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第2章★為政者の品格★
第1話☆旅立ち☆
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終始心配していた太一を笑顔で突き放し、菫は邪神国に向けて旅立つことになった。
執事長にお伺いを立てたところ、我々仕官には天界国を円滑に回るように取り計らう仕事もあるため、騎士団長二人に頼まれては、菫の遠征帯同も断る理由がなかった。
偵察と名がついているため、少人数で出かけることになっている。怪しまれないように騎士の鎧を脱ぎ捨て、私服に着替えた騎士団長たちは、待ち合わせの騎士像の前で立っていた。その横にはリョウマの妹、ルージュが立っている。
一番最後に待ち合わせ場所に付いた菫は、すぐに謝った。
「申し訳ございません、お待たせしてしまって」
「本当よ。何なの、下女の癖に貴族である私たちを待たせるなんて、最低の女ね」
「すみません」
今まで仕事をしていて、終わってからすぐにこの場所に来たのだが、遅れてしまったのは不覚だった。
「まあまあ、ルージュ。菫は今まで仕事をしていたんだ。俺たちが早めに着いてしまったんだから、そんなに目くじら立てなくてもいいじゃないか」
にこやかにフォローしてくれたコウキに、目配せをしてお辞儀をする。コウキはそれに気付いて菫にそっとウインクを返した。
「もう、コウキったら……あなたは甘いのよ。大体下女なんかをパーティーに参加させるから調子にのるんですからね」
「はは、ごめんね」
詰め寄るルージュに対して、ニコニコと機嫌良さそうに謝るコウキは、すかさず菫を見て紹介するようにルージュの肩に手を置いた。
「ルージュとは学生時代の同級生なんだ。リョウマは二つ上の先輩。俺たち家柄も似ているから、小さい頃から付き合いがあるんだよ」
「そうでしたか」
菫は笑顔でそれに応える。ルージュは肩に置かれた手をパンと払うと、コウキから顔を反らした。
「あなたの家と一緒にしないで! 貴族のくせに、貧乏人と仲良くしていたり、そんな人と一緒にされたくないのよ」
「手厳しいな。ヒサメのことを言っているのか」
「当たり前よ! あんな元貧民と仲良くして。コウキはもっと付き合う人を選びなさいよ」
「肝に銘じます、お嬢様」
恭しくお辞儀をしたコウキを、馬鹿にされたと思ったのかルージュは「もう!」と言いながらコウキから離れ、兄の後ろに隠れるようにした。
「なあ、何で機嫌が悪いんだよ、お前の可愛い妹は」
コウキがリョウマを見下ろして言った。菫も便乗してじっくりとリョウマを見上げた。
背が高いが、コウキよりは低かった。ひょろりと細長いコウキよりも背が高い人を見つける方が難しいかもしれない。
くせっ毛を後ろ一つで束ねており、髪は長いようだった。燃えるような、まるで炎のように逆立っている髪は、炎のリョウマの名を表しているようだった。
目つきも鋭く、ギロリと睨むように視線をコウキに合わせる彼の目は、情熱的で生命力に満ち溢れていた。
「お前のせいだろう。下女にドレスを着せたことを怒っているんだ、ルージュは」
「菫が貴族じゃないから?」
「当たり前だ。貴族のみが着て良いドレスを、こんな貧乏人が簡単に着るなど、品格が問われるぞ、コウキ」
まるで菫を魔人とは思っていないような扱いに、菫は内心少し驚いていた。今時こんな選民意識の高い貴族がいることを驚いたのだが、菫は現在女中の扱いなので、もしかしたら日常茶飯事なのかもしれないと思い立った。
「再教育のし甲斐がある兄妹ですね……」
他の者には気付かれないよう、菫は小さく呟いた。
☆続く☆
執事長にお伺いを立てたところ、我々仕官には天界国を円滑に回るように取り計らう仕事もあるため、騎士団長二人に頼まれては、菫の遠征帯同も断る理由がなかった。
偵察と名がついているため、少人数で出かけることになっている。怪しまれないように騎士の鎧を脱ぎ捨て、私服に着替えた騎士団長たちは、待ち合わせの騎士像の前で立っていた。その横にはリョウマの妹、ルージュが立っている。
一番最後に待ち合わせ場所に付いた菫は、すぐに謝った。
「申し訳ございません、お待たせしてしまって」
「本当よ。何なの、下女の癖に貴族である私たちを待たせるなんて、最低の女ね」
「すみません」
今まで仕事をしていて、終わってからすぐにこの場所に来たのだが、遅れてしまったのは不覚だった。
「まあまあ、ルージュ。菫は今まで仕事をしていたんだ。俺たちが早めに着いてしまったんだから、そんなに目くじら立てなくてもいいじゃないか」
にこやかにフォローしてくれたコウキに、目配せをしてお辞儀をする。コウキはそれに気付いて菫にそっとウインクを返した。
「もう、コウキったら……あなたは甘いのよ。大体下女なんかをパーティーに参加させるから調子にのるんですからね」
「はは、ごめんね」
詰め寄るルージュに対して、ニコニコと機嫌良さそうに謝るコウキは、すかさず菫を見て紹介するようにルージュの肩に手を置いた。
「ルージュとは学生時代の同級生なんだ。リョウマは二つ上の先輩。俺たち家柄も似ているから、小さい頃から付き合いがあるんだよ」
「そうでしたか」
菫は笑顔でそれに応える。ルージュは肩に置かれた手をパンと払うと、コウキから顔を反らした。
「あなたの家と一緒にしないで! 貴族のくせに、貧乏人と仲良くしていたり、そんな人と一緒にされたくないのよ」
「手厳しいな。ヒサメのことを言っているのか」
「当たり前よ! あんな元貧民と仲良くして。コウキはもっと付き合う人を選びなさいよ」
「肝に銘じます、お嬢様」
恭しくお辞儀をしたコウキを、馬鹿にされたと思ったのかルージュは「もう!」と言いながらコウキから離れ、兄の後ろに隠れるようにした。
「なあ、何で機嫌が悪いんだよ、お前の可愛い妹は」
コウキがリョウマを見下ろして言った。菫も便乗してじっくりとリョウマを見上げた。
背が高いが、コウキよりは低かった。ひょろりと細長いコウキよりも背が高い人を見つける方が難しいかもしれない。
くせっ毛を後ろ一つで束ねており、髪は長いようだった。燃えるような、まるで炎のように逆立っている髪は、炎のリョウマの名を表しているようだった。
目つきも鋭く、ギロリと睨むように視線をコウキに合わせる彼の目は、情熱的で生命力に満ち溢れていた。
「お前のせいだろう。下女にドレスを着せたことを怒っているんだ、ルージュは」
「菫が貴族じゃないから?」
「当たり前だ。貴族のみが着て良いドレスを、こんな貧乏人が簡単に着るなど、品格が問われるぞ、コウキ」
まるで菫を魔人とは思っていないような扱いに、菫は内心少し驚いていた。今時こんな選民意識の高い貴族がいることを驚いたのだが、菫は現在女中の扱いなので、もしかしたら日常茶飯事なのかもしれないと思い立った。
「再教育のし甲斐がある兄妹ですね……」
他の者には気付かれないよう、菫は小さく呟いた。
☆続く☆
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