カルピスサワー

ふうか

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カルピスサワー 28


  ……やっぱり、流されすぎだった!


 そう思った時にはもう遅い。
 宮下の名誉のために言うと、決して宮下だけが悪いわけじゃない。不可抗力と言おうか、むしろ、セックスしたてのカップルなら当然とでも言おうか……。

 そりゃ勃つよな!?

 男の「何にもしない」なんて信じるなって何かで見たけれど、下心のある関係なら尚更「そりゃそうだ」って思う。
 本当に何もしないことはあるだろうし、その努力をすればそれも充分可能だろう。けど『勃つ』事まで『なにか』に入れてしまったら、ほぼ無理だ。

 だってコイツは、俺の身体の一部でありながら俺の意志とは別の所で生きている。当然、宮下のソイツだって、気持ちだけではどうならない事もあるわけで、同じ男だからこそ理解ってしまう、仕方ない。
 俺の方は、昨日までで枯れつつあったものをしっかり搾り取られて、更に知恵熱か、疲労か、風邪か、それともその全部かで熱まで出して、勃つ程の元気も無かった。

 けれど宮下はまだまだ性欲旺盛、やりたい盛りがようやく落ち着き始めたって年齢で、若くて体力の復帰だって早い。
 それがようやく片想いから願い叶って……、って考えただけでも、我慢しろってのが辛い。それは、俺だって充分すぎる程分かるのだ。
 わかっていたのに、たぶんやっぱり少し弱っていたんだと思う。


 宮下を意識しながら手早く着替えだけして寝床に戻る。

「……くる?」

 コロリと横になって上掛けをめくって呼んだ。そうしたら「おじゃまします」なんて神妙な顔をしてベッドに上がるものだから、二人で笑って。
 そのままクツクツと笑う音を、くっついた胸から直接聞いた。普段だったら恥ずかしくてできないような甘える仕草も、熱で理性が弱っているのか、出来てしまう。

 小さい頃はともかく、大きくなってからは甘やかすことはあっても、こんなに手放しで甘やかされることって稀で、甘やかされる心地よさに呑まれる。宮下の手が子どもを寝かしつけるように、優しくトントンと背中を叩いた。
 すぐに心地よい睡魔が襲ってくる。あくびをしながら、気になって念を押す。

「……宮下、ちゃんと、帰れよ……」
「はい。大丈夫ですから寝てください」

 なんて言うから誘い込まれるみたいにそのまま寝て、気付いたら宮下の手を腕枕にして寝ていた。……案の定、宮下もすよすよと寝息を立てている。
 このままじゃ宮下の腕が痺れるからと、腕の上から頭をどかそうと動くとしっかりとは寝ていなかった宮下が「うん……」と呻く。

「腕、痺れるだろ。どけて」
「んー……」

 頭を上げて腕をどかそうとすると、そのまま寝惚けた宮下に抱きこまれる。
 あーあ、もう、よけいに身動き取れなくなったぞ、としっかりガードされた隙間から首を伸ばして電気をつけっぱなしの室内を見る。
 遅い時間かと焦ったけれど、時計の針は十時ちょっと前を指している。

 今日仕事を早退して帰って来たのが三時過ぎ、宮下が来たのが六時頃だと考えると五時間ちょっとくらいは寝たのか? 寝る前のダルさは無くなっていて、とにかく喉が渇いている。

 すぐそこにスポーツドリンクのペットボトルは見えているけど……、このロックを外さない事には身動き一つとれやしない。再びもぞもぞと動いて何とか腕の中から逃れようとした、多分その動きが悪かったんだと思う。
 まずは上半身を外し、絡まった足から逃れようと身体を捻る。……と、気付いてしまった。

 ……勃ってるじゃん!!

 そうだよな、そりゃ勃つよな!
 心の中で宮下のソレに話しかける。オマエは悪くない、悪くないけど……ちょっと待ってくれ。今はさすがに無理な気がする。主に肉体的な問題で。
 身体はスッキリとしているけど穴は痛いし、やっぱり腰の奥、背骨みたいな所も時折ミシリというし。

 寝た子が起きちゃってるからには、本体を起こさないようにと気を付けたけれど、ぴったりと密着しているからにはそんな訳にはいかなかった。
 なんとかほとんどの拘束を解いてベッドから這い出ようとした所で再び宮下が呻いて名前を呼んだ。

「ん……、加藤さん……?」

 その寝惚けた感じは可愛いけどな、下半身が可愛くない事になっているから。いや、可愛くないことになっちゃってる宮下は可愛いんだけどな……。
 うん、やっぱり俺、まだ熱があるのも。

「ちょっと、喉乾いた」

 飲み物を取りたいというと、もう一度掴もうとしていた腕を素直に引っ込めた。俺はベッドを降りてテーブルの上のペットボトルに口を付けた。そうとう喉が渇いていたらしく、ゴクゴクと一気に四分の一程飲んでしまった。

「宮下も飲む? あ、でも風邪だったらうつったらまずいな」
「大丈夫ですよ」

 一応心配したのに、平気だからと俺からペットボトルを受け取り、寝転がったまま少し上体を起こして器用に飲んでみせる。

「……結構、宮下もズボラなんだな。仕事の時はそんな感じしないのに」
「そうですか? ……仕事の時はちょっと猫被ってるかも」
「仕事中は几帳面な感じだけど」
「加藤さんは、仕事の時もあんまり変わらないですよね」
「そうか?」
「そうですよ。なんていうか……、雑ってわけじゃないけど大胆でびっくりする時あります」

 うーん……そうかな? 自分のことはよく分からない。
 よく知っていると思っていた相手の、意外な点を知っていくのはなんか楽しい。まだまだ、知らないことの方が多いのだろうけど。
 んーっと宮下が身体を伸ばす。

「加藤さん寝たら帰ろうと思ってたのに……、釣られて寝ちゃいました」
「だな、まだ早くて良かった。帰るか?」

 俺の言葉に『帰りたくないけど……』という顔でこちらを見る。そんな顔されたら思わず、まだいて良いよと言いたくなるけどな、明日も仕事がある。今の感じなら大丈夫だと思うけど、明日俺が休んだら、宮下にその穴を埋めてもらわなきゃいけない。

「……帰ります」

 しゅん、と耳と尻尾が垂れるのが見えるみたいだった。

「ん。また週末おいで」
「はい」

 素直に頷いてベッド上に座る。上掛けを取ると、ベッドの下に座った俺の目の高さがちょうど宮下の股間になる。

「あ……」
「あ……」

 声が出たのは二人同時だった。あまりにも目の前すぎて無視も出来なかった。

「……すまん……」
「いえ、なんかすみません。何にもしないとか言っておきながら……」
「いや、わかるから……。すまんな」
「……」

 二人で赤くなって口を噤む。なんとも言えない、沈黙が落ちた。

「トイレ行ってきます」
「……する?」
「え?」

 また同時に発した言葉に、驚いて宮下が俺を見た。

「さすがに挿れるのは無理だけど……抜くくらいなら……」

 あまりに宮下がまじまじと見るもんだから、だんだんと声が小さくなった。

「でも、具合悪い人にそんな」
「寝たら元気になったから。もしかしたら寝不足だったのかも……」

 引き留めるようなことを言う。『帰れ』とか言ってたくせに。

 ……だって、仕方ない。そんなの見たら、ちょっと嬉しくもなる。男にとって、愛情と股間は直結してる。性欲=愛情ではないけれど、愛情は性欲に変換される。
 だから宮下の『やりたい』のは、愛情も含んだ『やりたい』のはずなのだ。

「いいよ、こっち向きな」

 俺の言葉にたっぷり十秒迷って、宮下がこっちを向いた。
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