黎明が紡ぐ夜の物語

のどか

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この夢の続きは紡がれない

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終わった。
長い夜の終わりは俺に許された少しの幸福な時間の終わりも意味する。
戦場が、生死の境を走り続けることが幸福だったなんてカミサマとやらは随分と底意地が悪いらしい。
少しの虚無感と、小さな痛みと、微かな絶望。
けれど、それ以上に安堵のほうが大きいのはようやくあいつを普通の女にもどしてやれるからだろう。
これでもうあいつに似合いもしない戦場で剣を振りまわさせなくて済む。
ただの女に戻って、誰かを愛して、誰かに愛されて、それで、俺の目の届かない場所で笑っていればいい。
そう思えば、俺もあの人みたいに潔くあれる気がした。
この数年、思いもよらない幸運に恵まれて無意識の育った執着を無理やりにでも抑えつけて手を離してやれるような気がした。
だから精一杯向けられた心から目をそらした。
小さく俯いたあいつの柔らかな頬に涙が伝ったのも見えないふりをした。
俺は決めたはずだ。
あいつは、あいつだけは巻き込まないと自分で誓ったはずだ。
だから、痛くない。
この息苦しさは、あの人の姿に自分を重ねて感傷に浸ってるだけだ。
あいつは関係ない。

「なーに、シケたツラしてんッスか?ボス」
「……」
「あれ?お嬢は一緒じゃないんッスね。
 ボスがあの超無防備・鈍感お嬢をひとりにするなんて珍しい。
 また無意識に愛想振りまいて馬鹿どもに絡まれてんじゃねぇですか?」
「……レオ」
「うげっ、俺が花守?
 言いだしっぺは俺ッスけどボスが行けばいいじゃないッスか。いつもみたいに。
 そっちのんが効果あるし」
「いいから行け」
「……ボスが何考えてんのかは知りませんけどお嬢だけは離さない方が良いと思いますよ。
 お嬢の為というよりはボス自身の為に」
「……」
「ま、こんなとこまでボスを追いかけて来ちまうようなお嬢ッスから、そう簡単に逃がしてもらえないような気もするっスけど」

突然現れて言いたいことだけ言ってひらひらと手を振りながら背を向けた部下に溜息が出る。
他人の目にどんな風に移ろうと、あいつは、俺を追いかけてきた訳じゃない。
叶えたい願いの為にこんなとこまで来た。
あれから随分たつのに、あいつの髪だってもう元の長さまで伸びきるくらいの時間が流れたというのに、俺は未だにあいつが何を願ってこの場所に立ったのかさえ分からない。
誰よりも理解しているつもりだった少女の心は、あいつが女に成長した今でも分からないままだ。
目をそらし否定し続けてきたあいつへ向ける“尊く大切な感情”とやらはもう見て見ぬふりができぬほど鮮明に主張するようになってきたというのに。
そのせいで、最近はあいつの言動のすべてを都合よく受け取りそうになるのだから笑えない。


「……こんな所にいたのか。ナハト」
「兄上」

落ちてきた冷たい声にゆっくりと顔をあげて視線を合わせる。
血の繋がった兄弟が凍えるような社交辞令をかわし合う様はさぞ滑稽だろう。
冷え切った労いの言葉の後に続く言葉を俺は知っている。
その言葉が紡がれた瞬間、俺はまた歩きださなければならないんだ。
今度こそひとりで、優しい思い出だけを抱いて闇に続く道を。
兄の口から零れた想像通りの言葉にクツリと笑んで頭を垂れた。




この夢の続きは紡がれない
(全てを受け入れることを誓う)
(だから、この先俺に与えられる幸福を全部)
(あいつに与えてほしい)
(それ以外もう何も望みはしないから)
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