8 / 27
ー壱ー
07.真白と蒼と薄紅が混ざる場所
しおりを挟む目的の場所を目指して華乃はひた走る。
大切な人たちと掛け替えのない時間を過ごしたあの場所に、一度は終焉を迎えたあの場所に。
サァアア―――。
風が吹く。
花びらが舞う。
薄紅の雪と蒼が混ざる。
視界を塞ぐ桜吹雪のその先で待っているその人に華乃は迷いなく歩み寄った。
「やはり来やったか」
「はい。許される限りお側に在ると誓いましたから」
美しいその人は困ったように微笑んで華乃の手をとった。
ひらひらふわふわ舞い散る花びらの中をゆっくりと歩く。
「ならばもう許せとは言わぬぞ」
「私が選んだ人生人生(みち)です。
母様の罪も父上の業も私には関係ありません。
全ては唯ひとり、お仕えすると決めた彼のお方のために」
「……ちぃとばかり寂しいがまぁよい。
流石は妾と旦那様の自慢の娘じゃ」
白魚のような手が優しく華乃の背中を押す。
薄紅の嵐に包まれたと思ったら一瞬でひんやりした感覚に切り替わった。
ただ頭の中に『行っておいで。運命に選ばれし娘―愛しい我が娘よ』という優しい声が響いていた。
ひんやりどころかどんどん冷たくなっていく感覚に華乃は慌てて飛び起きる。
そして苦虫をかみつぶしたような顔で空を睨みつけた。
「幾らなんでもこれはないでしょう、母様。
どうして春から真冬に逆戻りするんですか」
それでもその丘から見下ろす景色は随分と懐かしくて体が冷えるのも忘れて眼下に広がる眺めを魅入っていた。
「誰だ!!」
それを邪魔したのは低い男の声だった。
華乃はドキドキと脈打つ心臓を抑えつけてゆっくりと振り返る。
「、」
男が息を呑むのを感じた。
信じられないものをみる目で華乃を凝視する。
華乃は振り返った先にいた男に困ったように微笑った。
「やっぱり柚稀は父上似だったんだね」
「あね、うえ……?本当に華乃姉上なのですか!?」
「うん。還ってきちゃった」
「還ってきちゃったって!というかなんですかその破廉恥な格好は!」
「あー、うん。とりあえず家に帰ろうか?誰かに見られたら困るし」
ギャンギャン騒ぐ柚稀を引き連れて華乃は真っ直ぐに家路を辿った。
変わった場所を寂しそうに眺めながら、そのまま残っている場所に小さな安心を零しながら、随分と大きくなった弟の背中を眺めながら懐かしい道を歩く。
柚稀が逞しくなった分だけ老いているはずの父は自分の姿を見てどう思うだろうか。
そしてただ一言、自分が姉であると言っただけであっさりと信じてしまう柚稀の素直さを華乃はちょっぴり心配した。
0
あなたにおすすめの小説
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
好感度0になるまで終われません。
チョコパイ
恋愛
土屋千鶴子(享年98歳)
子供や孫、ひ孫に囲まれての大往生。
愛され続けて4度目の転生。
そろそろ……愛されるのに疲れたのですが…
登場人物の好感度0にならない限り終わらない溺愛の日々。
5度目の転生先は娘が遊んでいた乙女ゲームの世界。
いつもと違う展開に今度こそ永久の眠りにつける。
そう信じ、好きなことを、好きなようにやりたい放題…
自覚なし愛され公女と執着一途皇太子のすれ違いラブロマンス。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。
その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。
そこで待っていたのは、最悪の出来事――
けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。
夫は愛人と共に好きに生きればいい。
今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。
でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。
妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。
過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――
愛とオルゴール
夜宮
恋愛
ジェシカは怒っていた。
父親が、同腹の弟ではなく妾の子を跡継ぎにしようとしていることを知ったからだ。
それに、ジェシカの恋人に横恋慕する伯爵令嬢が現れて……。
絡み合った過去と現在。
ジェシカは無事、弟を跡継ぎの座につけ、愛する人との未来を手にすることができるのだろうか。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
恋と首輪
山猫
恋愛
日本屈指の名門・城聖高校には、生徒たちが逆らえない“首輪制度”が存在する。
絶対的支配者・東雲財閥の御曹司、東雲 蓮の「選んだ者」は、卒業まで彼の命令に従わなければならない――。
地味で目立たぬ存在だった月宮みゆは、なぜかその“首輪”に選ばれてしまう。
冷酷非情と思っていた蓮の、誰にも見せない孤独と優しさに触れた時、みゆの心は静かに揺れはじめる。
「おめでとう、今日から君は俺の所有物だ。」
イケメン財閥御曹司
東雲 蓮
×
「私はあなたが嫌いです。」
訳あり平凡女子
月宮 みゆ
愛とか恋なんて馬鹿らしい。 愚かな感情だ。
訳ありのふたりが、偽りだらけの学園で紡ぐカーストラブ。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる