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第二章 『ギルセル王国第三都市セルビス』
第二十五冊 『妖精の止まり木』
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─────どういうことだ、こりゃ……
妖精族と獣人族のハーフ、半獣族で、宿『妖精の留まり木』の主人であるアルフレッド・シャリアンスロープはため息を付いた。宿の客から『風呂の方で騒ぎが!』と聞いてきてみれば、とんだ状況に遭ったものである。
ちなみに半獣族《デミ・セリアン》は獣人族と他の種族のハーフで、獣人の血が容姿に濃く出た人物を指すものだが、それには二つ種類がある。
例を出すとしよう。アルフレッドの場合だと、妖精族と獣人族のハーフだ。アルフレッドは顔や体の構造は人間だが、歯の鋭さや嗅覚、そして耳など、獣人的特徴が少し出ている。人間の容姿に耳などを付け加えた様な半獣族を『半分型』と言う。つまりアルフレッドは半分型で、犬の獣人だ。
体の形のみがもう一つの血の方《アルフレッドなら妖精族》で、顔の形や毛深さなどが獣人の場合、『完全型』という。アルフレッドが完全型の場合、身体は人間族と同じなので、人間の身体に獣人の顔と耳、尻尾と成る。
妖精族《フェアリー》とは主に森人族と友好関係にあり、森に棲んでいる種族だ。近年では町へ移住する妖精族も増えている。
基本的に人間と同じ体をしているが、長身があまり無かったり、透明の羽が生えていたり、風魔法系統の適性が強かったりする。羽の透明度については個人差ありだ。
「犬耳だ、ッオラァアァアアア!」
バオッ!
風呂場の中心、二人の少年がいる。片方は赤いバンダナが特徴の少年。もう片方は黒い髪に紅眼が特徴の、コトナ出身と思われる少年。
赤いバンダナの少年は腰の入った拳を赤目の少年へ放つ。拳とは考えられ無いと音が響き、紅眼の少年の体が宙を飛ぶ。そして湯舟へ落ちると水柱が立った。
あまりの本気具合に周りの客が若干引くが、しかしそれを止める事は無い。何故なら、
ガバッ!
「ふざけんな!」
今度は勢いよく水面から紅眼の少年が飛び出した。そして空中でグルンッ、身を捻ると、
「猫耳に、決まってんだろうがッ!」
次の瞬間にはバンダナの少年が吹き飛んでいる。そして地面をバウンドし、壁に当たる直前で体勢を治した。それと同時に少しの歓声が沸く。周りの客が止めないのは、こうした攻防が何度も行われているからである。若干血が出ているが、二人が動揺していなければ痛がる様子が無かったのも、止めてない要因の一つだろう。
どうやら周りの客は冒険者の様だ。何故なら、冒険者とは戦闘狂の集まりである。必ずとは言い切れないが、殺しを生業とする以上、それを愉しむ者も多いのだ。先ほどの本気には引くものの、喧嘩自体は見てて面白いのだろう。
バンダナの少年が口に付いた血を払うと、再び肉薄して連打を仕掛ける。
それに対して、紅眼の少年は全身を使い全てを避けていた。攻防が入れ替わり、今度は紅顔の少年の番。再び蹴りが炸裂するが、それに対しバンダナの少年は足を掴んだ。そしてその場に叩きつける。
「ほら! やっぱ犬耳の方がいいんだよ!」
バンダナの少年は倒れる紅眼の少年に蹴りを入れようとするが、ほぼ同時に紅顔の少年がバク転で回避する。そして近づき足払いを駆けると、そのまま遠方に蹴り飛ばした。
「猫耳こそ至高! 犬耳好きな奴はどうかしてる!」
嘲るように紅顔の少年が叫ぶ。空中で体勢を治したバンダナの少年が跳躍し、近くに着地すると顔面に拳を叩きこもうとした。だが、紅顔の少年が拳で対抗し、攻防が続く。最終的に二人は組み合う様な状況になった。
「猫耳のどこがいいんだ! 全然犬耳の方がいいじゃねえか!」
「お前こそ何言ってんだ! サラサラな毛並み! 撫でると垂れる耳! 何より可愛いじゃねえか!」
「可愛さならこっちの方が上だっつうの!」
「なわけあるかッ!」
──────それらすべてを見届け、アルフレッドは深くため息を付く。獣人の耳や尻尾は感情に応じて動くものだが、それを証明する様にヘタレていた。
だが、一瞬で気合を入れると大きく息を吸い、
「─────犬だろうが猫だろうが、耳なんてどれも同じだろうがッ!」
「「獣人族が言っちゃおしまいだ!!」」
~~~~~~~~~~~~~~~~~
『妖精の止まり木』。
セルビス東北方面に存在する宿である。パンを中心とする食文化のセルビスでは珍しく、『コトナ』出店の米と言う料理を扱っているのが特徴だ。更には珍しい『温泉』を扱っている店であり、主に観光客に好まれている。
なにやら主人は過去にコトナに旅行に行き、大層文化に感動したらしい。そのため宿にもコトナの文化を反映させたそうだ。
コトナはこの世界のどこ文化と似ても似つかない。その為妖精の止まり木を好む者は限定される。だが、好きなものにとっては利用しやすく、また限定的な客を引き寄せるため料金が安いことも相まって、隠れ宿的な面を持つ。
好む者とはヨウたちのような転生者、そしてコトナ人、若しくは物好きである。築波は前にここを利用していたらしく《今は家を借りているらしい》、其処をヨウに紹介したと言う事だ。予め話は通していないが満員になることは滅多に無いため、夜に向かっても大丈夫だという。多少埋まっていても『築波・レイラインの紹介』と言えば融通が利くらしい。築波様々である。
ティアにも一応そこでいいか聞いたのだが、『ヨウ君が好きならそこでいいんじゃないかな? それに、コトナは言ったことが無いから文化には興味があるし』だ、そうで。積極的ではなかったが嫌がる様子もないので、今回は厚意に甘えさせてもらった。
別にコトナ─────地球に似た文化に執着がある訳ではないが、それでも『心残り』の様な物があるのは確かだった。
ガランッ
二人はドアを開けて宿へ入る。
一回は食堂に成っているようで、数人が食事をしている。見えている限りでは和食《のような何か》を食べているようで、白い米や焼き魚などが目に映った。
《魚……刺身とかあるんだろうか》
脳裏に浮かぶのはマグロやタイ、サーモンなどの刺身。ヨウはその手の生魚が好きだった。この世界では冷蔵の技術などが発達して無いだろうし、刺身は無いかもしれない。魔法があるのだから実現不可能ではないだろうが。
第一、地球では元々日本ぐらいでしか生魚を食べる文化は無かった。そう考えると異世界で生魚が食べられなくてもしょうがないのかもしれない。ヨウよりも先に転生している地球人などが、何かしら工夫をしてそうではあるのだが。
《……ん?》
そうして考えていると、ふと違和感に気づいた。横で物珍しそうに宿内を見渡しているティアに対し、周りの男性客がチラチラと様子を窺っているのだ。いったいなんだと訝しむが、直ぐに原因は思いついた。
所謂、『入った来た客が美少女だったので周りの客が思わず見てしまっている』のだろう。
異世界系の話でよくある『テンプレ』と言うやつである。ティアはその容姿から注目を集めやすく、それに加え実力まであると来た。今背負っている剣は無骨ではあるが、前の不変性を持つ神製道具の時はもっと注目を集めていただろう。
ちなみに、ティアは現在剣を腰に差していない。前の神製道具は剣と言うよりかは刀に近い形状であったため腰に差していたようだが、フィリアの剣はなんの変哲もない普通の剣だからだ。
一応ティアの視界を遮る様に前に出ておく。カッコつけたくなる性分なのだから、仕方がない。そして厨房が奥にあるカウンターまで行くと、料理をしていたのだろうか。掛けてある布で手を拭きながら男が一人姿を現した。
「いらっしゃい! ようこそ『妖精の止まり木』へ」
三十過ぎぐらいの男性だ。茶色の髪と瞳、ガタイはよく身長は190㎝はあるだろうか。それだけ見れば普通に強そうな男だが、明らかに異質な部分がある。それは、髪色と同じ耳と尻尾が生えており、それがピクピク動いている点だ。よく見れば頭の側面に耳が無い。
───────獣人族
その種族はかつて獣と交わった人間が元だという。獣の様な身体能力と容姿を持ち、人間族の中でも一番多種多様な種類が存在することで有名だ。
人類同盟で見たことはあったが、こうして会話するのは初めてだ。
「今日は宿泊かい? それとも食事だけかい?」
「えーと、宿泊です。食事も込みで、後温泉も」
「はいよ。一部屋金貨三枚、二人だと金貨六枚。それに風呂と食事で金貨一枚と銀貨八枚だ」
日本円にして────と、考えるが、それは辞めた。築波から言われているのだ。『この世界の通貨は確かに日本と似ているけど、必ずしも同じではないからね』と。つまり、日本と同じ感覚では少しずれていると言う事だ。
ちなみに、それでも金貨三枚と言うのは安い。この世界は冒険者と言う日雇いの仕事をする者が多い。つまり、拠点を持たない者が多いため自然と宿の需要が高くなるのだ。大概の宿は冒険者が一日で稼ぐ金額の半分ほどで泊まれるという。それを考えればこの宿は温泉があったりコトナの文化を取り入れていたりで、割高には成っている。
ヨウは魔力を手に通し、万物収納異空間展開鞄を展開させる。そして某青いネコ型ロボット並みにガサゴソ中を漁り、要求された枚数を取り出す。便利ではあるのだが、些か中が汚い。後で掃除する必要があるだろう。
魔力を流すのをヨウが辞めれば、黒く染まった白雪を見る様な表情で『へぇ、面白いな』と呟いた。
「珍しいな。神製道具か。便利そうでいいな」
「確かに便利ではあるんですけど、逆に物を持たなくていいっていうのは少し戸惑います」
常識の一つが無くなるようなものだ。例えば下校中のバッグを持たなくていい、例えば買い物へ財布を持っていく必要が無い、例えば旅行へ行く時何も持たなくていい。当たり前と認識していただけに、万物収納異空間展開鞄を使っていると荷物をどこかに忘れた誤解をしたりする。
もっとも、便利であることは変わりないため使うのを辞める事は無い。
「これでお願いします。一人部屋二つで。当然それでいいよな?」
「うん、大丈夫だよ」
一応、ティアへ伺う。別に二人部屋を取りたかったとかそういう事は無い。男女である以上、恋人でもない限り別々の部屋なのは当然だ。だが、聞かなかったら後々何か言われるかもしれないので、一応聞いたのということである。
「おいおい、一人部屋でいいのかお二人さん?」
「いいのか……とは?」
「え? 別に何も問題ないですけど」
どうやら主人は気さくな人物らしい。ヨウの言葉にすぐさま反応したところを見ると、そういう系の接客も慣れているのが窺える。ちなみにさっきから敬語では無いのは毎度の如く『この世界ならでは』だろう。説明はもはや要るまい。
だが、質問の意図が分からない。ヨウとティアは二人して聞き返してしまった。
「だってよ、お前さんらはデキてるんじゃねえのか?」
「「なっ!?」」
「違うのか? だってよ、入ってくる時だって仲良さそうだったし、互いに気を使い合ってるし、恋人みたいじゃねえか。あ、もしかしてデリケートな問題か?」
思わず告げられた内容に二人して驚く。ティアは顔を赤くし、ヨウは少し困惑しながらも、恋人であるという誤解を解いた方がいい常識と説かない方がいい恋心でせめぎ合っていた。
次の瞬間、周囲の客から二人を微笑ましく思う様な笑い声が飛んでくる。
『いいぞいいぞ! もっとやっちまえ!』
『赤面顔かわいぃー!』
『彼女さんちゃんと見てあげろよー!』
「うぅ……恥ずかしぃよ……」
「どうすればいい……取り消した方が……? いやでもそれはそれで……」
「はっは! このカオスどうすんだ?」
揶揄われているようだ。しかし、声色から察するに祝福、それに近い感じだろう。その証拠に主人も容易には止めようとしない。むしろ嬉しそうに笑っているところを見ると、これがこの宿のテンションなのだ。いや、時間帯も時間帯なので、単純に酔っているだけかもしれないが。
主人は両手を空中に這わせ、周囲の客に落ち着く様に促す。先ほどまで騒いでいた客が最後に一言ずつ言葉を残し、それぞれの食事に戻っていった。
「さてと……悪かったな。うちの客はノリのいい奴ばかりなんだ。気を悪くしたなら謝る」
「いえ……でも、少し恥ずかしかったです。後、俺たちは恋人ではありません。あまり揶揄わないでください。でないと……」
「でないと?」
『こうなります』。そういい、ヨウは自分の横を指し示す。
「でも……うれしいというか……まだはやいというか……でもようくんがそのきならわたしはいつでも……」
「何この生物」
「こうさせたくないなら揶揄うのはやめておいた方が吉です」
「肝に銘じる」
この手の話にティアは弱い。それこそ異常なほど耐性が無いのだ。可愛いとは思うが、いつもこの反応だと少し困ってしまう。
ヨウはティアへ近づき、その頬を連続的に弱い力でぺちぺちと叩く。数秒してティアは正気を取り戻した。
「うぅ……もう少し慣れた方がいいのかなぁ」
「まぁどっちでもいいとは思うが……別にそのままでもいいんじゃないか」
「ヨウ君がそういうならそうするよ……」
二人は主人の方へ向き直った。
「いやぁ、嬢ちゃんの方も悪かったな。ついいつもの癖でよ」
「いつもの癖で揶揄うのは傍迷惑もいいところですけどね」
思わずティアが突っ込むと、主人は『そんなこと言うなって』と笑った。だが、ティアも不思議と悪い感じではない。主人はそういう、人を不快にさせない雰囲気も持っているのだろう。ある意味宿を経営するのに向いている性格だ。
時間がだいぶたってしまったし、手続きを済ませ、そろそろそのまま食事や入浴と洒落込みたいところだが……
「さてと──────一人部屋二つ、食事と入浴もセットで合計金貨七枚と銀貨八枚だ。一泊でいいんだよな?」
「はい」
言われた金額に対し、予め硬貨を出していたヨウはそれを主人へ渡す。何日いるかもわからないのでとりあえず今日だけだ。気に入って、此処がいいと思ったらここにすればいいだろう。
主人は枚数を数え、揃っていることを確認した。
「まいど! お客人二人、名前は?」
主人はカウンターから紙を持ってくると二人にそう尋ねてきた。どうやら今宿に泊まっている人間を表にしているらしい。
「ソラシロ・ヨウと、ユースティア・ローゼンヴァイスです」
ヨウがティアの分も答える。ティアのフルネームを言うのは久しぶりだが、改めて考えると長い。日本人の名前とは大違いである。
主人は小声で二人の名前を復唱しながら紙に書き込んでいく。
「────ヴァイス、と。兄ちゃん、ヨウって呼ばせてもらうぜ? アンタ、コトナの出身か?」
「そうですね。コトナの出身です」
「へぇ。ってことは、もしかしてアンタレイラインの紹介か?」
質問に対し答えれば、此処でも築波の名前が出てきた。泊まっていたらしいので、しっかり主人も覚えているのだろう。もしかしたらさっきまで揶揄ってきていた客の中にも、築波が連れてきた人がいるかもしれない。
「はいそうです。やっぱりあの人有名なんですかね?」
「まぁそうだな。SSランクの『銃真万来』。あいつが宿に来てから常連が増えて来てるんだよ。ありがたいこった」
一種のアイドルの様な物だろうか、築波・レイラインには経済効果もあるらしい。
主人は「っと、話が逸れたな」と曲がった釘を直す様に話題を戻す。
「一応言っておくぜ。俺の名前はアルフレッド・シャリアンスロープ。見ての通り半獣族で一応『半分型』。そして宿、妖精の止まり木の主人だ」
主人──────アルフレッドはそう言って笑みを浮かべた。
一瞬聞いたことのない単語が出てきた混乱しそうになるが、よく考えれば聞いたことがあった。獣人族と他の種族とのハーフで、獣人族の方の血が濃い人物を半獣族と呼ぶのだ。
そして半分型とは、平たく言えば人間体+ケモミミ・尻尾である。髪の色や耳の形などから見て《ヨウに耳の形で判別できるような能力は無いが、なんとなく》、犬の獣人だろう。もう片方の種族は分からない。
「さて、レイラインの紹介なら知っていると思うがここはコトナの文化を再現した宿だ。お前さんがコトナ出身ってんなら懐かしい体験に成るだろう。温泉に食事、存分に楽しんでいってくれ。さっ、案内しよう」
アルフレッドは返事を聞くこともなく二回へと続く階段の方へ歩き出す。二人はどちらともなく、それについて行った。
妖精族と獣人族のハーフ、半獣族で、宿『妖精の留まり木』の主人であるアルフレッド・シャリアンスロープはため息を付いた。宿の客から『風呂の方で騒ぎが!』と聞いてきてみれば、とんだ状況に遭ったものである。
ちなみに半獣族《デミ・セリアン》は獣人族と他の種族のハーフで、獣人の血が容姿に濃く出た人物を指すものだが、それには二つ種類がある。
例を出すとしよう。アルフレッドの場合だと、妖精族と獣人族のハーフだ。アルフレッドは顔や体の構造は人間だが、歯の鋭さや嗅覚、そして耳など、獣人的特徴が少し出ている。人間の容姿に耳などを付け加えた様な半獣族を『半分型』と言う。つまりアルフレッドは半分型で、犬の獣人だ。
体の形のみがもう一つの血の方《アルフレッドなら妖精族》で、顔の形や毛深さなどが獣人の場合、『完全型』という。アルフレッドが完全型の場合、身体は人間族と同じなので、人間の身体に獣人の顔と耳、尻尾と成る。
妖精族《フェアリー》とは主に森人族と友好関係にあり、森に棲んでいる種族だ。近年では町へ移住する妖精族も増えている。
基本的に人間と同じ体をしているが、長身があまり無かったり、透明の羽が生えていたり、風魔法系統の適性が強かったりする。羽の透明度については個人差ありだ。
「犬耳だ、ッオラァアァアアア!」
バオッ!
風呂場の中心、二人の少年がいる。片方は赤いバンダナが特徴の少年。もう片方は黒い髪に紅眼が特徴の、コトナ出身と思われる少年。
赤いバンダナの少年は腰の入った拳を赤目の少年へ放つ。拳とは考えられ無いと音が響き、紅眼の少年の体が宙を飛ぶ。そして湯舟へ落ちると水柱が立った。
あまりの本気具合に周りの客が若干引くが、しかしそれを止める事は無い。何故なら、
ガバッ!
「ふざけんな!」
今度は勢いよく水面から紅眼の少年が飛び出した。そして空中でグルンッ、身を捻ると、
「猫耳に、決まってんだろうがッ!」
次の瞬間にはバンダナの少年が吹き飛んでいる。そして地面をバウンドし、壁に当たる直前で体勢を治した。それと同時に少しの歓声が沸く。周りの客が止めないのは、こうした攻防が何度も行われているからである。若干血が出ているが、二人が動揺していなければ痛がる様子が無かったのも、止めてない要因の一つだろう。
どうやら周りの客は冒険者の様だ。何故なら、冒険者とは戦闘狂の集まりである。必ずとは言い切れないが、殺しを生業とする以上、それを愉しむ者も多いのだ。先ほどの本気には引くものの、喧嘩自体は見てて面白いのだろう。
バンダナの少年が口に付いた血を払うと、再び肉薄して連打を仕掛ける。
それに対して、紅眼の少年は全身を使い全てを避けていた。攻防が入れ替わり、今度は紅顔の少年の番。再び蹴りが炸裂するが、それに対しバンダナの少年は足を掴んだ。そしてその場に叩きつける。
「ほら! やっぱ犬耳の方がいいんだよ!」
バンダナの少年は倒れる紅眼の少年に蹴りを入れようとするが、ほぼ同時に紅顔の少年がバク転で回避する。そして近づき足払いを駆けると、そのまま遠方に蹴り飛ばした。
「猫耳こそ至高! 犬耳好きな奴はどうかしてる!」
嘲るように紅顔の少年が叫ぶ。空中で体勢を治したバンダナの少年が跳躍し、近くに着地すると顔面に拳を叩きこもうとした。だが、紅顔の少年が拳で対抗し、攻防が続く。最終的に二人は組み合う様な状況になった。
「猫耳のどこがいいんだ! 全然犬耳の方がいいじゃねえか!」
「お前こそ何言ってんだ! サラサラな毛並み! 撫でると垂れる耳! 何より可愛いじゃねえか!」
「可愛さならこっちの方が上だっつうの!」
「なわけあるかッ!」
──────それらすべてを見届け、アルフレッドは深くため息を付く。獣人の耳や尻尾は感情に応じて動くものだが、それを証明する様にヘタレていた。
だが、一瞬で気合を入れると大きく息を吸い、
「─────犬だろうが猫だろうが、耳なんてどれも同じだろうがッ!」
「「獣人族が言っちゃおしまいだ!!」」
~~~~~~~~~~~~~~~~~
『妖精の止まり木』。
セルビス東北方面に存在する宿である。パンを中心とする食文化のセルビスでは珍しく、『コトナ』出店の米と言う料理を扱っているのが特徴だ。更には珍しい『温泉』を扱っている店であり、主に観光客に好まれている。
なにやら主人は過去にコトナに旅行に行き、大層文化に感動したらしい。そのため宿にもコトナの文化を反映させたそうだ。
コトナはこの世界のどこ文化と似ても似つかない。その為妖精の止まり木を好む者は限定される。だが、好きなものにとっては利用しやすく、また限定的な客を引き寄せるため料金が安いことも相まって、隠れ宿的な面を持つ。
好む者とはヨウたちのような転生者、そしてコトナ人、若しくは物好きである。築波は前にここを利用していたらしく《今は家を借りているらしい》、其処をヨウに紹介したと言う事だ。予め話は通していないが満員になることは滅多に無いため、夜に向かっても大丈夫だという。多少埋まっていても『築波・レイラインの紹介』と言えば融通が利くらしい。築波様々である。
ティアにも一応そこでいいか聞いたのだが、『ヨウ君が好きならそこでいいんじゃないかな? それに、コトナは言ったことが無いから文化には興味があるし』だ、そうで。積極的ではなかったが嫌がる様子もないので、今回は厚意に甘えさせてもらった。
別にコトナ─────地球に似た文化に執着がある訳ではないが、それでも『心残り』の様な物があるのは確かだった。
ガランッ
二人はドアを開けて宿へ入る。
一回は食堂に成っているようで、数人が食事をしている。見えている限りでは和食《のような何か》を食べているようで、白い米や焼き魚などが目に映った。
《魚……刺身とかあるんだろうか》
脳裏に浮かぶのはマグロやタイ、サーモンなどの刺身。ヨウはその手の生魚が好きだった。この世界では冷蔵の技術などが発達して無いだろうし、刺身は無いかもしれない。魔法があるのだから実現不可能ではないだろうが。
第一、地球では元々日本ぐらいでしか生魚を食べる文化は無かった。そう考えると異世界で生魚が食べられなくてもしょうがないのかもしれない。ヨウよりも先に転生している地球人などが、何かしら工夫をしてそうではあるのだが。
《……ん?》
そうして考えていると、ふと違和感に気づいた。横で物珍しそうに宿内を見渡しているティアに対し、周りの男性客がチラチラと様子を窺っているのだ。いったいなんだと訝しむが、直ぐに原因は思いついた。
所謂、『入った来た客が美少女だったので周りの客が思わず見てしまっている』のだろう。
異世界系の話でよくある『テンプレ』と言うやつである。ティアはその容姿から注目を集めやすく、それに加え実力まであると来た。今背負っている剣は無骨ではあるが、前の不変性を持つ神製道具の時はもっと注目を集めていただろう。
ちなみに、ティアは現在剣を腰に差していない。前の神製道具は剣と言うよりかは刀に近い形状であったため腰に差していたようだが、フィリアの剣はなんの変哲もない普通の剣だからだ。
一応ティアの視界を遮る様に前に出ておく。カッコつけたくなる性分なのだから、仕方がない。そして厨房が奥にあるカウンターまで行くと、料理をしていたのだろうか。掛けてある布で手を拭きながら男が一人姿を現した。
「いらっしゃい! ようこそ『妖精の止まり木』へ」
三十過ぎぐらいの男性だ。茶色の髪と瞳、ガタイはよく身長は190㎝はあるだろうか。それだけ見れば普通に強そうな男だが、明らかに異質な部分がある。それは、髪色と同じ耳と尻尾が生えており、それがピクピク動いている点だ。よく見れば頭の側面に耳が無い。
───────獣人族
その種族はかつて獣と交わった人間が元だという。獣の様な身体能力と容姿を持ち、人間族の中でも一番多種多様な種類が存在することで有名だ。
人類同盟で見たことはあったが、こうして会話するのは初めてだ。
「今日は宿泊かい? それとも食事だけかい?」
「えーと、宿泊です。食事も込みで、後温泉も」
「はいよ。一部屋金貨三枚、二人だと金貨六枚。それに風呂と食事で金貨一枚と銀貨八枚だ」
日本円にして────と、考えるが、それは辞めた。築波から言われているのだ。『この世界の通貨は確かに日本と似ているけど、必ずしも同じではないからね』と。つまり、日本と同じ感覚では少しずれていると言う事だ。
ちなみに、それでも金貨三枚と言うのは安い。この世界は冒険者と言う日雇いの仕事をする者が多い。つまり、拠点を持たない者が多いため自然と宿の需要が高くなるのだ。大概の宿は冒険者が一日で稼ぐ金額の半分ほどで泊まれるという。それを考えればこの宿は温泉があったりコトナの文化を取り入れていたりで、割高には成っている。
ヨウは魔力を手に通し、万物収納異空間展開鞄を展開させる。そして某青いネコ型ロボット並みにガサゴソ中を漁り、要求された枚数を取り出す。便利ではあるのだが、些か中が汚い。後で掃除する必要があるだろう。
魔力を流すのをヨウが辞めれば、黒く染まった白雪を見る様な表情で『へぇ、面白いな』と呟いた。
「珍しいな。神製道具か。便利そうでいいな」
「確かに便利ではあるんですけど、逆に物を持たなくていいっていうのは少し戸惑います」
常識の一つが無くなるようなものだ。例えば下校中のバッグを持たなくていい、例えば買い物へ財布を持っていく必要が無い、例えば旅行へ行く時何も持たなくていい。当たり前と認識していただけに、万物収納異空間展開鞄を使っていると荷物をどこかに忘れた誤解をしたりする。
もっとも、便利であることは変わりないため使うのを辞める事は無い。
「これでお願いします。一人部屋二つで。当然それでいいよな?」
「うん、大丈夫だよ」
一応、ティアへ伺う。別に二人部屋を取りたかったとかそういう事は無い。男女である以上、恋人でもない限り別々の部屋なのは当然だ。だが、聞かなかったら後々何か言われるかもしれないので、一応聞いたのということである。
「おいおい、一人部屋でいいのかお二人さん?」
「いいのか……とは?」
「え? 別に何も問題ないですけど」
どうやら主人は気さくな人物らしい。ヨウの言葉にすぐさま反応したところを見ると、そういう系の接客も慣れているのが窺える。ちなみにさっきから敬語では無いのは毎度の如く『この世界ならでは』だろう。説明はもはや要るまい。
だが、質問の意図が分からない。ヨウとティアは二人して聞き返してしまった。
「だってよ、お前さんらはデキてるんじゃねえのか?」
「「なっ!?」」
「違うのか? だってよ、入ってくる時だって仲良さそうだったし、互いに気を使い合ってるし、恋人みたいじゃねえか。あ、もしかしてデリケートな問題か?」
思わず告げられた内容に二人して驚く。ティアは顔を赤くし、ヨウは少し困惑しながらも、恋人であるという誤解を解いた方がいい常識と説かない方がいい恋心でせめぎ合っていた。
次の瞬間、周囲の客から二人を微笑ましく思う様な笑い声が飛んでくる。
『いいぞいいぞ! もっとやっちまえ!』
『赤面顔かわいぃー!』
『彼女さんちゃんと見てあげろよー!』
「うぅ……恥ずかしぃよ……」
「どうすればいい……取り消した方が……? いやでもそれはそれで……」
「はっは! このカオスどうすんだ?」
揶揄われているようだ。しかし、声色から察するに祝福、それに近い感じだろう。その証拠に主人も容易には止めようとしない。むしろ嬉しそうに笑っているところを見ると、これがこの宿のテンションなのだ。いや、時間帯も時間帯なので、単純に酔っているだけかもしれないが。
主人は両手を空中に這わせ、周囲の客に落ち着く様に促す。先ほどまで騒いでいた客が最後に一言ずつ言葉を残し、それぞれの食事に戻っていった。
「さてと……悪かったな。うちの客はノリのいい奴ばかりなんだ。気を悪くしたなら謝る」
「いえ……でも、少し恥ずかしかったです。後、俺たちは恋人ではありません。あまり揶揄わないでください。でないと……」
「でないと?」
『こうなります』。そういい、ヨウは自分の横を指し示す。
「でも……うれしいというか……まだはやいというか……でもようくんがそのきならわたしはいつでも……」
「何この生物」
「こうさせたくないなら揶揄うのはやめておいた方が吉です」
「肝に銘じる」
この手の話にティアは弱い。それこそ異常なほど耐性が無いのだ。可愛いとは思うが、いつもこの反応だと少し困ってしまう。
ヨウはティアへ近づき、その頬を連続的に弱い力でぺちぺちと叩く。数秒してティアは正気を取り戻した。
「うぅ……もう少し慣れた方がいいのかなぁ」
「まぁどっちでもいいとは思うが……別にそのままでもいいんじゃないか」
「ヨウ君がそういうならそうするよ……」
二人は主人の方へ向き直った。
「いやぁ、嬢ちゃんの方も悪かったな。ついいつもの癖でよ」
「いつもの癖で揶揄うのは傍迷惑もいいところですけどね」
思わずティアが突っ込むと、主人は『そんなこと言うなって』と笑った。だが、ティアも不思議と悪い感じではない。主人はそういう、人を不快にさせない雰囲気も持っているのだろう。ある意味宿を経営するのに向いている性格だ。
時間がだいぶたってしまったし、手続きを済ませ、そろそろそのまま食事や入浴と洒落込みたいところだが……
「さてと──────一人部屋二つ、食事と入浴もセットで合計金貨七枚と銀貨八枚だ。一泊でいいんだよな?」
「はい」
言われた金額に対し、予め硬貨を出していたヨウはそれを主人へ渡す。何日いるかもわからないのでとりあえず今日だけだ。気に入って、此処がいいと思ったらここにすればいいだろう。
主人は枚数を数え、揃っていることを確認した。
「まいど! お客人二人、名前は?」
主人はカウンターから紙を持ってくると二人にそう尋ねてきた。どうやら今宿に泊まっている人間を表にしているらしい。
「ソラシロ・ヨウと、ユースティア・ローゼンヴァイスです」
ヨウがティアの分も答える。ティアのフルネームを言うのは久しぶりだが、改めて考えると長い。日本人の名前とは大違いである。
主人は小声で二人の名前を復唱しながら紙に書き込んでいく。
「────ヴァイス、と。兄ちゃん、ヨウって呼ばせてもらうぜ? アンタ、コトナの出身か?」
「そうですね。コトナの出身です」
「へぇ。ってことは、もしかしてアンタレイラインの紹介か?」
質問に対し答えれば、此処でも築波の名前が出てきた。泊まっていたらしいので、しっかり主人も覚えているのだろう。もしかしたらさっきまで揶揄ってきていた客の中にも、築波が連れてきた人がいるかもしれない。
「はいそうです。やっぱりあの人有名なんですかね?」
「まぁそうだな。SSランクの『銃真万来』。あいつが宿に来てから常連が増えて来てるんだよ。ありがたいこった」
一種のアイドルの様な物だろうか、築波・レイラインには経済効果もあるらしい。
主人は「っと、話が逸れたな」と曲がった釘を直す様に話題を戻す。
「一応言っておくぜ。俺の名前はアルフレッド・シャリアンスロープ。見ての通り半獣族で一応『半分型』。そして宿、妖精の止まり木の主人だ」
主人──────アルフレッドはそう言って笑みを浮かべた。
一瞬聞いたことのない単語が出てきた混乱しそうになるが、よく考えれば聞いたことがあった。獣人族と他の種族とのハーフで、獣人族の方の血が濃い人物を半獣族と呼ぶのだ。
そして半分型とは、平たく言えば人間体+ケモミミ・尻尾である。髪の色や耳の形などから見て《ヨウに耳の形で判別できるような能力は無いが、なんとなく》、犬の獣人だろう。もう片方の種族は分からない。
「さて、レイラインの紹介なら知っていると思うがここはコトナの文化を再現した宿だ。お前さんがコトナ出身ってんなら懐かしい体験に成るだろう。温泉に食事、存分に楽しんでいってくれ。さっ、案内しよう」
アルフレッドは返事を聞くこともなく二回へと続く階段の方へ歩き出す。二人はどちらともなく、それについて行った。
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