完全幸福論

のどか

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第3章~あなたの愛に完全幸福します~

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リヒトと顔を合わせただけでまわれ右して走っていくセイラの姿やリヒトを前にすると耳まで真っ赤になって固まってしまうセイラの姿は平和の象徴だった。
これにはリヒトも困ったように眉を下げて微苦笑を零すしかない。
だが、あの事件のせいでセイラがノクトの後を継ぐことが決まってしまった今、ジオの跡を継ぎ次代のボスの右腕をする予定のリヒトとしては困った事態でもあった。
自分が仕えるに足る主にセイラがなれるのか、リヒトはそれを見極めなければならない。
セイラがリヒトが仕えるに足る主になれなかった時、リヒトは“兄”として手助けをしても“右腕”としての手助けはしないつもりでいる。
だから幾ら平和の象徴と言えど、今の状況は好ましくないものだった。

セイラ自身もそのことは重々理解しているので仕事はきちんとこなしている。
それでもやっぱりあれだけ大胆な告白をした身としてはリヒトを前にすると羞恥でどうすればいいのか分からなくなる。
それなのに今、セイラにまわされる仕事を管理しているのはリヒトだから毎日必ず顔を合わせて挙動不審な姿を見せてしまう。
呆れられていないか不安になるけれど『セイラ』と自分の名前を呼んでくれるリヒトの声はいつも通りで、喜べばいいのか悔しがればいいのか分からない。
それに最近気付いた事がある。まわされてくる仕事でリヒトはセイラを試している。
兄と妹としてではなく、告白された者とした者としてではなく、いつかそう遠くない未来になる“ボスと右腕”として。


無言で試されている。


それを感じ取った瞬間からセイラは変わった。
リヒトを繋ぎ止めておくために、ただその為だけにボスの椅子を奪うと誓った。
セイラにとってボスの椅子はそれ以外に価値はない。
だから無言で要求される仕事を今の自分のできる精一杯でこなす。
その変化にリヒトがほっと一安心したことを知らずにセイラは今日も自分を試す課題とも言える仕事をこなしていく。



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