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1章 猫アレルギーの父さん
土曜の朝
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あれから3日が過ぎた。
天候が思うように回復せず空が晴れるのを待っていたら3日も過ぎてしまった。
そして、土曜日の今日ようやく空が晴れわたった。
当初は天候が回復するまでの間、仔猫を家で保護しようという考えであったから、空が晴れた今日かぎりで仔猫とはお別れということになるはずだ。
保護施設につれていくのか、あるいは他の方法か、僕としてはまだ決めるに至っていないのだけど。
そして、共に過ごした3日間で少なからず情も移ってしまっている。
僕の心に芽生えた感情が正しい判断を鈍らせる。
僕は自室の窓から空を見上げ物思いに耽る。
しばらくの間そうしていて、僕はついに決心する。
僕は決意を胸に自室から出て居間へと向かう。
居間に到着すると父さんと母さんはテレビを見ながらお茶を飲んでいた。
僕は父さんの側に座って口を開いた。
「父さん、話があるんだ」
「話? 何だ、どうした?」
僕は決心が揺らぐ前にと早々に本題を切り出した。
「猫を飼いたいんだ」
「猫?」
一瞬、きょとんとした様子で父さんが首を傾げる。
「まだ小さな仔猫なんだけど……」
「ああ、お前が連れて来たっていう子か。母さんから話は聞いてる」
「父さんが猫アレルギーだっていうのはもちろん分かってるから、無理なのも分かってる。でも……」
父さんは僕の話を聞きながら静かにお茶を啜る。
「でも?」
「でも、それでも、飼いたいと思ってる。ごめん、無茶苦茶な事を言って……」
無茶なことを言ってるのは分かっている。
無駄だってことも分かっている。
けれど、どうしても、僕はあの仔猫を見捨てるような事は言えなかった。
どうにもやりきれない気持ちで僕が俯いていると、父さんがゆっくりと口を開いた。
「ああ、父さんは構わんよ。飼いたいのなら飼えばいい」
「えっ⁉︎」
僕は驚きと同時に耳を疑った。
父さんは今、何と言ったんだ?
飼いたいのなら飼えばいい、と聞こえたが……。
「はっはは、何をそんなに驚いているんだ。まさか父さんが反対するとでも?」
「でも、アレルギーは……?」
「うん、それに関しては何とも言えんが、まあ距離をとるなりして上手くやるさ」
「いい……の? 本当に大丈夫なの?」
「ああ、お前のことだから世話はしっかりとやるだろうし、それにーーーー」
「それに?」
「ああ、いや、何でもない。まあとにかく父さんの事は気にするな。それよりも猫を飼うなら、おじいちゃんにも確認しとかないとな」
「おじいちゃん?」
僕の頭に大きなクエスチョンマークが浮かんだ。
おじいちゃんは県外に住んでいて1年に数回会う程度なのだが、なぜここでおじいちゃんが出てくるのだろう?
そう思ったけれど、その疑問はすぐに答えへと辿り着いた。
「ああ、柴丸だね」
「ふふふっ、あの子もこの3日間ずっと落ち着かない様子だったから、気になって気になって仕方がないんじゃない?」
母さんは微笑みながら裏口の方を見て、そう口にした。
「はっはは、年甲斐もなく息を切らせていたな、芝のやつ。さてとーーーーじゃあ父さんはちょっと出かけてくる」
父さんはお茶を一気に飲み干すとその場に立ち上がり居間を後にした。
「ふふふっ、あんたにいい事教えてあげようか?」
悪戯っぽく母さんは笑う。
「いい事って?」
「父さんね、あの仔猫が家に来た夜に逢いに行ったのよ」
「え? 逢いに行ったって……?」
「あんたが寝てる間にこっそり様子を見に行ったのよ」
「そっ、そうなの⁉︎」
「ええ、それでしばらくして帰ってくるなり放心しちゃってね。ふふふっ、父さん、何て言ったと思う?」
「…………」
僕は首を横に振ることしか出来なかった。
「いい子を連れて帰って来たな、ですって。あんな父さん久しぶりに見たわよ。それこそ柴丸と初めて会ったとき以来じゃないかしら?」
母さんは口元を手で覆い隠し笑う。
「たぶんだけれど、寝ている仔猫を見て一目惚れしちゃったんでしょうね。その瞬間に家で飼うって密かに決めてたんじゃないかしら?」
「そんな事があったんだ……」
「だからこの3日間はあんたが飼いたいって言ってくるのを今か今かと待ってたんじゃないかしらね? 父さんも素直じゃないところあるから」
「父さん……」
僕としてはまさに青天の霹靂だった。
いくら動物好きとは言え、猫アレルギーの父さんが仔猫に一目惚れして、飼いたいと密かに思っていただなんて。
でもまあ、動物好きだからこそそういう事になるのかも知れないが。
「ほらっ! ぼーっとしてないで柴丸に会いに行きなさい!」
「う、うん」
僕は居間を後にして、2階の自室に戻り仔猫の入った竹籠を抱えて柴丸のいる裏口へと向かった。
天候が思うように回復せず空が晴れるのを待っていたら3日も過ぎてしまった。
そして、土曜日の今日ようやく空が晴れわたった。
当初は天候が回復するまでの間、仔猫を家で保護しようという考えであったから、空が晴れた今日かぎりで仔猫とはお別れということになるはずだ。
保護施設につれていくのか、あるいは他の方法か、僕としてはまだ決めるに至っていないのだけど。
そして、共に過ごした3日間で少なからず情も移ってしまっている。
僕の心に芽生えた感情が正しい判断を鈍らせる。
僕は自室の窓から空を見上げ物思いに耽る。
しばらくの間そうしていて、僕はついに決心する。
僕は決意を胸に自室から出て居間へと向かう。
居間に到着すると父さんと母さんはテレビを見ながらお茶を飲んでいた。
僕は父さんの側に座って口を開いた。
「父さん、話があるんだ」
「話? 何だ、どうした?」
僕は決心が揺らぐ前にと早々に本題を切り出した。
「猫を飼いたいんだ」
「猫?」
一瞬、きょとんとした様子で父さんが首を傾げる。
「まだ小さな仔猫なんだけど……」
「ああ、お前が連れて来たっていう子か。母さんから話は聞いてる」
「父さんが猫アレルギーだっていうのはもちろん分かってるから、無理なのも分かってる。でも……」
父さんは僕の話を聞きながら静かにお茶を啜る。
「でも?」
「でも、それでも、飼いたいと思ってる。ごめん、無茶苦茶な事を言って……」
無茶なことを言ってるのは分かっている。
無駄だってことも分かっている。
けれど、どうしても、僕はあの仔猫を見捨てるような事は言えなかった。
どうにもやりきれない気持ちで僕が俯いていると、父さんがゆっくりと口を開いた。
「ああ、父さんは構わんよ。飼いたいのなら飼えばいい」
「えっ⁉︎」
僕は驚きと同時に耳を疑った。
父さんは今、何と言ったんだ?
飼いたいのなら飼えばいい、と聞こえたが……。
「はっはは、何をそんなに驚いているんだ。まさか父さんが反対するとでも?」
「でも、アレルギーは……?」
「うん、それに関しては何とも言えんが、まあ距離をとるなりして上手くやるさ」
「いい……の? 本当に大丈夫なの?」
「ああ、お前のことだから世話はしっかりとやるだろうし、それにーーーー」
「それに?」
「ああ、いや、何でもない。まあとにかく父さんの事は気にするな。それよりも猫を飼うなら、おじいちゃんにも確認しとかないとな」
「おじいちゃん?」
僕の頭に大きなクエスチョンマークが浮かんだ。
おじいちゃんは県外に住んでいて1年に数回会う程度なのだが、なぜここでおじいちゃんが出てくるのだろう?
そう思ったけれど、その疑問はすぐに答えへと辿り着いた。
「ああ、柴丸だね」
「ふふふっ、あの子もこの3日間ずっと落ち着かない様子だったから、気になって気になって仕方がないんじゃない?」
母さんは微笑みながら裏口の方を見て、そう口にした。
「はっはは、年甲斐もなく息を切らせていたな、芝のやつ。さてとーーーーじゃあ父さんはちょっと出かけてくる」
父さんはお茶を一気に飲み干すとその場に立ち上がり居間を後にした。
「ふふふっ、あんたにいい事教えてあげようか?」
悪戯っぽく母さんは笑う。
「いい事って?」
「父さんね、あの仔猫が家に来た夜に逢いに行ったのよ」
「え? 逢いに行ったって……?」
「あんたが寝てる間にこっそり様子を見に行ったのよ」
「そっ、そうなの⁉︎」
「ええ、それでしばらくして帰ってくるなり放心しちゃってね。ふふふっ、父さん、何て言ったと思う?」
「…………」
僕は首を横に振ることしか出来なかった。
「いい子を連れて帰って来たな、ですって。あんな父さん久しぶりに見たわよ。それこそ柴丸と初めて会ったとき以来じゃないかしら?」
母さんは口元を手で覆い隠し笑う。
「たぶんだけれど、寝ている仔猫を見て一目惚れしちゃったんでしょうね。その瞬間に家で飼うって密かに決めてたんじゃないかしら?」
「そんな事があったんだ……」
「だからこの3日間はあんたが飼いたいって言ってくるのを今か今かと待ってたんじゃないかしらね? 父さんも素直じゃないところあるから」
「父さん……」
僕としてはまさに青天の霹靂だった。
いくら動物好きとは言え、猫アレルギーの父さんが仔猫に一目惚れして、飼いたいと密かに思っていただなんて。
でもまあ、動物好きだからこそそういう事になるのかも知れないが。
「ほらっ! ぼーっとしてないで柴丸に会いに行きなさい!」
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