14 / 27
ー弐ー
13.決意
しおりを挟む
心底安心した顔で見送りに付いて来たオッサンふたりを睨みつける余裕もないくらいに華乃は混乱していた。
雅冬の紫月に対するあの執着は一体……?
というか惚れた女って!惚れた女って言った!!
似てるって顔見ていませんよね!?障子越しにしかお会いしていませんよね!?
雪雅様と父上が出られるときに見えたとしてもチラッと見えただけですよね!?
しかもあの文脈からするとそれって紫月のことですよね!?
雅冬様と過ごした紫月(わたし)は常に男の振る舞いだったんですけど!
いくら後から女だとバラされたとして恋愛対象になるには大きすぎる年齢と性別の壁があったと思うんですけど!!
脳内でリピートされている信じられない会話を止めることもできずに華乃は顔を引き攣らせる。
「華乃、」
「ち、父上ぇ」
「まぁ、ビックリしたよなぁ」
思わず情けない声をあげた華乃の頭を撫でながら黎季と雪雅は困ったように眉を下げた。
「ビックリどころじゃないです!私そんなに匂いますか!?
というかあの方一体どなたですか!?
私の知ってるお可愛らしい雅冬様はどこですかーーっ!?」
「大丈夫、華乃からはいい匂いしかしないよ。流石女の子だね!」
「そういうことじゃないんですよぉおお!!この馬鹿殿!!」
「だから絞まってる!おじさんの首しまってるぅうう!!!」
ぐえっと苦しそうな呻きをあげる雪雅と混乱を極めているらしい華乃を引き離しながら黎季は小さく溜息を吐いた。
華乃は知らなくても雪雅も黎季も、そして柚稀も知っている。
紫月を奪われて激昂した雅冬を。
抜けがらになってしまった雅冬を。
誰よりも深く傷つき絶望した雅冬の世界の中心が未だに紫月だということを。
知っているからこそ、あの執着を咎めることも止めてやることもできなかった。
紫月を想い続けることで雅冬は自ら命を絶つことはなかった。
紫月が願ったから紫月が望むような立派な当主になった。
その動機が全て紫月であろうと、雅冬は誰よりも雪雅の後継ぎにふさわしい存在になっていた。
いつかその穴を埋めてその傷を癒してくれる存在に出会えるだろうと高を括っていたというのもあるけれど、それでも紫月への想いが、執着が、まだ幼かった雅冬の未来を紡ぎ続けるのを知っていて止めることなどできるはずもなかった。
「こんなことしてる場合じゃないです!
奥方様は?奥方様はもう迎えておられるんですよね?」
「あー、それが……」
「必要ない、の一点張りで雅冬様はまだおひとりでいらっしゃる」
「はぁ!?必要ないってお世継ぎはどうするんです!?」
「それは大した問題じゃないんだ。養子をとるなりなんなりすればいいからね」
「心配なのは雅冬様本人だ」
「……。雪雅様、申し訳ありません。お暇をください」
「そうだね。ほとぼりが冷めるまで何処かに身を隠した方がいい」
「いえ、お城に上がらせていただきます」
「……。は?」
「え?ちょ、華乃?」
「もういない“紫月”をいつまでも想っていても雅冬様はお幸せになれません。
キッパリ断ち切って頂きます。そして奥方様を!!」
これはもう、抱きしめて大丈夫だと囁いてどうにかなるレベルじゃない。
涙を拭ってどうこうなる話じゃない。
キッパリ、スッパリ、紫月を断ち切ってもう居ない紫月ではなく、側で癒し支えてくれる奥方を雅冬様に!!
「どうやって?」
「……様子を見ながら考えます。最悪夢枕にでも立ちます」
「……それでお前の気が済むならおじさんは構わないけどね」
「どうせ止めても聞きはしないんだろうし」
雅冬のことに関しては行動力があり過ぎる華乃にふたりは諦めたように溜息を吐いて小さく笑った。
絶対に無理だと思う。
それは止めることはしなかった、できなかった自分たちが一番よく知っている。
それでも華乃ならば、と思ってしまう。雅冬を変えるのはいつだって華乃だったから。
「あの子のことは華乃に任せるよ」
だからこそ、やる気を漲らせている華乃をもう二度と失わないようにしなければと思った。
雅冬の紫月に対するあの執着は一体……?
というか惚れた女って!惚れた女って言った!!
似てるって顔見ていませんよね!?障子越しにしかお会いしていませんよね!?
雪雅様と父上が出られるときに見えたとしてもチラッと見えただけですよね!?
しかもあの文脈からするとそれって紫月のことですよね!?
雅冬様と過ごした紫月(わたし)は常に男の振る舞いだったんですけど!
いくら後から女だとバラされたとして恋愛対象になるには大きすぎる年齢と性別の壁があったと思うんですけど!!
脳内でリピートされている信じられない会話を止めることもできずに華乃は顔を引き攣らせる。
「華乃、」
「ち、父上ぇ」
「まぁ、ビックリしたよなぁ」
思わず情けない声をあげた華乃の頭を撫でながら黎季と雪雅は困ったように眉を下げた。
「ビックリどころじゃないです!私そんなに匂いますか!?
というかあの方一体どなたですか!?
私の知ってるお可愛らしい雅冬様はどこですかーーっ!?」
「大丈夫、華乃からはいい匂いしかしないよ。流石女の子だね!」
「そういうことじゃないんですよぉおお!!この馬鹿殿!!」
「だから絞まってる!おじさんの首しまってるぅうう!!!」
ぐえっと苦しそうな呻きをあげる雪雅と混乱を極めているらしい華乃を引き離しながら黎季は小さく溜息を吐いた。
華乃は知らなくても雪雅も黎季も、そして柚稀も知っている。
紫月を奪われて激昂した雅冬を。
抜けがらになってしまった雅冬を。
誰よりも深く傷つき絶望した雅冬の世界の中心が未だに紫月だということを。
知っているからこそ、あの執着を咎めることも止めてやることもできなかった。
紫月を想い続けることで雅冬は自ら命を絶つことはなかった。
紫月が願ったから紫月が望むような立派な当主になった。
その動機が全て紫月であろうと、雅冬は誰よりも雪雅の後継ぎにふさわしい存在になっていた。
いつかその穴を埋めてその傷を癒してくれる存在に出会えるだろうと高を括っていたというのもあるけれど、それでも紫月への想いが、執着が、まだ幼かった雅冬の未来を紡ぎ続けるのを知っていて止めることなどできるはずもなかった。
「こんなことしてる場合じゃないです!
奥方様は?奥方様はもう迎えておられるんですよね?」
「あー、それが……」
「必要ない、の一点張りで雅冬様はまだおひとりでいらっしゃる」
「はぁ!?必要ないってお世継ぎはどうするんです!?」
「それは大した問題じゃないんだ。養子をとるなりなんなりすればいいからね」
「心配なのは雅冬様本人だ」
「……。雪雅様、申し訳ありません。お暇をください」
「そうだね。ほとぼりが冷めるまで何処かに身を隠した方がいい」
「いえ、お城に上がらせていただきます」
「……。は?」
「え?ちょ、華乃?」
「もういない“紫月”をいつまでも想っていても雅冬様はお幸せになれません。
キッパリ断ち切って頂きます。そして奥方様を!!」
これはもう、抱きしめて大丈夫だと囁いてどうにかなるレベルじゃない。
涙を拭ってどうこうなる話じゃない。
キッパリ、スッパリ、紫月を断ち切ってもう居ない紫月ではなく、側で癒し支えてくれる奥方を雅冬様に!!
「どうやって?」
「……様子を見ながら考えます。最悪夢枕にでも立ちます」
「……それでお前の気が済むならおじさんは構わないけどね」
「どうせ止めても聞きはしないんだろうし」
雅冬のことに関しては行動力があり過ぎる華乃にふたりは諦めたように溜息を吐いて小さく笑った。
絶対に無理だと思う。
それは止めることはしなかった、できなかった自分たちが一番よく知っている。
それでも華乃ならば、と思ってしまう。雅冬を変えるのはいつだって華乃だったから。
「あの子のことは華乃に任せるよ」
だからこそ、やる気を漲らせている華乃をもう二度と失わないようにしなければと思った。
0
あなたにおすすめの小説
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
好感度0になるまで終われません。
チョコパイ
恋愛
土屋千鶴子(享年98歳)
子供や孫、ひ孫に囲まれての大往生。
愛され続けて4度目の転生。
そろそろ……愛されるのに疲れたのですが…
登場人物の好感度0にならない限り終わらない溺愛の日々。
5度目の転生先は娘が遊んでいた乙女ゲームの世界。
いつもと違う展開に今度こそ永久の眠りにつける。
そう信じ、好きなことを、好きなようにやりたい放題…
自覚なし愛され公女と執着一途皇太子のすれ違いラブロマンス。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。
その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。
そこで待っていたのは、最悪の出来事――
けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。
夫は愛人と共に好きに生きればいい。
今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。
でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。
妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。
過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――
愛とオルゴール
夜宮
恋愛
ジェシカは怒っていた。
父親が、同腹の弟ではなく妾の子を跡継ぎにしようとしていることを知ったからだ。
それに、ジェシカの恋人に横恋慕する伯爵令嬢が現れて……。
絡み合った過去と現在。
ジェシカは無事、弟を跡継ぎの座につけ、愛する人との未来を手にすることができるのだろうか。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
恋と首輪
山猫
恋愛
日本屈指の名門・城聖高校には、生徒たちが逆らえない“首輪制度”が存在する。
絶対的支配者・東雲財閥の御曹司、東雲 蓮の「選んだ者」は、卒業まで彼の命令に従わなければならない――。
地味で目立たぬ存在だった月宮みゆは、なぜかその“首輪”に選ばれてしまう。
冷酷非情と思っていた蓮の、誰にも見せない孤独と優しさに触れた時、みゆの心は静かに揺れはじめる。
「おめでとう、今日から君は俺の所有物だ。」
イケメン財閥御曹司
東雲 蓮
×
「私はあなたが嫌いです。」
訳あり平凡女子
月宮 みゆ
愛とか恋なんて馬鹿らしい。 愚かな感情だ。
訳ありのふたりが、偽りだらけの学園で紡ぐカーストラブ。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる