完全幸福論

のどか

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第1章~平和な日常が戻ってきました~

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満足そうに笑って出て行ったセイラにノクトは深い息を吐く。
けれどその唇は珍しいことに緩やかな弧を描いていた。

もう、何年も前。
自分の失態のせいで最愛を失いそうになった時に同じ目を見た。
あの時は今よりもっと切羽詰まっていたノクトを今のセイラよりも幼いリヒトが同じ目をして驚かせた。

『俺、俺、まだガキだし、できることなんて少ないかもしんないけど、何でも言ってね。
 いっぱいいっぱいお手伝いするから!だから、はやく姉ちゃんを迎えに行こうね!』

状況は違う。ノクトの頭を悩ませている原因も。
それでも、親を支えようとする子どもの心は変わらない。
リヒトよりもずっと奔放で、親よりも兄を地でいく双子でもその覚悟は、決意は、変わらない。

「……しかたねぇ、今回は見逃してやる」

いつもより5分早いとはいえ時間に遅れてきたことには変わりないが今回に限り目をつぶることにしよう。
この明らかに握りつぶされた後のある皺くちゃの書類にも。


「さて、問題はこれをどう処理するか、か」

穏やかに和んでいた瞳をすぅっと細めてノクトは面倒くさそうに手紙を睨みつけた。
本来ならこれほど悩む理由はない。正直受けても蹴ってもどちらでもいい話だ。
もっというならセイラに見せた3枚目に書かれていた夜会の話なんて断わる気満々だ。
受けるとしてもジオを代理にたててノクトは参加する気はない。
ノクトが頭を悩ませているのは2枚目に書かれていた話を利用するか、このまま手を出さずに自然の成り行きに任せるか。
利用した場合、ターゲットたちどういう反応が見られるのかも気になるしそれによって巻き起こる人災の度合いも将来のために知っておいた方がいい気もする。
というかいざという時のためにまずはこのくらいで実験しておいて備えておくべきだと思う。備えあれば憂いなしだ。
だが、その為の準備もなかなか面倒だとも思う。
なにせちょっとした出来心からはじまった実験でトンデモナイ被害を起こされたらたまったものじゃない。
裁き方によっては大惨事になりうる面倒な素材だという自覚もある。

「まぁ、何ごとも経験だよな」

その一言のもと答えを決めたノクトはどうやってそこまで誘導するか策を練り始めた。
誰がどこまで騙されて、誰がいつどこで気がつくか。
自分の予想がどこまで通じて、どこからどんな風に逸れていくのか。
自分相手にどこまでくらいついてこれるのか。

「お手並み拝見といこうじゃねぇか」

愉しみでしかたないと歪められた唇を隠しもせずにノクトは素材を提供してくれるらしいマルティーニ伯爵からの手紙を丁寧に封筒にしまった。
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