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1章 猫アレルギーの父さん
柴丸
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「ウォフ!」
裏口へと通じるドアの前に立ったところで中からお声が掛かった。
入れ、という事なのだろうか?
僕はドアノブをひねり中へと入った。
「ウォフ!」
僕らを出迎えてくれた裏口の主人、柴丸は尻尾をゆっくりと大きく揺らしこちらを見つめていた。
鳴き声からしても珍しく高揚しているようで、今は鼻先をまっすぐとこちらに向け鼻息荒く熱心に匂いを嗅いでいる。
僕は柴丸のもとへと歩み寄り頭を撫でてやる。
柴丸は喜ぶ素振りを見せつつも、しきりに竹籠の中を気にしているようだ。
あまり焦らしても可哀想なので慎重に竹籠を柴丸の前へと差し出す。
柴丸は三角の耳をピンと立て、身体の動きを止めてから全神経を鼻先へと集中しているようだ。
竹籠の中に差し込まれた柴丸の鼻先がひくひくとしきりに動いている。
ちらり、竹籠の中を覗くと仔猫はお腹を見せて固まってしまっている。
自分の身体くらいの大きさの黒い鼻先が突然天から降ってくれば、誰であれ驚いたって仕方がない。
しん、とした時間がしばらくの間流れた。
やがて、
『ウォフ』と、小さく鳴いて柴丸はその場に座り込んだ。
お行儀良く座った柴丸の耳は今は寝そべり、舌を出して荒い呼吸を繰り返している。
いつもの柴丸おじいちゃんだ。
どうやら仔猫は無事に柴丸に気に入られ、同居の許可を貰うことが出来たようである。
これからもっと仲良くなれるといいのだが。
「みゃあ、みゃあ、みゃあ」
目の前の黒い鼻先がなくなり安心したのか仔猫は小さく鳴き始めた。
僕は指先で仔猫の頭を撫でる。
「よかったね、柴丸もお前のことを気に入ってくれたみたいだよ」
「みゃあ、みゃあ、みゃあ」
仔猫はお礼を言っているのか何度もそんな風に鳴いた。
「柴丸もありがとう、今日から小さな妹をよろしくね」
言いながら頭を撫でてやると柴丸はふんっと、大きな鼻息をひとつ漏らしてから、お気に入りのいつものクッションの上でくつろぎ始めた。
こうして仔猫と柴丸の初対面は無事に終わりを迎えたのである。
僕は一旦自室に戻り仔猫を部屋においてから、居間へと戻った。
居間に行くと海未がパジャマ姿で母さんと話し込んでいた。
「あ! お兄ちゃん! あの子飼っていいって言われたんでしょっ⁉︎」
「ああ、うん」
「あれ? あの子は? どこ行ったの?」
海未は僕の全身を眺めながら仔猫の姿を探している。
「僕の部屋。ここに連れてくる訳にはいかないから」
「なーんでよー! 連れて来たっていいじゃーん! 猫ちゃん可哀想ー!」
猫アレルギーの父さんの事は頭から抜け落ちてしまっているのか、海未は大声でそんな事を口にする。
というか、何の配慮もしてもらえない父さんの方がよほど可哀想である。
「海未、父さんはアレルギー持ちだから、ね……」
母さんがまるで小さな子供に諭すように言って聞かせる。
すると、ようやく父さんのアレルギーの事を思い出したらしく、海未は『ああ……』と呟いて僕の事を見つめる。
「兄ちゃんの部屋にいるのね? あの子」
「うん、会ってくる?」
「お邪魔します!」
そう口にして海未は僕の部屋へと向かってずんずん進んでいく。
そんな海未の足音を聞きながら母さんが口を開く。
「ーーーーそうだ。芝ちゃんはどうだった? やきもち妬いてなかった?」
「うん。熱心に匂いを嗅いで、それからたぶん挨拶を交わして、今は寝てるよ」
「ふふふっ、そう、良かった」
母さんは安心したように笑う。
裏口へと通じるドアの前に立ったところで中からお声が掛かった。
入れ、という事なのだろうか?
僕はドアノブをひねり中へと入った。
「ウォフ!」
僕らを出迎えてくれた裏口の主人、柴丸は尻尾をゆっくりと大きく揺らしこちらを見つめていた。
鳴き声からしても珍しく高揚しているようで、今は鼻先をまっすぐとこちらに向け鼻息荒く熱心に匂いを嗅いでいる。
僕は柴丸のもとへと歩み寄り頭を撫でてやる。
柴丸は喜ぶ素振りを見せつつも、しきりに竹籠の中を気にしているようだ。
あまり焦らしても可哀想なので慎重に竹籠を柴丸の前へと差し出す。
柴丸は三角の耳をピンと立て、身体の動きを止めてから全神経を鼻先へと集中しているようだ。
竹籠の中に差し込まれた柴丸の鼻先がひくひくとしきりに動いている。
ちらり、竹籠の中を覗くと仔猫はお腹を見せて固まってしまっている。
自分の身体くらいの大きさの黒い鼻先が突然天から降ってくれば、誰であれ驚いたって仕方がない。
しん、とした時間がしばらくの間流れた。
やがて、
『ウォフ』と、小さく鳴いて柴丸はその場に座り込んだ。
お行儀良く座った柴丸の耳は今は寝そべり、舌を出して荒い呼吸を繰り返している。
いつもの柴丸おじいちゃんだ。
どうやら仔猫は無事に柴丸に気に入られ、同居の許可を貰うことが出来たようである。
これからもっと仲良くなれるといいのだが。
「みゃあ、みゃあ、みゃあ」
目の前の黒い鼻先がなくなり安心したのか仔猫は小さく鳴き始めた。
僕は指先で仔猫の頭を撫でる。
「よかったね、柴丸もお前のことを気に入ってくれたみたいだよ」
「みゃあ、みゃあ、みゃあ」
仔猫はお礼を言っているのか何度もそんな風に鳴いた。
「柴丸もありがとう、今日から小さな妹をよろしくね」
言いながら頭を撫でてやると柴丸はふんっと、大きな鼻息をひとつ漏らしてから、お気に入りのいつものクッションの上でくつろぎ始めた。
こうして仔猫と柴丸の初対面は無事に終わりを迎えたのである。
僕は一旦自室に戻り仔猫を部屋においてから、居間へと戻った。
居間に行くと海未がパジャマ姿で母さんと話し込んでいた。
「あ! お兄ちゃん! あの子飼っていいって言われたんでしょっ⁉︎」
「ああ、うん」
「あれ? あの子は? どこ行ったの?」
海未は僕の全身を眺めながら仔猫の姿を探している。
「僕の部屋。ここに連れてくる訳にはいかないから」
「なーんでよー! 連れて来たっていいじゃーん! 猫ちゃん可哀想ー!」
猫アレルギーの父さんの事は頭から抜け落ちてしまっているのか、海未は大声でそんな事を口にする。
というか、何の配慮もしてもらえない父さんの方がよほど可哀想である。
「海未、父さんはアレルギー持ちだから、ね……」
母さんがまるで小さな子供に諭すように言って聞かせる。
すると、ようやく父さんのアレルギーの事を思い出したらしく、海未は『ああ……』と呟いて僕の事を見つめる。
「兄ちゃんの部屋にいるのね? あの子」
「うん、会ってくる?」
「お邪魔します!」
そう口にして海未は僕の部屋へと向かってずんずん進んでいく。
そんな海未の足音を聞きながら母さんが口を開く。
「ーーーーそうだ。芝ちゃんはどうだった? やきもち妬いてなかった?」
「うん。熱心に匂いを嗅いで、それからたぶん挨拶を交わして、今は寝てるよ」
「ふふふっ、そう、良かった」
母さんは安心したように笑う。
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