蒼の記憶

のどか

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ー弐ー

13.決意

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心底安心した顔で見送りに付いて来たオッサンふたりを睨みつける余裕もないくらいに華乃は混乱していた。

雅冬の紫月に対するあの執着は一体……?
というか惚れた女って!惚れた女って言った!!
似てるって顔見ていませんよね!?障子越しにしかお会いしていませんよね!?
雪雅様と父上が出られるときに見えたとしてもチラッと見えただけですよね!?
しかもあの文脈からするとそれって紫月のことですよね!?
雅冬様と過ごした紫月(わたし)は常に男の振る舞いだったんですけど!
いくら後から女だとバラされたとして恋愛対象になるには大きすぎる年齢と性別の壁があったと思うんですけど!!

脳内でリピートされている信じられない会話を止めることもできずに華乃は顔を引き攣らせる。

「華乃、」
「ち、父上ぇ」
「まぁ、ビックリしたよなぁ」

思わず情けない声をあげた華乃の頭を撫でながら黎季と雪雅は困ったように眉を下げた。

「ビックリどころじゃないです!私そんなに匂いますか!?
 というかあの方一体どなたですか!?
 私の知ってるお可愛らしい雅冬様はどこですかーーっ!?」
「大丈夫、華乃からはいい匂いしかしないよ。流石女の子だね!」
「そういうことじゃないんですよぉおお!!この馬鹿殿!!」
「だから絞まってる!おじさんの首しまってるぅうう!!!」

ぐえっと苦しそうな呻きをあげる雪雅と混乱を極めているらしい華乃を引き離しながら黎季は小さく溜息を吐いた。
華乃は知らなくても雪雅も黎季も、そして柚稀も知っている。
紫月を奪われて激昂した雅冬を。
抜けがらになってしまった雅冬を。
誰よりも深く傷つき絶望した雅冬の世界の中心が未だに紫月だということを。
知っているからこそ、あの執着を咎めることも止めてやることもできなかった。
紫月を想い続けることで雅冬は自ら命を絶つことはなかった。
紫月が願ったから紫月が望むような立派な当主になった。
その動機が全て紫月であろうと、雅冬は誰よりも雪雅の後継ぎにふさわしい存在になっていた。
いつかその穴を埋めてその傷を癒してくれる存在に出会えるだろうと高を括っていたというのもあるけれど、それでも紫月への想いが、執着が、まだ幼かった雅冬の未来を紡ぎ続けるのを知っていて止めることなどできるはずもなかった。

「こんなことしてる場合じゃないです!
 奥方様は?奥方様はもう迎えておられるんですよね?」
「あー、それが……」
「必要ない、の一点張りで雅冬様はまだおひとりでいらっしゃる」
「はぁ!?必要ないってお世継ぎはどうするんです!?」
「それは大した問題じゃないんだ。養子をとるなりなんなりすればいいからね」
「心配なのは雅冬様本人だ」
「……。雪雅様、申し訳ありません。お暇をください」
「そうだね。ほとぼりが冷めるまで何処かに身を隠した方がいい」
「いえ、お城に上がらせていただきます」
「……。は?」
「え?ちょ、華乃?」
「もういない“紫月”をいつまでも想っていても雅冬様はお幸せになれません。
 キッパリ断ち切って頂きます。そして奥方様を!!」

これはもう、抱きしめて大丈夫だと囁いてどうにかなるレベルじゃない。
涙を拭ってどうこうなる話じゃない。
キッパリ、スッパリ、紫月を断ち切ってもう居ない紫月ではなく、側で癒し支えてくれる奥方そんざいを雅冬様に!!

「どうやって?」
「……様子を見ながら考えます。最悪夢枕にでも立ちます」
「……それでお前の気が済むならおじさんは構わないけどね」
「どうせ止めても聞きはしないんだろうし」

雅冬のことに関しては行動力があり過ぎる華乃にふたりは諦めたように溜息を吐いて小さく笑った。
絶対に無理だと思う。
それは止めることはしなかった、できなかった自分たちが一番よく知っている。
それでも華乃ならば、と思ってしまう。雅冬を変えるのはいつだって華乃だったから。

「あの子のことは華乃に任せるよ」

だからこそ、やる気をみなぎらせている華乃をもう二度と失わないようにしなければと思った。

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