伸ばす。シュッと乾いた音を立ててティッシュが箱から抜き取られた。この音を聞くと『終わった』感じがしてスッと熱が醒めていく。
 タイミングよく外の道路を通行人が通りかかり、ガタガタンと側溝のグレーチングの上を自転車が通る音がして、一気に現実が圧し掛かった。


「あー……、やっちまった……」

 ふつふつと後悔の念が湧いてくる。
 宮下を好きだと意識して二年近く経つが、その間、宮下でこういう想像をしたことはなかった。……いや、全く無かったわけではないが、思わず想像しても意図的にその先は考えないように、自慰のネタにはしないようにしていた。

 部下として働いているのだから、立派な成人した男性だということはわかっている。見た目も、中身も年相応な至らなさを感じることはあっても、子どもだとは思わない。

 エロい動画やグラビアのでは十八歳、二十歳、大学生……、まさしく宮下の年代の子たちが重宝されて出ずっぱりだ。好みだと思えばそういう動画のお世話になることもある。
 その年頃の自分はとっくに童貞ではなかったし、むしろ恋人でない人とも関係を持つこともあった。理屈ではわかっている。だけど、いざ宮下を好きな人だと、セックスしたい相手だと認めてそういう対象として見るのはずっと罪悪感があった。

 悪い大人が悪戯しているような、たぶらかしているような。例え一方通行でも、自分の妄想の中だけだとしても、とんでもなくやましいことをするようで、そこは一線を引いてきた。

 ──二年近く我慢し続けたのに、少し触れ合っただけで全部があっという間に無駄な努力と化した。ガックリと肩を落として後悔に浸る。
 いや、付き合うとなった時にわかってはいた。それまで含めて付き合うんだと、浮かれながらも覚悟はしたけれど……。だからといって、はいそうですかと、急に方向転換はできなかった。

 煙草に火を付け、自分を慰めるように煙を吸い込む。

 動き始めたら止まらないのはわかってる。わかってるけど「さぁ、どうしようかな」と考えた。

                                                                                                                                                                    
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