最弱で駆ける道

じゃあの

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第一章 『始まりの洞窟』

第十一冊 『分断』

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『フィリアが死んだ』『フィリアが死んだ』『食べる事が大好きなフィリアが死んだ』『戦士のフィリアが死んだ』『無表情だけど優しいフィリアが死んだ』『俺の料理を美味しいと言っていたフィリアが死んだ』『俺達よりいつも少し遅く起きていたフィリアが死んだ』『俺のことをいつも弄っていたフィリアが死んだ』『何時も命に感謝していたフィリアが死んだ』『盾を持ちながら『……調子悪い』と言っていたフィリアが死んだ』『起きる時は髪がぼさぼさだったフィリアが』『カルムから貰った物を大事にしていたフィリアが』『力は強いけど普通の少女だったフィリアが』『探索する時いつもカルムの傍に居たフィリアが』『あのフィリアが』『防御が得意なフィリアが』『守ることが生きがいだと語っていたフィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』『フィリアが』





















 ─────死んだ。




















 ────ばたりと、フィリアが切れた糸のように倒れる。次の瞬間、轟音を轟かせながら巨体が飛来してきた。地面を滑る様に訪れた其れは、倒れたフィリアの上に着地する。地面がえぐれる音と肉が千切れる様な音、煙が巻き起こり、巨体────オークは咆哮する。ティアに切られていた筈の眼は完全に再生し、寧ろこの間よりも興奮している様だ。

 カルムは苦悩で顔を歪め、しかし冷静で有ることを優先したのか、直ぐに口を閉じる。

「────フィリアァッ!!」

 そして漸く、陽とティアがその真実を認識する。ティアが甲高い悲鳴と共にフィリアの名を呼び、飛び出そうとする。だが、カルムがを押さえつけたことによって失敗に終わった。

「今は抑えろッ!」
「でも、フィリアがッ!」
「お前まで死ぬ気か!?」
「フィリアはまだ死んでない!」

 カルムとティアが口論を始める。陽は動かない。動けない。こんな恐怖を目の前にして、こんな絶望フィリアの死を目の前にして。だが、それを逃がすほどオークは甘くない。血に濡れた巨剣を振りかぶれば、二人に向って振り下ろそうとする。

「ッ、ふざけないで!」 

 ティアが剣を抜き、それを迎撃する。真正面に振り下ろされる巨剣に対し、居合切りを持って迎え撃った。甲高い音が響き、剣戟が発生する。二人自身と得物の大きさは数倍以上もあるというのに、全く差が無い強さだ。

「ヨウ! 立て! ボーっとするな!」
「……え?」

 言われて初めて、陽は自分が座り込んでいる事実に気づいた。同時に、涙を流していることにも。言われた通り立つが、何をしていいのか分からない。冗談でも、なんでもなく、何をしていいのか・・・・・・・・分からない・・・・・のだ。

「王の一撃よ! 我らを縛り付ける星の申し子よ! 束の間の時にて、敵を押し潰す猛威を振るい給え! 願うは敵の殲滅なり! 『重力グラヴィタ・スフェッ殴打ラーレ・ウン・プーニョ』!」

 そうしている間にも戦闘は続いていく。カルムの詠唱が完了し、重力魔法が発動する。オークを中心に地面が陥没するが、まるで効いていない様に、軽々とした様子で肉薄する。対象はカルムだ。
 だが、それはティアが許さない。オークとカルムの間に割って入ると、オークの蹴りを剣でガードする。普通ならオークの肉が剣で切り裂かれているところだ。だが、しっかりとその一撃を蹴りで弾いていた。

(なんで……フィリアの方へ)

 ────二人は助けに行かないのだろう。
 
 一瞬そう思った。違う、違うのだ。助けに行かないのではなく、助けに行けない。ティアは先ほどからフィリアへ近づこうとしているのに、オークがそれを邪魔している。カルムへ攻撃を集中させることにより、ティアも強制的に引き付けられている。当然だ、カルムにはオークの一撃を受け切るだけの魔法は無いのだから。少なくとも、陽は見ていてそう思った。

 切り付けられ、防ぎ、魔法を放ち、切り、防ぎ、切り、魔法を放ち、そんな攻防が、何度も繰り返されている。その度に空間が震え、陽まで衝撃が伝わってくる。今までには無いほど強い敵だ。カルムとティアの二人掛かりで、漸く一体の魔物を相手にできるなど。考え付きもしなかった。だってあの時、ティアが助けてくれた時には、此処まで強そうには見えなくて。

「暖かなる自然の輝きよ、集いて、今その性質を反転せよ。我が矛が纏うのは自然の輝き成り───」

 カルムが魔法を詠唱する。確かこの言葉は風魔法:『風遊びヴァン・ドネ』だ。その名の通り風を対象へ付与させる魔法である。
 それと同じタイミングでオークの攻撃がティアを襲う。横に飛んで回避し、返す刀で攻撃をしようとする。その瞬間、

「───風遊びヴァン・ドネ!」

 ティアの剣が風を纏う。少し反応が遅れたオークは攻撃に対して防御をできない。剣が表面に複数の傷・・・・を作るが、肉を刻む、とまではいかなかった。剣は確かに命中したが、どうやら相当オークの肉体は硬いらしい。
 付与魔法系とは、基本的に『魔法を付与させる』ものであり、それぞれ役割が決まっている。火遊びファイア・エンチャントなら『燃やすため』、土遊びテッラ・クリアツィオーネなら『対象の強化』、風遊びヴァン・ドネなら『斬撃力の強化や対象を傷つける』。水遊びヴァッサー・ゲーベンというのもあるが、それは『水が苦手な魔物や炎を迅速に鎮火させる』ために使用されるため、戦闘では滅多に使われない。

 今回一太刀で複数の傷が出来たのは、風遊びヴァン・ドネによる『対象を傷つける効果』である。剣に付与された風がオークの肉体に触れることにより、効果が発動した、と言う訳だ。

 均衡は、刹那に崩れ去る。

 ゴッ……

「くっ……!」
「ティアッ!」
「ユースティアッ!」

 オークの一撃が、等々、ティアの腹を捉える。剣では無く蹴りだ。巨大な金づちの様な蹴りがティアの腹に炸裂し、一瞬体が『く』の字になったかと思うと、残像を残しながら飛んでいく。煙に紛れて見えなくなり、数秒経って凄まじい音が響いた。

「ティアァッ!」
「ユース、ティア……」

 陽は思わず涙を流してしまい、唖然とする。あんなに強かったユースティアが、一度も戦闘で傷ついたこともなく、一度も表情を崩すことが無かったユースティアが。今目の前で、吹き飛ばされた。
 男二人、無様な声を漏らす。だが、それをオークが逃さないことはもう分かっていて。茫然とする陽とは違い、動き出すであろうオークに対し、魔法を放とうと────

 ────しかし、オークの矛先は陽へ向いた。

「ぇッ?」
「ヨ────」

 のどが張り裂けんばかりに、カルムが三度目の叫びをする。だが、それを聞き終わる前にオークの蹴りが陽の腹へと吸い込まれ……凄まじい音が響いた。

 ボゴンッ

 石や鉄でも響くことが無いであろう音。それを聞いた瞬間陽は腹と目と脳に痛みを感じ、吹き飛ばされていた。恐ろしいまでの浮遊感と不快感、不自由を感じる。

「────がぅはッ」

 自分でも驚くほど不思議な声が出るが、それを気にしている時間は無い。次の瞬間背中に激痛が走ったかと思うと、そのまま地面へ急激に落下する。

「あっ、ガッ!」

 ごろごろと地面を転がり、全身を打ち付ける。顔も地面へ打ち付け、額が切れて血が出てきた。
 なん回転しただろうか。最早痛みすら感じなくなってきたころ、陽は再び壁に当たって止まる。今回は貫通はしなかった。

「……いてて……どこだ────え?」

 陽は腰を撫でながら周りを見渡す。視界に映るのは自分の肉体と、破壊した壁の残骸、地面、少しの鉱石。どうやら円形の広場の様である。そして────

「なんだ、これ……?」

 ────明らかに物理法則を無視して浮いている、『紅い本』が眼に入った。

~~~~~~~~~~~~~~~ 

 痛みは驚くことにそれほどでは無くて、陽は体に鞭を打ってその台座へと向かう。台座は大理石でできている様に白くて、大きさは1Ⅿ50㎝といった所だろうか。陽にとってはちょうどいい場所にある。自分の身長がどれぐらいか分からないので、正確なことは言えないが。

 そして浮かぶ紅い本。宝石の様に赤く発光しており、普通なら目が潰れる程の光量だが、不思議と目は痛くない。むしろ見ていて癒される様な輝きだ。紅い光だというのに少し不気味とさえ思える。こちらの大きさは文庫本一冊と言われるB6用紙、それより少し大きい程度だろう。

 輝く物、と言われて思いつくのは、フィリアが拾ったあの────

「フィリア……」

 ────死んだ少女、死んで逝った少女。初めて見る人の死があそこまで惨い物に成るとは想像もつかなかった。あんなに元気だったフィリアが、こうも簡単に死んで逝くとは、現実味を帯びていない。だが、心のどこかでは『事実』だと肯定していて。けど、認めたくなくて。

 陽はその場に蹲って、体育座りの姿勢になった。特に理由は無い。なんだが、自分という存在が逃げてしまうそうな恐怖があって、自然とこの体勢を取っていたのだ。
 逃げる勇気もない、助けに行く力も勇気もない。でも、動かないわけにはいかない。

「……フィリア……」

 何度呟いても、何度嘆いても、返事は帰ってこない。どうしてこんなことになったのだろうか。オークが来なければ、今も普通に探索していて、カルムの横でフィリアは笑っていたのだろうか。そう考えると、何時もの陽なら、怒りがわいてくるはずだ。

 オークへの怒り。平和を壊された怒り。だが、陽にそんな力はない。故に、諦めるしかない。『不可能だと思ってもやらなければいけない』────そんな行動を起こせるほど、強い人間ではない。力があれば、先ほどの攻防でただ立っている、なんてなかったかもしれない。カルムに助太刀できたかもしれない。フィリアを、死から救えたかもしれない。

「────?」

 考えている内に、視線を彷徨わせていた。
 それは無意識故の行動か、それとも『何かしなくちゃ』という、無責任な責任感か。何れにせよそれは、『あそこに戻りたくない』という、恐怖から着た行動なのだろう。己が吹き飛ばされ、破壊した壁の残骸を辿っていくと、時々色が付いている時がある。

 赤、青、緑……絵の具のようだ。というか見た感じ絵の具である。破片の一つを裏返して見てみれば、人の手だったり、体だったり。恐らくだが、これはフィリアが見つけた壁画である。『龍と人間族ヒューマン森人族エルフ、その他の種族が仲良く宴をしている絵』だ。

 陽は形が合いそうな破片と破片を繋ぎ合わせていく。所々小さすぎて結合できない部分があったが、そこは無視するしかない。 
 そうして破片を何とか集め、壁画は出来上がった。やはり完全ではないにせよ、何を表しているかは理解できるだろう。

(これ……)

 そして、気づいたことがある。壁画の破片の裏、何か文字が刻まれているのだ。断片的でよく分からず、くっ付けるにもどこの部分とどこの部分が合うかも分からなかったのでできなかったが、今は違う。つなぎ合わせた壁画の断片を裏返せば良いのだ。

 出来上がった壁画をも一度崩し、裏側に構成し直していく。文字は絵と同じく絵の具で描いてあるのだろうか。その手の材料を陽はよく分からないのだが、『マジックペンみたい』だと思った。黒い線と線が形を作っていく。最終的に露わされた文字は────

『B1G2J2B5I5C4』

(B? 1、ジ、え?)

 ────アルファベットと数字の意味不明な一文。

 正直意味不明だった。理解できない。いや、この文自体が・・・・・・、と言う訳ではなく、解読出来ないことが、だ。
 転生者:陽が唯一持ちゆる特異性、それは言葉を理解する『言語理解(最上)』。最上の意味は分からないが、その通りならばこの言葉が解読出来ていなければ可笑しい。

 確かに、この一文はアルファベットと数字だ。だが、書いてある分が何かしら『意味』を成しているのならば、言語理解が発動しないのは可笑しくないだろうか。
 言語理解がどういう効果なのかは分からないが、それなりに複雑な過程を得て発動しているのかもしれない。若しくは、この一文は『暗号』という扱いなのか。

 分からない、分からないが、兎に角陽では(正確には言語理解では)この一文を解読できないという事だ。
 陽はその時点でとりあえず諦め、壁画を放置すると、最後。本命へと近づいていく。

「─────」

 無機質な台座、その上に浮かぶ『紅い本』。神秘的な輝きを発すそれは、ある種神製道具アーティファクトの様な不思議さを兼ね備えている。
 其れに手を伸ばせば、何の抵抗もなく触れることが出来た。

「ッ、おぅ……」

 下から本に触ったが、その瞬間、途端に浮かんでいた本が落ち、陽の手に収まった。空中に固定されていた様で、触れば固定が解除され、重力に従って落ちていく────そんな感じだろうか。重さは外見通りといった所である。まさにB6用紙の単行本の重量そのままだ。

 よく観察してみれば、『表』と思わしき方には龍の紋章が書かれている。表紙の中心に大口を開けた龍の頭、そして大きな爪、まるで攻撃しているかの様な絵である。その絵の上には、『龍神の古代魔法』と書いてあった。

(……『龍神の古代魔法』?)

 今まで出たことのない言葉だ。龍神、その名の通りならば龍の神なのだが、もしかしたら壁画の龍は龍神だったのだろうか。
 陽は続きが気に成り、表紙を捲る。一ページには当然、文字が書いてあった。

 ただし、紙の中心、一行だけ。

「えーと……?」

 ────一行だけ、そしてこの状況。自然と、その言葉を読んで、口に出したくなるという物で。気が付けば、陽はその言葉を指でなぞり、口に出していた。

「──────『我は龍神、龍神の後継者成り』」


 プシュッ


 気が付けば、|陽(・)は空中を舞っていて────正確には、陽の首は宙を舞っていて、まるで力任せにブチ切れた様な自分の首から下を、見つめていた。
 無理解のまま、無自覚のまま、無意識のまま、死んで逝く──────

 ──刹那の時、こんな言葉が浮かんでいた。

『我は龍神、龍神の後継者成り。その力は神を殺す力。かつて神によって滅ぼされた力。『今代龍神』:ソラシロ ヨウ───歓迎する』
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