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【39】殿下 ② ー喜びを奪った悪魔ー

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 ままならぬ性欲を抱えて、サニーはガシガシと頭を掻いた。
 バカンスを切り上げてからこの方、性欲はあるのに上手く機能しない。

 刺激を与えられれば勃起するが、やる気がおきないというか。
 腰をふるのがめんどくさくなってしまったというか。
 今までは全ての女性が輝く宝石に見えたのに、今じゃ誰を見てもくすんだ石ころに見えるというか。


 これはサニーにとって由々ゆゆしき問題である。
 これでも女性には優しくありたいと思っている。
 それなのに心の中で彼女達を石ころだと感じているなんて。


 そんな風に考えていると、絶対に悟られてはいけない。
 女性と対峙すると、愛でたい優しくしたいという欲求より、薄暗い心をばれてはいけない!と、そちらのほうに意識が行ってしまうのだ。

 一度プレッシャーに感じると、以前はあんなに楽しかった女性との語らいも億劫になる。
 サニーは自身の男としてのプライドがすっかり枯れてしまった事実に絶望した。


 ダニエル・マッキニー。
 彼女はサニーから生きる喜びを奪った悪魔だ。

 来る者拒まず去る者追わずの、博愛主義者。
 楽しいコト、気持ちイイことが大好きな享楽主義者。

 宮殿きってのプレイボーイ。
 都で一番のテクニシャン。


 女性と戯れるのが大好きで仕方なかったのに……その喜びを奪うなんて!
 しかも魅了されたのはサニーだけで、彼女の心には別の男がいる!!

 絶対に許せん!!!どうしてやろうか……。
 サニーは怒りで鼻息を荒くした。


「それで、マッキニー准尉をどうする予定ですか?」
「……珍しく気にかけるんだな、カイル」

 ユージンほどではないが、彼ともまた十五年以上の付き合いだ。
 カイルがダニエルを特別気にかけているのは、隠していても伝わってきた。


「カイル殿もダニエル・マッキニーがタイプなんですか?」
 ユージンは意外そうに訊ねる。

「違います。そんなんじゃありません」
 カイルは平坦な声と表情で否定する。
 だがきっと心の中は、疑われて焦っているのだろう。


「殿下、本心です」
「わかっている。ユーリも揶揄っただけさ」
 サニーが口角を引き上げて微笑むと、カイルは「揶揄うなんて人が悪い」と呟く。

「すみません、いつも無表情の貴方をつっつけるのが面白くて……で、どうするか決まりましたか?殿下」
 ユージンはカイルの呟きをサラリと受け流し、サニーに訊ねる。


 サニーは「う~ん」と煮え切らない返事を返す。

「正直、どうしたいか定まらないんだよなぁ。毎日、気持ちがコロコロ変わるし」
「なんですか、その乙女みたいな思考回路。気持ち悪いですよ」

「……なんか言ったか、ユーリ」
「すみません、本心が口から滑りました」

「それはただの本音じゃないか。しばかれたいのか、テメェ」
「本当にすみません、殿下。殿下の拷問はねっちっこいので勘弁してください」

 全然謝罪になってないが、まぁ良しとしよう。


「あの娘を愛妾にするおつもりですか?」
「あぁ、ダニエルを側に置く。それは決定事項だ」
「問題はどんな形でかーー、ですね」

 ユージンの発言に、三人は頷いた。
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