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2章 第二の試練 食事制限と無限地獄
7 ◯◯生活
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とある日の食事中。
「むむぅ……」
ジェラールは不機嫌そうな表情を浮かべ、食事の手を止めた。
それは今日も容赦なくジェラールの歯や顎や頭蓋骨を刺激してやまない、もやしの食感にとうとう嫌気がさしたからだ。
あとーー味にも。
調味料をどれほど変えて調理しても奴の食感と味は確かにそこにあって、どこまでもどこまでも彼を辟易させるのだ。
数日前はあれほど心強い味方を得たような気分でいたのに、今となってはただの憎き宿敵のような関係性である。
「消えてなくなれ……もやしなんて……」
そんな事を口にしだしたジェラールの精神状態は言うまでもなく崩壊寸前の危機的状況であり、彼を取り巻く周囲の人間もおいそれと声を掛けるのはどうにも憚られてしまうのだった。
ようするに先日、サラダに対し強い怒りを抱えていた時とほとんど同じ状態であり、結局振り出しに戻ったようなものだと言える。
ジェラールがもやしに対して宣戦布告していると、ワインを注ぎ足しにやってきたメイドのアンナに声をかけた。
「アンナ! 少しいいか?」
「ーーあ、はい! 何でしょう? 旦那様」
「実はな……どうやら、もやしの奴が私を裏切ったようでーー」
「そうですか……。あっ! じゃあ……お豆腐なんていかがでしょう?」
「豆腐……?」
「はい。お豆腐です。お豆腐は低カロリーで食べ応えがありますし、それに冷たく冷やしてもよし。温めてもよし。様々な食べ方が出来るんです!」
「おぉっ! なるほどっ! 冷たいものばかりじゃなく、温かいものばかりでもない。気分によって交互に切り替えたり、むしろ同時に食べるというのもありだなっ!」
「ですねっ!」
「ありがとう、助かったぞ! アンナ!」
「はい!」
「ふふふっ、豆腐。これで私は勝ったも同然だ」
ジェラールは食事を終え、急ぎキッチンへと向かい料理長ランドに慣れた様子で指示を出す。
「ーー頼んだぞっ!」
「はい」
こうしてジェラールのお豆腐生活は始まった。
数日後、
「くそう……豆腐の奴め……私の歯を拒む事なく受け入れおって……。まさしく何の歯応えもないではないかっ! これではもやしの方が良かったわ!」
一向に減らない体重に業を煮やしたジェラールはそんな事を口にする。
「ーーアンナ!」
「ーー王都では今、朝バナナがダイエットに良いと……」
「ランドー!」
数日後、
「くっそう……バナナの奴め! おやつ感覚で食べられて良いかと思いきや、甘いばかりで全く食事をした気にならんっ! これでは豆腐の方がまだ良かったわ! アンナー!」
「ーー王都では納豆がダイエットに最適だと……」
「ランドォォォー!」
数日後、
「くっそう……納豆の奴め! ネバネバネバネバ糸ばかり引きおって、一向にネバーランドに行けないではないか!(?)不老不死の話は全て嘘だったのか⁉︎ アンナァァァ!」
「ーー王都では今、アカモクという海藻がダイエットに効果的と……」
「ネバーランドォォォー!」
数日後、
「くっそう……アカモクの奴め! 名前のわりに全然赤くないではないか! アンナァァァ!」
「ーー王都ではパンやお米の代わりにお肉を食べる低糖質ーー」
「にっ、肉っ⁉︎ 肉なのかっ⁉︎ 肉を食べていいのかっ⁉︎ 肉は肉にはならんのかっ⁉︎ いや、肉を食べて良いと言うのなら私はむしろ喜んで食べるがなっ! 本当なんだな⁉︎ アンナ!」
「はっ、はい……効果的らしいです……」
「ーールァァァンドォォォ!」
その日の夜、
「ーー美味いっ! 美味い、美味い、美味いっ! やはり食事には肉がつきものだなっ! はっははは!」
「ーーお父様。お野菜もしっかりと食べて下さいね?」
「はっはははは! 野菜なら今まで食べた分がまだここに残っているからな!」
ジェラールは満足そうに自身のお腹を指差して笑う。
「いやー! 良い! 良いよ! これは良い! お肉をたくさん食べるだけでいいのなら簡単だ! パンなどいらん! 野菜などいらん! お肉さえあればーー」
こうして、ジェラールのお肉生活は始まった。
数日後、
「むむむぅ……」
ジェラールは体重計の上に座り込んでその針が指し示す数字を凝視する。
「82kg……一応、痩せたと言えば痩せたがこれ以上は減る気がしないな……」
ジェラールはまたしても行き詰まっていた。
大好きなお肉をお腹いっぱい食べられるのは良い。
そして、それで体重も落ちてはいる。
が、
その先がない。
まるで見えない壁にでも阻まれているように、体重が一向に減らないのだ。
がしかし、
パンやライスを食べればしっかりと体重は増えてしまう。
先には進めず、戻る事しか出来ない。
これではまさに、袋小路に迷い込んでしまったようなものだ。
「…………」
それとも少し考え方を変えて、今いる地点がダイエットの最終地点ーーすなわちゴールという事になるのだろうか?
ゴールに着いたからこそ停滞している、的な。
そう考えれば今現在、体重が減らないのも納得出来なくはないが、がしかし……。
自分としてはもっと体重を減らしたい。
それこそ一旦、病人のように身を窶したいとさえ思う。
細く痩せ衰えた後で好きなだけ料理に手を伸ばし、ちょうど良いくらいの体重をキープ出来れば最高なのだが……。
と、ジェラールは今日も思考の迷宮に迷い込む一方であった。
「むむぅ……」
ジェラールは不機嫌そうな表情を浮かべ、食事の手を止めた。
それは今日も容赦なくジェラールの歯や顎や頭蓋骨を刺激してやまない、もやしの食感にとうとう嫌気がさしたからだ。
あとーー味にも。
調味料をどれほど変えて調理しても奴の食感と味は確かにそこにあって、どこまでもどこまでも彼を辟易させるのだ。
数日前はあれほど心強い味方を得たような気分でいたのに、今となってはただの憎き宿敵のような関係性である。
「消えてなくなれ……もやしなんて……」
そんな事を口にしだしたジェラールの精神状態は言うまでもなく崩壊寸前の危機的状況であり、彼を取り巻く周囲の人間もおいそれと声を掛けるのはどうにも憚られてしまうのだった。
ようするに先日、サラダに対し強い怒りを抱えていた時とほとんど同じ状態であり、結局振り出しに戻ったようなものだと言える。
ジェラールがもやしに対して宣戦布告していると、ワインを注ぎ足しにやってきたメイドのアンナに声をかけた。
「アンナ! 少しいいか?」
「ーーあ、はい! 何でしょう? 旦那様」
「実はな……どうやら、もやしの奴が私を裏切ったようでーー」
「そうですか……。あっ! じゃあ……お豆腐なんていかがでしょう?」
「豆腐……?」
「はい。お豆腐です。お豆腐は低カロリーで食べ応えがありますし、それに冷たく冷やしてもよし。温めてもよし。様々な食べ方が出来るんです!」
「おぉっ! なるほどっ! 冷たいものばかりじゃなく、温かいものばかりでもない。気分によって交互に切り替えたり、むしろ同時に食べるというのもありだなっ!」
「ですねっ!」
「ありがとう、助かったぞ! アンナ!」
「はい!」
「ふふふっ、豆腐。これで私は勝ったも同然だ」
ジェラールは食事を終え、急ぎキッチンへと向かい料理長ランドに慣れた様子で指示を出す。
「ーー頼んだぞっ!」
「はい」
こうしてジェラールのお豆腐生活は始まった。
数日後、
「くそう……豆腐の奴め……私の歯を拒む事なく受け入れおって……。まさしく何の歯応えもないではないかっ! これではもやしの方が良かったわ!」
一向に減らない体重に業を煮やしたジェラールはそんな事を口にする。
「ーーアンナ!」
「ーー王都では今、朝バナナがダイエットに良いと……」
「ランドー!」
数日後、
「くっそう……バナナの奴め! おやつ感覚で食べられて良いかと思いきや、甘いばかりで全く食事をした気にならんっ! これでは豆腐の方がまだ良かったわ! アンナー!」
「ーー王都では納豆がダイエットに最適だと……」
「ランドォォォー!」
数日後、
「くっそう……納豆の奴め! ネバネバネバネバ糸ばかり引きおって、一向にネバーランドに行けないではないか!(?)不老不死の話は全て嘘だったのか⁉︎ アンナァァァ!」
「ーー王都では今、アカモクという海藻がダイエットに効果的と……」
「ネバーランドォォォー!」
数日後、
「くっそう……アカモクの奴め! 名前のわりに全然赤くないではないか! アンナァァァ!」
「ーー王都ではパンやお米の代わりにお肉を食べる低糖質ーー」
「にっ、肉っ⁉︎ 肉なのかっ⁉︎ 肉を食べていいのかっ⁉︎ 肉は肉にはならんのかっ⁉︎ いや、肉を食べて良いと言うのなら私はむしろ喜んで食べるがなっ! 本当なんだな⁉︎ アンナ!」
「はっ、はい……効果的らしいです……」
「ーールァァァンドォォォ!」
その日の夜、
「ーー美味いっ! 美味い、美味い、美味いっ! やはり食事には肉がつきものだなっ! はっははは!」
「ーーお父様。お野菜もしっかりと食べて下さいね?」
「はっはははは! 野菜なら今まで食べた分がまだここに残っているからな!」
ジェラールは満足そうに自身のお腹を指差して笑う。
「いやー! 良い! 良いよ! これは良い! お肉をたくさん食べるだけでいいのなら簡単だ! パンなどいらん! 野菜などいらん! お肉さえあればーー」
こうして、ジェラールのお肉生活は始まった。
数日後、
「むむむぅ……」
ジェラールは体重計の上に座り込んでその針が指し示す数字を凝視する。
「82kg……一応、痩せたと言えば痩せたがこれ以上は減る気がしないな……」
ジェラールはまたしても行き詰まっていた。
大好きなお肉をお腹いっぱい食べられるのは良い。
そして、それで体重も落ちてはいる。
が、
その先がない。
まるで見えない壁にでも阻まれているように、体重が一向に減らないのだ。
がしかし、
パンやライスを食べればしっかりと体重は増えてしまう。
先には進めず、戻る事しか出来ない。
これではまさに、袋小路に迷い込んでしまったようなものだ。
「…………」
それとも少し考え方を変えて、今いる地点がダイエットの最終地点ーーすなわちゴールという事になるのだろうか?
ゴールに着いたからこそ停滞している、的な。
そう考えれば今現在、体重が減らないのも納得出来なくはないが、がしかし……。
自分としてはもっと体重を減らしたい。
それこそ一旦、病人のように身を窶したいとさえ思う。
細く痩せ衰えた後で好きなだけ料理に手を伸ばし、ちょうど良いくらいの体重をキープ出来れば最高なのだが……。
と、ジェラールは今日も思考の迷宮に迷い込む一方であった。
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