カルピスサワー

ふうか

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カルピスサワー 56

 勢い、ではないけれど告白し合って、抱き合ってキスをして。

 場所はロマンチックな場所でもないけれど、かえってこういう場所の方がシチュエーション的には最高に盛り上がるというか。変に景色のきれいな場所とか、いいレストランとかより、より人生に馴染んだみたいな、心の奥まで沁みるというか。
 ロマンチックな雰囲気に押されない、その良さがある。のだけれど、逆に言えば生活に密着しすぎていて、我に返った時の恥ずかしさの比は比べものにならない。

 キスをした唇を離して、抱き合って──。

 少し動く度にゴツゴツ当たるこたつだとか、ロマンチックとは言い難い日常の灯りの強さとか、よくよく見慣れた壁紙と天井だとか。そいつらがとにかく気恥ずかしさを煽る。
 このままゆっくりと包み込まれて宮下を感じていたい──。
 なんて思うのに、ついつい湧き上がってくるのは笑い。幸せで仕方ないのに、いや幸せだから余計ににまにま笑ってしまう。
 くふふと堪えきれずに声が出る。

「もー…、加藤さん……」
「ごめん、たえきれなくて」

 いひひ、と笑いながら謝る。宮下と一緒に過ごすようになってから、大分慣れたとは思うんだけど、とにかくこの甘ったるい空気感がくすぐったくて仕方ない。

「いいんですよ、分かってるから。嬉しいんですよね、加藤さんは。嬉しくて恥ずかしいと笑っちゃうんですよね~」
「へっ?」
「もう、バレてますから」

 そう言って、ほっぺたにちゅっ、と。

「そういうところ、可愛いですよねぇ。ほら、顔がどんどん赤くなってきましたよ?」
「……ばかっ」

 指摘されると余計に恥ずかしくて。かぁっと頭に血が昇っていく。
 次は真っ赤になっているだろう頬に、キス。

「もう、耳まで真っ赤ですよ?」
「ばか、やめろって」

 耳元に直接ささやいて、耳にキス。
 熱い息をかけられて、恥ずかしさに逃げ出したくなるのをぎゅっと抱きしめて抑え込まれて。ばたばたと暴れてみるけれど、本気で離して欲しわけじゃない。どちらかと言ったら……。

「可愛いなぁ、もう」

 くくくと笑って宮下が耳に噛り付く。反射でビクリと反応すると、ますますぎゅっと抱きしめられてもう一度、

「可愛いなぁ!」

 耳にキス、それから頬に、まぶたに、鼻の先に、唇の横に。

「もう! 止めろって」
「だって、可愛いんですもん」
「……それもいい、可愛くないから!」

 ちゅっちゅと顔じゅうにキスされる。だけど……、唇には触れなくて、

「こんなに可愛いのに~」
「ぅう……、可愛いも言うな」
「無理ですよ~」

 完全に面白がられているのはわかるけれど。どうしたって、可愛いはないだろ!?
 そんな間にも、また唇の横に。そうして避けられていると、ますますもどかしくなる。唇にキスして欲しくて、少しだけ宮下の唇を追いかける。
 ふ、と宮下の笑う気配がした。

 完全におちょくられている。宮下の手のひらの上で踊らされている。それはわかったけれど、どうしようもない。
 踊られされててもいいじゃん、て思う自分がいる。

 もういちどくちびるの横にキスした宮下に、今度は強引に唇を合わせてキス。
 触れるだけじゃ足りなくて、かぷり、と宮下の唇を噛んで、もっとちゃんとして!とねだる。

 噛んだ唇が斜めにずれて、ぶつかる鼻先を逸らした。そのまま、口が開いて誘われる。唇だけを合わせて、互いを確認するみたいに何度もキスする。
 ゾワゾワと快感が駆け上がって、堪らなくなってくる。もっと、とねだってふるえる肩を、またぎゅっと抱きしめられた。

 それを合図に、舌先が唇を舐めた。それをぺろりと舐め返して、それから舌を絡める。
 ん、とのどが鳴って、くちゅりと唾液の絡む音がする。身体が溶けてどろどろになっていくような錯覚に襲われながら、長くて濃密なキスをした。

 いつの間にか俺を抱きしめていた宮下の腕が、身体をたどっている。
 背中を撫でられる気持ち良さにうっとりとしていると、脇腹を撫で上げられてぞわりと飛び上がる。
 意図せず、ふ、ん、と喘ぐみたいな音がこぼれて、宮下が煽られている。

「加藤さん……」

 興奮した宮下に熱く名前を呼ばれて。それだけで身体の真ん中からしびれるみたいだ。
 それから、もう一度キス。
 絡めて吸われすぎた舌先は、触れられるだけでびくびくと身体を跳ねさせる。

「んぅ……」

 舌をざり、と歯でしごかれて、たらりと締まりのない唇からよだれがひとすじ流れる。

「……梗平さん」

 最近ではあまり呼ばれなれない、だけど馴染んだ名前も、宮下の声帯を通すだけで特別な響きになる。ふる、と身体がふるえて、力が抜ける。
 性急に求め合うよりも、ゆっくり抱き合いたいなんて思っていたのに、先に俺が蕩けさせられてしまう。ぞわぞわとした快感にうっとりと身を委ねて、まあいいかと思う。

 求められているうちが花って言うしな。
 いつか、宮下が今みたいな情熱が無くなったとしても、それでも今があるのは間違いなくて。拒むよりも一度でも多く抱き合いたい。

 快感は身体を走り抜けて、宮下の手や唇の動きに反応する。けれど下半身はちょっと消化不良というか、明け透けに言ってしまえば勃ちは良くない。
 もともとの性欲は一般的だとは思うけれど、昨日の夜と、そう言えば今朝も。二十歳の年の差があって、やっぱり宮下はその差の分だけ元気で、ついでに射精することが目的のセックスは激しくて。
 ……まあ、それがとんでもなく気持ち良くはあるんだけど。

 ガタリと宮下の足がこたつの脚にぶつかった。帰って来た時にはひやりと冷え切っていた室内も、いつの間にかしっかりと暖まっている。

「このままじゃせまいですね」

 分かっているのに、と自分の性急さを恥じて笑って、宮下がこたつから這い出て、俺も一緒にごそごそと這い出た。たまにはせまいのも悪くないけど、ぴたりとくっつけないのは、今はさみしい。
 そのまま座った宮下の腕の中に収まる。

 背後から抱きかかえられた身体を逸らして宮下を見た。二人でくくくと顔を見合わせて笑って、仕切り直しのキス。すでにとろかされた身体は、クールダウンする間もなく熱くなっていく。
 宮下の手はいそいそと服のすき間を広げて、そこから素肌に触れる。
 あたたかくなった長い指が腹をなぞって、ズボンのカラステングのボタンを外す。チャックを下ろしてする、と手が下着の中に忍び込んで、ひゃっと跳び上がった。

 慣れない、するりとした感覚。素肌は指の指紋さえわかりそうなほど、はっきりと手の凹凸や動きを捉える。
 ──そうだ。今朝、剃ったんだっけ……。
 すっかり忘れていたことを思い出す。今日一日、トイレに行ったり何かする度に思い出していたのに、こういう時に限ってすっぽり頭から抜け落ちていた。

 宮下の手は、そのするするとした感触を確かめるみたいに、ゆっくりと肌を肌を撫でた。
 その感触がとんでもなく……、なんていうか、とんでもなく生々しい。身体がびくびくとふるえて、心臓がばくんと跳ねた。じわりと股間に熱が集まって、腰の奥、胎の真ん中のあたりが疼く。

 うわっ……、これ、だめ、かも……。

「んんっ、ぁ……」

 がまんできない感覚に、キスした唇を外して喘いだ。
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