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第6章★赤騎士団長・炎のリョウマ★

第2話☆推測☆

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「おい、早くしろ」


 息を荒らげながらゼンタが後ろを振り返る。


「すみません、先に行ってください」


 ゼンタに追いつけない菫が言うと、ゼンタはチッ、と舌打ちをしてその場に立ち止まった。


「お前、何しにきたんだよ。リョウマさんを助けるどころか足手まといになりそうなんだが」


「本当ね……わたし何しにきたのかし……ら……」


 言いながら菫は目を見開いてその場に立ち止まった。


「おい、なんだ? 頭でも痛いのか?」


 ゼンタが戻ってきて菫を心配そうに覗き込む。


「……待って……わたし、そもそも何故邪神国に偵察にくることになったの? それから、騎士団長が次々に記憶操作の薬を飲まされたのは何故……」


 菫はそう呟くと、ゼンタに構わずその場にうずくまった。


「お、おい、気分でも悪いのか? 宿で休んでるか?」


「いえ、大丈夫です。ただ、亘やカルラ様の方より、わたしたちの行く場所の方が危険かもしれません……みんな一旦合流した方が良いかも……」


 カラムの町で八雲の体がオークションにかけられた。


 その後ローゼンバッハ脱走、死の監獄に向かいローゼンバッハを保護。


 邪神国ではリョウマとカルラが狙われ、記憶操作の薬を飲まされた。


 サギリ女王の目的は月読命という神界の神様に会うこと。


 そのためには若い体で会いたい、とのこと。


 治験するため、現在開発中である若さを維持する薬を、教団費を払えない月読教信者に飲ませ実験させている。


 どれも共通するのは『老いない』こと。


「ゼンタ様、今から行くのは月読教の本陣……教会本部です。亘とわたしが偽装夫婦で向かい、偽名で入信した場所です」


「ああ、邪神城の離れに作られたところだろ。サギリ女王が後妻になってからすぐに作られたという……」


「はい。お城は、有事の際王族を逃がすための隠し通路や隠し部屋があります。恐らく教祖のサギリ様が王族のため、教会にも隠し部屋があるとみて間違いないでしょう。そこにリョウマ様がいると思います」


「では早く救いに行こう」


「……アコヤ様と御剣様も恐らく一緒です」


「御剣? リョウマさんの庭師の?」


「はい。恐らく彼が1枚かんでます」


「どういうことだ?」


 ゼンタが不審そうに菫を見た。菫は立ち上がると、ゼンタを真っ直ぐに見据える。


「サギリ女王の誕生日パーティーのとき、リョウマ様と一緒にいた際に出くわしました。アコヤ様が御剣様と熱く愛を語り合っていました」


「えっ、リョウマさんの妻ですよね、アコヤさんは」


「不倫関係にあるアコヤ様と御剣様が、わたしたち……というかリョウマ様に見せつけた可能性があります。そのとき、アコヤ様がカルラ様に記憶操作の薬をグラスに入れ『これであの男はお姉さんの言いなり』と、わたしたちに聞こえるような声で言いました」


「お姉さんとは、サギリ様のことだな?」


「……はい。でも、あんな不自然に聞こえるように、大きな声で黒幕の名を言うでしょうか。明らかにわたしたちに見せつけるようなラブシーンでした。アコヤ様はこちらに気付いていないようでしたが、御剣様は明らかに気付いていた。つまり、この会話をリョウマ様に聞かれたかった。ミスリードさせるにはサギリ女王は格好の餌です」


「どういう……ことだ」


「これは推測ですが、邪神国と月読教団側は協力関係にないです。王族を乗っ取る目的で、教団側が王妃様を亡くして悲しみに暮れる王様に近付いた。顔を変えて、王妃に似せたサギリ様を近付けて」


 菫を見ながら、ゼンタは茫然としていた。ただの女中とは思えない、と思った。


「おい、話しているところ悪いが、今教会本部から出て行ったの、その御剣とアコヤさんだぞ」


「えっ?」


 ゼンタが目を細めて遠くに見える教会のドアを見つめた。


「何だ……? アコヤさん、服が変だ。ローブを羽織っているようだが……」


「ゼンタ様、行きましょう」


 菫がゼンタの手を取って教会本部へ走り始める。


「おい、危険だぞ。俺が先に行くからお前は後からついてこい!」


 手を離したゼンタは、菫の前を走り抜け、あっという間に教会の門を開けた。


「リョウマさん……?」


 月読教の祈りは夜、月が出てからやるため、太陽が出ている日中は誰もいないことをゼンタは知っていた。


 しんと静まり返った教会内は薄暗く、リョウマがいる気配はなかった。


「ゼンタ様」


 ようやく到着した菫が、荒い息を整えながらゼンタの隣へ並ぶ。


「いないぞ、リョウマさん」


「隠し扉とか、ありませんか」


「探してみる。お前は少し座って休んでいろ」


 強引に菫を椅子に座らせたゼンタは、隠し扉がないかくまなく教会内を探し始めた。


 ゼンタは色々手探りで触りながら教会内を探している。


「おい、お前」


「はい?」


「お前、リョウマさんとアコヤさんが政略結婚したことは知っているのか」


「はい、聞きました」


「俺はそのとき、まだ騎士団学校に通っていた。たまにリョウマさんが先生で来てくれることがあって、そのときに知った」


「へえ……そんな学校があるんですね」


「昔のリョウマさんは、とにかく怖かった。怖かったが、威厳と自信に満ち溢れ、正義感も強かった。だが、結婚してからふと下を向いたり、寂しそうに遠くを見たり、そういう仕草が多くなった」


「そうですか」


「その後紫苑の塔に毎日遊びに行っていると噂になった。あの人は権力者に媚びるところもある。女中のお前なんかが助けに行っても、プライドが許さないんじゃないか。お前なんか、紫苑の塔の奴らみたいな扱いを受けて、リョウマさんに弄ばれて終わりだぞ。それでも助けに行くのか?」

 
 菫はそれを聞いて笑顔を見せた。ゼンタは怪訝そうに菫を見る。


「心配してくれているの? ありがとう」


「ち、違う。俺はリョウマさんが心配で……」


 菫は慌てるゼンタを見てクスッと笑った。


「行きます。わたしは桃太郎だから」


「桃太郎……?」


「リョウマ様、寂しがり屋だから、誰かがいないと泣いちゃうでしょ」


「……そんな風には見えないが」


「わたしね、リョウマ様の実家を壊してしまったのよ。だから、リョウマ様のことは絶対見捨てませんし、彼が地獄に落ちるなら、わたしもそれに付き合うと決めているのよ」


「ふん、恋慕か。難儀な人を好きになったな」


「そういう感情は抱いてはいけないんですよ、ゼンタ様。全て終わったら、わたしも終わりですから。可哀想でしょ、心を通わせていたら」


「? どういう意味……あっ、見つけた!」


 ゼンタの声に菫は立ち上がる。教祖であるサギリ女王が立つ祭壇の下に地下へ続く階段があった。手でずらせるようになっている小さなドアの奥だ。


「さすがゼンタ様。ありがとうございます、わたしを休ませてくださって」


「フン、体力ないからな、お前」


 ゼンタが静かに階段に足を踏み入れる。


「まだ誰かがいるかもしれない。俺の傍を離れるなよ」


「はい」


 ゼンタは自然な仕草で菫の手を掴むと、自分が先に降りて行った。暗がりの中、ところどころランプの明かりがついていて、現在もこの施設が使われていることが予想された。


「地下牢のようだな……しっ、静かに」


 ゼンタが立ち止まり、奥まった通路の見えない陰に菫を連れて隠れる。


 誰かが牢の中にいる。


「1人のようだな。リョウマさんか……?」


 しばらく2人が様子を伺っていると、すすり泣きのような声が聞こえて来た。その後、ジャラジャラと金属音が擦れるような音が響き、2人は息を飲んで静かにした。


「う……っ……くっ……」


 咽び泣いているような声に変わる。リョウマの声だった。


「リョウマさん……泣いているのか? 怪我とかしているのか?」


 菫は黙ってゼンタの手を強く握った。それに気付いたゼンタは後ろを振り
返り、菫を見下ろす。


「どうする? 助けに行かないと」


「こんなに泣いているところ、見られたくないのでは……? どちらかがそっと行って助けましょう。ゼンタ様、どうですか。女性に泣いている場面、見られたくないんじゃないかな」


「……そうだよな。だが、男にこんな場面見られる方が俺は嫌だ。お前は物腰も柔らかく、気が抜けるし、下手に口も軽くなさそうだ。お前が行ってやれ。俺がリョウマさんの立場なら、俺よりお前に来てもらえた方が嬉しい」


「……そうかな。わたしで大丈夫でしょうか」


「少なくとも俺よりは大丈夫だよ。俺は上の教会で誰かこないか見張っているから、ここはお前がいってやれ」


「……わかりました」


☆続く☆
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