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ー参ー
23.城下町
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雅冬に手を引かれて城下町を歩く。
よく知った店もあれば自分のいない間に変わってしまった店もあった。
だんだんと落ち着いてきた気持ちで視線を彷徨わせれば、それに気づいた雅冬が口元を緩めてあそこの饅頭は美味いやら、あの茶屋の娘は柚稀に懸想しているやらと色々なことを教えてくれた。
「これはこれは、いらっしゃいませ!」
「おう、親父久しぶりだな」
華乃は立ち寄った団子屋の主人と気安く話す雅冬に目を丸くする。
まるで常連みたいな会話だ。
「そういう冬月の旦那はえらい別嬪さんといっしょじゃあねぇですか!」
「いい女だろ?」
雅冬は呆然と自分たちを見ている華乃をちらりと見てニッと笑った。
まるで自分のものだというような雅冬の態度にまた華乃が驚くのも気にせずに団子を頼んだ雅冬はあいている席に華乃を座らせてお茶を飲む。
「おいしい」
運ばれてきた団子をぱくりと食べると甘い味が広がって戸惑いでいっぱいだった華乃の表情も和らいだ。
「ここの団子は美味いだろ?」
悪戯が成功した子供のように笑って雅冬はもっと食えと自分の分の団子も華乃の皿にのせる。あわあわと慌てる華乃にいいから食えともう一度笑うと嬉しそうに華乃が団子を食べる姿を眺めはじめた。食べづらさを感じながらも団子のおいしさに緩む頬は抑えられず、ついつい雅冬に追加された分まで手を伸ばしてしまう。
「太ったら冬月さまのせいですからね」
「太ってもお前はかわいいよ」
「っ、そういうのは、好い人に仰ってください!!」
「くくく、それ食い終わったら次行くぞ」
「はい」
宣言通り雅冬は華乃を連れていろんなところを回った。
途中で青筋を浮かべた柚稀の姿が見えたときはひやりとしたが、探されている本人はまるで隠れ鬼をしているかのように楽しそうに華乃の手をひいて逃げ回る。
だんだんと日が落ちてきたてそろそろ城に戻らなければというときになって雅冬は「ここで最後だな」と1件の小間物屋に華乃を連れて行った。
長らく女物なんて見ていなかった華乃は不思議な気持ちになりながらも綺麗な装飾を眺める。年頃になってからはずっと男装していたからこういう物にはとんと縁がなかった。それこそ兄が健在だったころに少しは女らしくしろと笑って贈られた髪飾りが幾つかあるくらいだ。今、華乃の髪を彩っているのも紫月からの贈り物だ。
「どれがいい?」
「え?」
「買ってやる」
「ええ!?と!冬月さま!?」
「こういう時は黙って贈られるもんだぜ?これなんかどうだ?」
蒼色の髪結紐を手にとって華乃に合わせる。紐についていた小さな鈴がちりんとかわいらしい音を立てた。
「これならお前が来たらすぐわかる」
「私は猫ですか」
楽しそうに笑う雅冬になんとも言えない顔でそう呟けばさらに楽しそうに笑われる。
それからも雅冬は華乃よりも真剣に店の中を物色していく。
男装歴が長すぎるせいか、かわいらしい、綺麗だな、と思うものがあってもいざ自分が身に着けるとなるとどうも気おくれしてしまって買う気になれない。
「いいのはあったか?」
「どれも私にはもったいない気がして……」
「なんだそりゃ。もっといろんな品をみせてやりてぇが時間切れだ。
これ以上は流石に柚稀が発狂するから帰るぞ」
そういって雅冬は華乃の手をとって歩き出した。
城に着く手前でピタリと足を止めた雅冬に華乃は小首を傾げる。
あたりの気配を窺っても特に異変は見当たらなかった。
「華、目を閉じてろ」
「はい」
真剣な声に緊張がにじむ。鈍ってしまったのか。現役の武人でもある雅冬に気配の察知能力ではかなわなくなってしまったのかもしれない。出しゃばるのは逆に危険かと思い華乃は素直に雅冬の言葉に従う。いざというときに動けるように意識しながら。けれど、大きな手が簡単に結っただけの髪に触れて華乃は違う意味で固まった。
「殿?」
「じっとしてろ。暗くてやりずらいな」
「なにを、」
「できた。多少不恰好なのは勘弁しろよ」
嬉しそうな声にちりんというか可愛らしい音。
「まさか、」
「怒るなよ。俺がお前に贈りたかったんだ」
「ありがとう、ございます。大事にします」
「よし!明日からはそれで髪を結え。他は認めないからな!」
「はい」
「藍も似合うが蒼も似合う」
「っ、」
「さぁ、帰るぞ。柚稀が発狂する」
息をつめた華乃の手を引いて雅冬は何事もなかったかのように歩き始めた。
少しずつ、暴かれる。藍は紫月の色だった。
少しずつ、塗り替えられる。蒼は雅冬の色だ。
本当は全部、気づいてるのですか?
気づいていて、私が打ち明けるのをお待ちなのですか。
そんなはずはないと自分に言い聞かせながら歩く。
鬼の形相の柚稀のお説教もほとんど頭に残らなかった。
よく知った店もあれば自分のいない間に変わってしまった店もあった。
だんだんと落ち着いてきた気持ちで視線を彷徨わせれば、それに気づいた雅冬が口元を緩めてあそこの饅頭は美味いやら、あの茶屋の娘は柚稀に懸想しているやらと色々なことを教えてくれた。
「これはこれは、いらっしゃいませ!」
「おう、親父久しぶりだな」
華乃は立ち寄った団子屋の主人と気安く話す雅冬に目を丸くする。
まるで常連みたいな会話だ。
「そういう冬月の旦那はえらい別嬪さんといっしょじゃあねぇですか!」
「いい女だろ?」
雅冬は呆然と自分たちを見ている華乃をちらりと見てニッと笑った。
まるで自分のものだというような雅冬の態度にまた華乃が驚くのも気にせずに団子を頼んだ雅冬はあいている席に華乃を座らせてお茶を飲む。
「おいしい」
運ばれてきた団子をぱくりと食べると甘い味が広がって戸惑いでいっぱいだった華乃の表情も和らいだ。
「ここの団子は美味いだろ?」
悪戯が成功した子供のように笑って雅冬はもっと食えと自分の分の団子も華乃の皿にのせる。あわあわと慌てる華乃にいいから食えともう一度笑うと嬉しそうに華乃が団子を食べる姿を眺めはじめた。食べづらさを感じながらも団子のおいしさに緩む頬は抑えられず、ついつい雅冬に追加された分まで手を伸ばしてしまう。
「太ったら冬月さまのせいですからね」
「太ってもお前はかわいいよ」
「っ、そういうのは、好い人に仰ってください!!」
「くくく、それ食い終わったら次行くぞ」
「はい」
宣言通り雅冬は華乃を連れていろんなところを回った。
途中で青筋を浮かべた柚稀の姿が見えたときはひやりとしたが、探されている本人はまるで隠れ鬼をしているかのように楽しそうに華乃の手をひいて逃げ回る。
だんだんと日が落ちてきたてそろそろ城に戻らなければというときになって雅冬は「ここで最後だな」と1件の小間物屋に華乃を連れて行った。
長らく女物なんて見ていなかった華乃は不思議な気持ちになりながらも綺麗な装飾を眺める。年頃になってからはずっと男装していたからこういう物にはとんと縁がなかった。それこそ兄が健在だったころに少しは女らしくしろと笑って贈られた髪飾りが幾つかあるくらいだ。今、華乃の髪を彩っているのも紫月からの贈り物だ。
「どれがいい?」
「え?」
「買ってやる」
「ええ!?と!冬月さま!?」
「こういう時は黙って贈られるもんだぜ?これなんかどうだ?」
蒼色の髪結紐を手にとって華乃に合わせる。紐についていた小さな鈴がちりんとかわいらしい音を立てた。
「これならお前が来たらすぐわかる」
「私は猫ですか」
楽しそうに笑う雅冬になんとも言えない顔でそう呟けばさらに楽しそうに笑われる。
それからも雅冬は華乃よりも真剣に店の中を物色していく。
男装歴が長すぎるせいか、かわいらしい、綺麗だな、と思うものがあってもいざ自分が身に着けるとなるとどうも気おくれしてしまって買う気になれない。
「いいのはあったか?」
「どれも私にはもったいない気がして……」
「なんだそりゃ。もっといろんな品をみせてやりてぇが時間切れだ。
これ以上は流石に柚稀が発狂するから帰るぞ」
そういって雅冬は華乃の手をとって歩き出した。
城に着く手前でピタリと足を止めた雅冬に華乃は小首を傾げる。
あたりの気配を窺っても特に異変は見当たらなかった。
「華、目を閉じてろ」
「はい」
真剣な声に緊張がにじむ。鈍ってしまったのか。現役の武人でもある雅冬に気配の察知能力ではかなわなくなってしまったのかもしれない。出しゃばるのは逆に危険かと思い華乃は素直に雅冬の言葉に従う。いざというときに動けるように意識しながら。けれど、大きな手が簡単に結っただけの髪に触れて華乃は違う意味で固まった。
「殿?」
「じっとしてろ。暗くてやりずらいな」
「なにを、」
「できた。多少不恰好なのは勘弁しろよ」
嬉しそうな声にちりんというか可愛らしい音。
「まさか、」
「怒るなよ。俺がお前に贈りたかったんだ」
「ありがとう、ございます。大事にします」
「よし!明日からはそれで髪を結え。他は認めないからな!」
「はい」
「藍も似合うが蒼も似合う」
「っ、」
「さぁ、帰るぞ。柚稀が発狂する」
息をつめた華乃の手を引いて雅冬は何事もなかったかのように歩き始めた。
少しずつ、暴かれる。藍は紫月の色だった。
少しずつ、塗り替えられる。蒼は雅冬の色だ。
本当は全部、気づいてるのですか?
気づいていて、私が打ち明けるのをお待ちなのですか。
そんなはずはないと自分に言い聞かせながら歩く。
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