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第3章★閑話★
2★聖女の口づけ★
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※ワタルとヒサメの話です。抵抗ある方は気をつけて下さい。
※読まなくても話が繋がりますので、大丈夫です。
こんなきらびやかなパーティー、醜い私には似合わない。
隣には世にも秀麗な天界国一とも云われる美貌の持ち主、白騎士団長ワタルが、陽に灼けた手を私の腰に添えて見つめながらダンスを踊っている。
私はワタルに合わせてステップを踏む。
「いいじゃん、ヒサメ。ぎこちなさが取れてきた」
甘い美声で囁かれると、さすがにドキドキしてしまう。
まるで童話の王子様のようなワタルにエスコートされる私を、貴族の女性たちが羨望と嫉妬の入り混じった目で見ているのがわかる。
本来なら私は汚らしい貧民街で貴族の靴を磨いたり、花を売って暮らさなければならないはずだった。
こんな綺麗なドレスをきて、まるで貴族の女性のように振る舞い、こんなに素敵な男性に抱かれて踊るなど、あるまじき行為のはず。
「ヒサメ、パーティーが終わったら、すぐにヒサメの部屋に行くから」
「う、ん……わかってる……」
ワタルが私の耳に唇を当てながら囁く。それだけで私の心臓が張り裂けそうだ。
ワタルはクスッと笑うと、私の髪を一房掴んでキスをした。
「照れてるのか?」
「指摘しないで……恥ずかしいのを必死に隠しているんだから」
「可愛い、ヒサメ」
目を細めたワタルは、私を抱きしめるように背中に手を回した。
ワタルの甘い匂いが鼻孔をくすぐる。
貴族女性たちがワタルを見てクラクラと失神していくのが見える。
「すごいわ……ワタル」
「なにが?」
「あなたの魅力が……私も意識を保てなくなりそう」
ワタルはクスッと甘く笑う。
「そんなの、ヒサメを見たおれだってそうだよ。普段の鎧ではなく、青のドレス。綺麗だ」
この人が笑うと、右頬に片えくぼが出ることを知っている女性はどのくらいいるだろうか。
こんなに可愛く笑う人だと知っている女性はどのくらいいるだろうか。
コウキ……コウキはどこにいるのかしら。私が会場を見渡したからか、ワタルが足を止めて会場の角に連れて行ってくれた。
「どうした、ヒサメ? 誰か探してるのか?」
「あ……コウキは、どこかしら」
今日のコウキは、最近のお気に入りである女中の菫さんをエスコート役に誘わなかったようだ。
王立図書館の司書、マガナさんを誘ったようだ。眼鏡を掛けた知的な女性で、コウキのいつもの趣味である甘い顔立ちの女性ではないのが不思議に思った。
まあ、このパーティーは格式を重んじるから、マガナさんの家が裕福なのかもしれない。
コウキは昔から女性にモテた。
柔らかい雰囲気と快活な態度、誰にでも優しく親切なところが人気で、さらに貴族なのに飾らない気さくな人と人気を博した。
たくさんの女性と浮き名を流した。
でも、コウキは最終いつも私を見てくれた。
みんなと遊んでいても、1番最後まで遊びに参加しない私を見て「ヒサメもこいよ」とさり気なく誘ってくれた。
父が友人だと思っていた人に騙され、うちが没落貴族になったら、今まで友達だと思っていた子や、上院貴族のリョウマたちが手のひらを返したように離れて行ったけれど、コウキだけはいつも通りに接してくれた。
コウキを想うと私は醜い女に成り下がる。
専属愛人にする人を決めたと聞いたときは、胸が締め付けられた。
きっと、美しく、愛されて育った貴族のお嬢様だと。
だから、彼女を見たときの驚きといったらなかった。
今日はワタルを見て失神した貴族女性の介抱をしている。
どんなに美しくても、女中。コウキと結婚はできないし、貴族から祝福もされない。
コウキと菫さんは結婚できない。
その事実があるから、私はまだ大丈夫そうだった。
彼女が貴族じゃなくて良かったと安堵してから、後悔の波が襲う。
私はなんて心が狭いのだろう。
結局菫さんを下に見てしまっている。
対して私は1度堕ちた身とはいえ、聖女の末裔、そして騎士団長だ。
女中の仕事をする菫さんを横目に見ながら、世にも美しい男性を隣に連れてダンスを踊っている私……
醜い心を隠しながら綺麗に着飾り、私はドロドロした気持ちをもて余す。
これじゃ権力至上主義のリョウマと何ら変わりはないじゃない。
しかし醜さをごまかすドレスは、私に大丈夫だと囁やき力をくれた。
青を基調とした自室に入り、すぐにシャワーを浴びた。
ワタルがこのあと私の部屋にくる。
シャワーを浴びて髪を乾かしていると、部屋がノックされた。
「ごめん、遅くなった」
ワタルはまだ白のスーツのままだった。
うっとりとその一挙手一投足を眺める。
「シャワー、浴びる?」
「ああ、ありがとう。浴びてくる」
ワタルは私のこめかみにキスを落として、シャワールームに向かった。
ドキドキしながら待っていると、髪を乾かしながらローブを羽織ったワタルが出てきて、私を見て笑った。
「なに緊張してるんだよ?」
「ワタルが……私の部屋にいるだけで緊張するの……」
髪が少し濡れてらさらに色気が増している。
こういうこと、すごく慣れているのかもしれない。
当然だ。この眉目秀麗な人はファンクラブだってあるくらいだ。
きっとコウキ以上に女性には困らない。
「緊張しなくていいよ、おれなんて。いいかヒサメ。おれはただ1人の男だぞ。コウキやその辺の人となにも変わらない。たまに崇拝する感じのやつがいるが、それはやめてくれよ」
「……うん、わかった」
ワタルは私を見つめて目を細めた。
そっと手を差し出し、私の頬を触る。
「ヒサメ、ベッド、入っていい?」
ドッドッドッと、私の心臓が波打つ。
ワタルに聞かれないか心配になった。
ただローブをまとっただけのワタルが、私をベッドの中に閉じ込める。
横になりながらワタルは私の背中に手を回した。
コウキ……怖い……
「ヒサメ、おれを見て」
「あ……」
ワタルが私の顎を優しく持つと、唇にキスを落としてきた。
「んっ……ワタル……」
「……キスも初めて?」
私が頷くと、ワタルは驚いたように目を見開いて、その後バツが悪そうに視線を落とした。
「ごめん」
「……なんで謝るの?」
「だって、大事だろ、そういうの。女は」
ワタルが思った以上に優しいので、私は許すように自分からワタルにキスをしてみた。
「初めてのキスはあなたで良かったわ」
「……聖女のしきたりみたいなのは、大丈夫なのか?」
「うん、大丈夫」
「ふーん」
ワタルは安堵したように息をはくと、私を抱き寄せて髪をすいた。
ワタルがこんなに優しいなんて、知らなかった。
ぶっきらぼうで一匹狼、リョウマや天満納言様とギスギスしていたりするから、近寄りがたかった。
でも今は私の前で穏やかな顔で、声で、仕草で私の髪をすいている。
ワタルは顔で人気があると思っていたけれど、彼がモテる本質は……もしかしたら性格にあるのかもしれない。
「ヒサメ、切ない」
「……え?」
「切ないから、裸で抱き合いたい」
ワタルが自分のローブを脱ぐ。小麦色の肌があらわになり、私は思わず視線を反らした。
「ヒサメも脱いで」
どこか甘えるような口調でワタルが言う。
可愛い……色んな顔が見える。ワタル……ワタルなら私の体を預けても良いかもしれない。
コウキはどうしたって私を妹としか見ていない。
だったら、ワタルみたいな人と肌を重ね合い、寂しさを埋めてもらいたい。
私がローブを脱ごうとしたとき、部屋がノックされた。
「えっ……こんな夜中に誰かしら」
ワタルも身を起こすと、高い声が廊下から聞こえてきた。
「ヒサメ! ワタルを知らない?」
私とワタルはハッと顔を見合わせる。
「カボシだ」
「えっ……どうしよう、早く服を着なくちゃ……」
「……いい。窓から出る」
ワタルはそう言うと、サッと服を着ると窓を開けた。
「ワタル……!」
ワタルは髪を風になびかせ、窓の縁に飛び乗って私を見て笑った。
「今度は聖女様の心を盗みにくるよ。じゃあな、良い夢を」
ウインクをしたワタルは、私に軽く手を振ると、窓の下にヒョイと身軽に落ちて行った。
「ヒサメ! ねえ、ワタル知らない? 入るわね」
バタンと大きな音を立ててドアが開くのと、私が窓を閉めた音が同時に響いた。
「ワタル……」
満天の星の中に消えたワタルを思いながら、私は唇を押さえていた。
※この後のワタルの行動は【第1章閑話休題・2.鏡の国のカルラ】に繋がっています。
☆終わり☆
※読まなくても話が繋がりますので、大丈夫です。
こんなきらびやかなパーティー、醜い私には似合わない。
隣には世にも秀麗な天界国一とも云われる美貌の持ち主、白騎士団長ワタルが、陽に灼けた手を私の腰に添えて見つめながらダンスを踊っている。
私はワタルに合わせてステップを踏む。
「いいじゃん、ヒサメ。ぎこちなさが取れてきた」
甘い美声で囁かれると、さすがにドキドキしてしまう。
まるで童話の王子様のようなワタルにエスコートされる私を、貴族の女性たちが羨望と嫉妬の入り混じった目で見ているのがわかる。
本来なら私は汚らしい貧民街で貴族の靴を磨いたり、花を売って暮らさなければならないはずだった。
こんな綺麗なドレスをきて、まるで貴族の女性のように振る舞い、こんなに素敵な男性に抱かれて踊るなど、あるまじき行為のはず。
「ヒサメ、パーティーが終わったら、すぐにヒサメの部屋に行くから」
「う、ん……わかってる……」
ワタルが私の耳に唇を当てながら囁く。それだけで私の心臓が張り裂けそうだ。
ワタルはクスッと笑うと、私の髪を一房掴んでキスをした。
「照れてるのか?」
「指摘しないで……恥ずかしいのを必死に隠しているんだから」
「可愛い、ヒサメ」
目を細めたワタルは、私を抱きしめるように背中に手を回した。
ワタルの甘い匂いが鼻孔をくすぐる。
貴族女性たちがワタルを見てクラクラと失神していくのが見える。
「すごいわ……ワタル」
「なにが?」
「あなたの魅力が……私も意識を保てなくなりそう」
ワタルはクスッと甘く笑う。
「そんなの、ヒサメを見たおれだってそうだよ。普段の鎧ではなく、青のドレス。綺麗だ」
この人が笑うと、右頬に片えくぼが出ることを知っている女性はどのくらいいるだろうか。
こんなに可愛く笑う人だと知っている女性はどのくらいいるだろうか。
コウキ……コウキはどこにいるのかしら。私が会場を見渡したからか、ワタルが足を止めて会場の角に連れて行ってくれた。
「どうした、ヒサメ? 誰か探してるのか?」
「あ……コウキは、どこかしら」
今日のコウキは、最近のお気に入りである女中の菫さんをエスコート役に誘わなかったようだ。
王立図書館の司書、マガナさんを誘ったようだ。眼鏡を掛けた知的な女性で、コウキのいつもの趣味である甘い顔立ちの女性ではないのが不思議に思った。
まあ、このパーティーは格式を重んじるから、マガナさんの家が裕福なのかもしれない。
コウキは昔から女性にモテた。
柔らかい雰囲気と快活な態度、誰にでも優しく親切なところが人気で、さらに貴族なのに飾らない気さくな人と人気を博した。
たくさんの女性と浮き名を流した。
でも、コウキは最終いつも私を見てくれた。
みんなと遊んでいても、1番最後まで遊びに参加しない私を見て「ヒサメもこいよ」とさり気なく誘ってくれた。
父が友人だと思っていた人に騙され、うちが没落貴族になったら、今まで友達だと思っていた子や、上院貴族のリョウマたちが手のひらを返したように離れて行ったけれど、コウキだけはいつも通りに接してくれた。
コウキを想うと私は醜い女に成り下がる。
専属愛人にする人を決めたと聞いたときは、胸が締め付けられた。
きっと、美しく、愛されて育った貴族のお嬢様だと。
だから、彼女を見たときの驚きといったらなかった。
今日はワタルを見て失神した貴族女性の介抱をしている。
どんなに美しくても、女中。コウキと結婚はできないし、貴族から祝福もされない。
コウキと菫さんは結婚できない。
その事実があるから、私はまだ大丈夫そうだった。
彼女が貴族じゃなくて良かったと安堵してから、後悔の波が襲う。
私はなんて心が狭いのだろう。
結局菫さんを下に見てしまっている。
対して私は1度堕ちた身とはいえ、聖女の末裔、そして騎士団長だ。
女中の仕事をする菫さんを横目に見ながら、世にも美しい男性を隣に連れてダンスを踊っている私……
醜い心を隠しながら綺麗に着飾り、私はドロドロした気持ちをもて余す。
これじゃ権力至上主義のリョウマと何ら変わりはないじゃない。
しかし醜さをごまかすドレスは、私に大丈夫だと囁やき力をくれた。
青を基調とした自室に入り、すぐにシャワーを浴びた。
ワタルがこのあと私の部屋にくる。
シャワーを浴びて髪を乾かしていると、部屋がノックされた。
「ごめん、遅くなった」
ワタルはまだ白のスーツのままだった。
うっとりとその一挙手一投足を眺める。
「シャワー、浴びる?」
「ああ、ありがとう。浴びてくる」
ワタルは私のこめかみにキスを落として、シャワールームに向かった。
ドキドキしながら待っていると、髪を乾かしながらローブを羽織ったワタルが出てきて、私を見て笑った。
「なに緊張してるんだよ?」
「ワタルが……私の部屋にいるだけで緊張するの……」
髪が少し濡れてらさらに色気が増している。
こういうこと、すごく慣れているのかもしれない。
当然だ。この眉目秀麗な人はファンクラブだってあるくらいだ。
きっとコウキ以上に女性には困らない。
「緊張しなくていいよ、おれなんて。いいかヒサメ。おれはただ1人の男だぞ。コウキやその辺の人となにも変わらない。たまに崇拝する感じのやつがいるが、それはやめてくれよ」
「……うん、わかった」
ワタルは私を見つめて目を細めた。
そっと手を差し出し、私の頬を触る。
「ヒサメ、ベッド、入っていい?」
ドッドッドッと、私の心臓が波打つ。
ワタルに聞かれないか心配になった。
ただローブをまとっただけのワタルが、私をベッドの中に閉じ込める。
横になりながらワタルは私の背中に手を回した。
コウキ……怖い……
「ヒサメ、おれを見て」
「あ……」
ワタルが私の顎を優しく持つと、唇にキスを落としてきた。
「んっ……ワタル……」
「……キスも初めて?」
私が頷くと、ワタルは驚いたように目を見開いて、その後バツが悪そうに視線を落とした。
「ごめん」
「……なんで謝るの?」
「だって、大事だろ、そういうの。女は」
ワタルが思った以上に優しいので、私は許すように自分からワタルにキスをしてみた。
「初めてのキスはあなたで良かったわ」
「……聖女のしきたりみたいなのは、大丈夫なのか?」
「うん、大丈夫」
「ふーん」
ワタルは安堵したように息をはくと、私を抱き寄せて髪をすいた。
ワタルがこんなに優しいなんて、知らなかった。
ぶっきらぼうで一匹狼、リョウマや天満納言様とギスギスしていたりするから、近寄りがたかった。
でも今は私の前で穏やかな顔で、声で、仕草で私の髪をすいている。
ワタルは顔で人気があると思っていたけれど、彼がモテる本質は……もしかしたら性格にあるのかもしれない。
「ヒサメ、切ない」
「……え?」
「切ないから、裸で抱き合いたい」
ワタルが自分のローブを脱ぐ。小麦色の肌があらわになり、私は思わず視線を反らした。
「ヒサメも脱いで」
どこか甘えるような口調でワタルが言う。
可愛い……色んな顔が見える。ワタル……ワタルなら私の体を預けても良いかもしれない。
コウキはどうしたって私を妹としか見ていない。
だったら、ワタルみたいな人と肌を重ね合い、寂しさを埋めてもらいたい。
私がローブを脱ごうとしたとき、部屋がノックされた。
「えっ……こんな夜中に誰かしら」
ワタルも身を起こすと、高い声が廊下から聞こえてきた。
「ヒサメ! ワタルを知らない?」
私とワタルはハッと顔を見合わせる。
「カボシだ」
「えっ……どうしよう、早く服を着なくちゃ……」
「……いい。窓から出る」
ワタルはそう言うと、サッと服を着ると窓を開けた。
「ワタル……!」
ワタルは髪を風になびかせ、窓の縁に飛び乗って私を見て笑った。
「今度は聖女様の心を盗みにくるよ。じゃあな、良い夢を」
ウインクをしたワタルは、私に軽く手を振ると、窓の下にヒョイと身軽に落ちて行った。
「ヒサメ! ねえ、ワタル知らない? 入るわね」
バタンと大きな音を立ててドアが開くのと、私が窓を閉めた音が同時に響いた。
「ワタル……」
満天の星の中に消えたワタルを思いながら、私は唇を押さえていた。
※この後のワタルの行動は【第1章閑話休題・2.鏡の国のカルラ】に繋がっています。
☆終わり☆
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