【完結】ユージン・クラインの憂鬱

アムロナオ

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【2】ユージン・クラインの憂鬱

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 そして今朝、いつもの傍若無人ぶりで主人は「ポーラ・マッキニーを連れてこい」と命じたのだ。


 寝ないで荷造りしていたユージンはクラッときた。

 マッキニー家とロンド教の癒着を暴くには、弟君はうってつけの人材スパイであるのは重々承知。

 にしても、出発の朝に命じなくても。


 そう心の中で愚痴りはしたが、ユージンは主人に忠実な家令であり執務官。

 文句一つ言わずに、ポーラを迎えに行った。



 朝早く呼び鈴を連打すると、半裸のだらしない姿で機嫌悪そうに、ポーラ・マッキニーは現れた。

 パトロンの未亡人宅にしけこんでいた彼は、突然の訪問者ユージンに目を瞬かせる。

 そして話があるからついてきてほしいと頼むと、あからさまに不信がった。


「どうして僕が此処にいるってわかったんですか?」

 数日前から見張っていたからですよ。


 そう教えてもよかったが、なにせ時間がない。

 背後の親衛隊達に目配せし、嫌がる彼を無理やり連れ去ってきた。



 少々強引且つ乱暴であったことは認めよう。

 だがしかしダニエルへの苛立ちのあまり、弟君に優しくできない。

 このフラストレーションを、弟君にぶつけずに、どこへぶつけたらよいのだ。


 今もダニエル・マッキニーのせいで、主人は仕事をさぼっているし。

「忌々しい女性ですね!」

 ユージンは柳眉をつりあげ、手元の懐中時計を開いた。



「もう三十分も遅刻している」

 列車が駅を出て、既に三十分も経過したということ。


 そして発車前に何やら言い争っていたが、今は静かなことをふまえると……つ・ま・り!

 密室で男女が声を殺してするコトといえば、しかないのである。


 公務中、任務中にナニやってるんだか。

 許せん!あの馬鹿女め、俺の殿下をっ!!



 ユージンは手にした羽根ペンの柄をへし折った。

 その怒気に気圧され、ポーラは喚くのを止めた。


「ーーーダメだって、に……っ、ぁぁ!」


 タイミング悪く、静まり返った室内に密やかな囁きが聞こえてくる。

 ユージンの地獄耳がダニエルの艶めいた声をキャッチし、堪忍袋の尾が切れた。



「こんのぉぉっ!なぁにをやっているんですかぁっ!!」


 ユージン・クラインの怒り顔は、深い海の底のような空恐ろしさがある。

 はっきりりわからない、底知れぬ不安と恐怖にポーラは身をすくませた。


 立ち上がった彼は、ブーツの靴底をポーラへ向ける。

 ひいぃぃぃぃ!蹴られるっ!!!



 ーーーダン!!

 と鈍い音がし、ユージンの足がポーラの顔の真横の座席を蹴りあげた。

 風圧で、ふわりとミルクティー色の髪が舞う。



「公務中に乳繰り合うなんて、いい度胸してるじゃないですか。殿下っ!早く仕事をしてください!!」


 怖っえぇぇぇ!仕事中にイチャついてたら、キレられるの当然だって。

 この人、目の下のクマやばいもん!

 っとに、どこの何奴どいつだよ、勘弁してくれよぉ~!!!


 乳繰り合ってるのが実姉とは思いもしないポーラは、心の中で盛大に罵倒した。
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