女王陛下、誤解です〜ヤリチン王子が一穴主義になったのはアタシのせいじゃありません!!〜

アムロナオ

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【02】西の大地 ② 〜ボロンゴ侯爵邸〜

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「いやぁ~、良い時期にいらしてくださいました。我がボロンゴ領地は今が最も美しいんですよ!来週には収穫祭もありましてね!是非、楽しんでいってください」

西の名士ボロンゴ侯爵は、大広間の長テーブルに溢れんばかりの料理を並べ、それを目の前に、ガハガハと大口をあけワインを飲み干す。


ハの字になった自慢の髭、丸々とした太鼓腹、アルコールのせいで赤くなった顔、何処にでもいそうな気前の良いオッチャンだが、これで中々のやり手。

品種改良が実を結び、小麦の収穫量を倍増させた功績はダニエルの耳にも届いている。

領主といえども、広大な領地と人民を維持するには努力が必要なのだ。


そういう意味では、マッキニー男爵家が困窮したのは、不毛な領地のせいとは言い切れない。

領民達はほぼ自給自足の暮らしで生活し、織物を納め税を賄っている。


マッキニー男爵領の織物は首都セレーナではそれなりの値段で取引され、それを元手に設備投資や金融投資をしていれば、今頃領民達はもっと豊かに暮らせただろう。

そして巡り巡ってマッキニー男爵家も潤ったに違いない。


しかし父は、新興宗教ロンド教に傾倒し、領地運営に使うべき資産を彼らに貢いでしまった。

全ては愚かな父のせいね、ダニエルはまた暗澹あんたんとした気持ちで大きなため息をつく。

心の侘しさに追い打ちをかけるように西風が軍服の裾を揺らし、ダニエルは肩をすくめた。



その姿をみたボロンゴ侯爵夫人から、「軍人のくせに表情を崩すなんて」と非難の眼差しを向けられ、ダニエルは背筋を正した。

気をつけなくては、侯爵夫人は生粋の上流階級者アッパークラスで、軍人も家令も自分より下と見下す性格みたい。

目をつけられたら厄介な相手だ。


そんな夫人は、「パイは如何ですか、アグロン伯爵」と、ダイニングテーブルの向かいに腰掛ける男性に呼びかけた。

食事を共にしていたアグロン伯爵は、低く艶やかな美声で「ありがとうございます」と答え、白い歯をみせ微笑んだ。


その途端、侯爵夫人とその隣に居た二人の娘達は目がハートになり、男の色気たっぷりの笑顔にメロメロになった。

「このパイは娘のジョセフィーヌが作ったんですのよ」

「長女のジョセフィーヌは家庭的な娘なんです」


伯爵に紹介されたジョセフィーヌ嬢は、頬を赤らめ視線を落とす。

その隣に座っていたもう一人の娘が焦ったように顔を歪め、ボロンゴ侯爵と夫人はわかってると言いたげに目配せした。


「隣が次女のキャサリーヌです。活発な娘で、乗馬が得意なんです」

妹も姉と同じく頬を赤らめ、伯爵へ秋波しゅうはを送る。


令嬢たちの潤む瞳の奥に、飢えたハイエナの如き野心が潜む。

露骨なアプローチにダニエルは苦笑いを嚙み殺し、無表情を装った。



「そういえば!伯爵”様”は狩りがお得意だとか……週末は巻き狩りでも如何ですか。ウチの狩場は兎、鹿、猪、なんでも獲れますよ」

娘達に負けず劣らず、両親もハイエナのようにアグロン伯爵へ娘を売り込んでくる。


ボロンゴ侯爵はいざ知らず、奥方と二人の娘は今日初めてアグロン伯爵に会ったはず。

親衛隊員を引き連れ乗り込んできた正体不明の男に対し、娘達の嫁ぎ先候補としてもう狙いを定めるなんて……ちょっとばかし急ぎ過ぎじゃなかろうか。

しかしこの世のスポットライトを全て浴びたかのように、華やかに煌めきを放つ伯爵に、ダニエルは無条件で納得させられてしまった。
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