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崩壊
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しおりを挟むディエゴが暗殺者に襲撃されたことはすぐに城中に知れ渡った。
本来であれば恨みを買いやすいこの国の後継者であり、英雄であるディエゴの容態が知れ渡るのは得策ではなかった。
もしも他国がこれを機会に攻め込んで来たときのことを考え、国王はなるべく事を大きくしないように施行令を布いた。
「王太子への襲撃のことについて一言でも余所に漏らし、または噂した者は何人たりとも容赦はせぬ。一族もろとも厳罰に処す」
破った者は容赦しないという国王の言葉に温度は見られない。
「また、それを聞いた者も身分の関係なく奴隷の身に落とし、家畜の焼印を入れると思え」
国王の今までに見たことのないような冷酷な表情と、その厳しい処罰の内容に付き合いの長い忠臣達さえも凍り付いたという。
それだけ、国王は唯一の息子であるディエゴの容態を気にかけ、暗殺者達に対して怒りを燃やしていると人々は噂した。
しかし、一度広まってしまった噂を取り消すことは不可能だ。
国王の施行令が出る前に流れてしまった衝撃の話は当然のように婚約者であるメリッサの耳にも既に入っている。
メリッサがじっとしていられるはずがなく、当然のようにディエゴの安否を知ろうとあの手この手を使って国王から聞き出そうとした。
国王としては民に知られたくないのと同じくらいに唯一可愛がっている姪のメリッサにもディエゴの件は知られたくなかったが、今にも死にそうな表情で泣いて縋り付き、ディエゴの容態を聞くメリッサに心が痛んだという。
そして国王以上にその周りの者の心は痛み、メリッサを憐れんでいた。
哀れなメリッサを慰めるために、彼女付きの侍女などは城の伝手を使ってディエゴの容態を探ろうとまでした。
傷心のメリッサのお気に入りの侍女達を罰するわけにはいかない国王はついに根負けし、仕方なくメリッサに今だ回復しないまま高熱で寝込むディエゴに会わせることにした。
国王もまた、それがメリッサのためになるのではないかと思ったのだ。
*
ディエゴは襲撃されたその夜から謎の高熱でずっと寝込んでいる。
暗殺者達が持っていた正体不明の新種の毒を浴びたディエゴの顔や右上半身は大火傷を負ったように皮膚が焼け爛れ、顔は肉にまでその毒が回っていた。
比較的服によって防御された肩や腕、胸はまだ良い方だ。
しかし、元の精悍で研いだ刃のような凛々しくも整ったディエゴの顔に癒えない傷、それも無残で見る者が恐怖してしまうような傷が残ってしまったことを医者や看護する者達は皆嘆いだ。
ひたすら痛みと呪詛で呻き、怖ろしい悲鳴を上げるディエゴはもう狂ってしまったのではないかと思うほど、その姿は痛々しく、戦場でそれこそ戦神の化身のような眩しいディエゴを知る者はより心を痛めた。
父である国王もまた、時間があるごとにディエゴを見舞い、その経過のほどを事細かく医師に尋ねた。
顔に疲れを滲ませながらも、目だけを爛々と輝かせてディエゴの姿をじっと見つめる国王には鬼気迫るような何かがあった。
国王はある日、ついにメリッサを連れて城の重臣の一部にしか知らせていないディエゴを看病している部屋に連れて来た。
そこは地下にあり、まったく見覚えのない景色にメリッサの心に蜘蛛の糸のような不安が広がった。
そして、その不安は的中する。
メリッサは部屋に入る前からこの世のものとは思えない、獣のような呻き声や叫び声を聞いて、顔を青褪めながら縋るように王の袖を握りしめた。
部屋は地下にあり、よりその断末魔の叫びは反響し、おどろおどろしく響いた。
緊張と不安、そして本能的な恐怖で青褪めるメリッサ。
その表情を見て、王は穏やかにメリッサに問いかける。
「この中にディエゴがいる。今は熱で倒れ、悪夢に魘されている状態だ。呼びかけても目覚めはしない。それでも、会うか?」
「……はい、会いたいです」
幼くも決意を秘めたメリッサの力強い目を見て国王はしばらくの沈黙の後、意を決すように頷いた。
「ならば、その目に焼き付けよ」
厳かに、告げる国王の声に温度はない。
なんの感情も伺えない、その冷淡な響きにディエゴのことで頭がいっぱいだったメリッサは気づかなかった。
「変わり果てた、お前の愛する者の姿を」
決して、目を逸らしてはならん。
声にならない国王の言葉。
そこに秘められた蝋燭の灯のようなゆらめきに、まだ幼いメリッサは気づかなかった。
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