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【96】マイトナー家で① 〜過ぎていく〜
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一方のダニエルは嬉しくてニヤニヤするのを止められない。
あのサニーが迎えに来てくれるなんて!
「ったく!殿下ときたら、余計な仕事ばかり増やすんですから。でもどうします?マッキニー准尉はどんな理由で帰ってきた事にするんですか?」
「ポーラ君から呼ばれて帰って来た事にすればイイヨ。父君の具合が悪くて知らせたとか、理由はなんだって作れるサ」
「しかし本日殿下と准尉が一緒に戻ってきたら、怪しまれるのでは?」
「うん。だからディディには数日何処かへ隠れててほしいんだけど」
「それなら准尉だけ後から帰ってきたら良いものを……准尉、マッキニー准尉!いつまでニヤけているんです。話を聞いていましたか?」
「は、はいっ!!」
クライン執務官の一喝で、ダニエルは我にかえった。
「で?身を隠せそうな場所はあるんですか?」
ユージンの問いかけに、ダニエルは得意げに大きく頷いた。
「嬉しいですわ、お嬢様。狭苦しい所ですが、ゆっくりしていってくださいね」
「ありがとう、おば様」
数日身を潜めるよう言われたダニエルはマイトナー家を訪れていた。
ダニエルのお願いに二つ返事で快諾してくれたハセンとエルダ。
軍に入って以来マイトナー家の面々には頻繁に手紙を出していたが、家にお邪魔するのは随分久しぶりで、二人はとても嬉しそうだ。
エルダは洗濯したシーツを片手にベッドメイキングをし、ハセンに至っては「今夜食べれるかな」と呟きながら干していた鹿肉の状態を確認しに行った。
まるで遠くへ行った子ども帰ってきたかのようなテンションにダニエルまで嬉しくなる。
二人はいつもダニエルを歓迎してくれる。
実の両親でもないのにこうして可愛がってもらえるのは、とてもありがたく幸せな事なのだと、ダニエルは改めて二人に感謝した。
マイトナー家での数日はあっという間に過ぎていった。
食卓には新鮮な鹿肉料理が並び、エルダお手製の焼き立てパンはフカフカで太ってしまいそうなくらい美味しい。
出歩くわけにはいかないため、一日中動物と触れ合ってすごしたが、餌を与え水を交換し犬猫馬の毛をすいてやると、彼等は“ありがとう”という目でダニエルを見るのだった。
夜はハセンとエルダと共に、星空を眺める。
真っ暗な夜空に宝石を散りばめたように星々が輝き、自然の美しさに息を呑む。
その下に聳え立つドルパ山の尾根の輪郭が雪化粧によって白く薄っすらと光っている。
山を見る度に胸は締め付けられるけれど、以前のような泣き叫びたくなるような衝動はもう襲ってこなかった。
あのサニーが迎えに来てくれるなんて!
「ったく!殿下ときたら、余計な仕事ばかり増やすんですから。でもどうします?マッキニー准尉はどんな理由で帰ってきた事にするんですか?」
「ポーラ君から呼ばれて帰って来た事にすればイイヨ。父君の具合が悪くて知らせたとか、理由はなんだって作れるサ」
「しかし本日殿下と准尉が一緒に戻ってきたら、怪しまれるのでは?」
「うん。だからディディには数日何処かへ隠れててほしいんだけど」
「それなら准尉だけ後から帰ってきたら良いものを……准尉、マッキニー准尉!いつまでニヤけているんです。話を聞いていましたか?」
「は、はいっ!!」
クライン執務官の一喝で、ダニエルは我にかえった。
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ユージンの問いかけに、ダニエルは得意げに大きく頷いた。
「嬉しいですわ、お嬢様。狭苦しい所ですが、ゆっくりしていってくださいね」
「ありがとう、おば様」
数日身を潜めるよう言われたダニエルはマイトナー家を訪れていた。
ダニエルのお願いに二つ返事で快諾してくれたハセンとエルダ。
軍に入って以来マイトナー家の面々には頻繁に手紙を出していたが、家にお邪魔するのは随分久しぶりで、二人はとても嬉しそうだ。
エルダは洗濯したシーツを片手にベッドメイキングをし、ハセンに至っては「今夜食べれるかな」と呟きながら干していた鹿肉の状態を確認しに行った。
まるで遠くへ行った子ども帰ってきたかのようなテンションにダニエルまで嬉しくなる。
二人はいつもダニエルを歓迎してくれる。
実の両親でもないのにこうして可愛がってもらえるのは、とてもありがたく幸せな事なのだと、ダニエルは改めて二人に感謝した。
マイトナー家での数日はあっという間に過ぎていった。
食卓には新鮮な鹿肉料理が並び、エルダお手製の焼き立てパンはフカフカで太ってしまいそうなくらい美味しい。
出歩くわけにはいかないため、一日中動物と触れ合ってすごしたが、餌を与え水を交換し犬猫馬の毛をすいてやると、彼等は“ありがとう”という目でダニエルを見るのだった。
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