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3章 魔王討伐編

1 町の出口を探して

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 俺が召喚された城を仰ぎ見ながら大通りをゆっくりと歩いていく。

 レンガで作られた住居らしき建物の壁に町全体を表した案内図が貼ってあったので、なんとなく見てみる。

 案内図に書いてある町の様子だと、俺が召喚された城はアセロラ城という名前で、町の名前はそのまま城下町アセロラというらしい。そのアセロラ城の周りを取り囲むように町が配置されていて、町の周りには侵入者を拒むように天高く防壁がそそり立っている。町への入り口は城の正面入り口から真っ直ぐにのびるメインの大通り一本で、町にさしかかるとそこから左右に分岐して町の中をぐるりと一周するようにサブの大通りがのびている。

 なので俺が今いるのはサブの大通りらしく、町の外に出るには一度メインの大通りに出るしかないようだった。

 メインの大通りを目指してゆっくりと歩き出す。

  途中、果物屋さんの隣に粗末な木材を使って作られた案内板が設置してあり、

《アセロラ城こっち↓》

 と、子供が作ったものなのか手書きでそう書いてあって城と町の人達が近いところで結ばれているのが見て取れて、なんだか少し癒された。

「いい町だな……」

 愛嬌があり過ぎる案内板を横目に俺はメインの大通りへと向かう。

 通りの隅の方では数人の子供達が地面に絵を描いていたり、走り回っていたり、地面に突き立てた棒に石を投げたりして遊んでいる。

 そんな幼い子供達を見守るように少し年上の女の子が注意を呼びかけている。

 子供達のやる事はどこの世界もだいたい同じだな。活発で好奇心旺盛で無邪気だ。

 しばらく行くと、お弁当屋さんというか、総菜屋さんのようなお店を見つけて、保存のきく食料を買い溜めする事にした。

 肉食系男子たる俺は、主に干し肉をメインに購入し空腹にならないように備えた。あと、飴玉も少し購入しておいた。

 武器防具屋のおじさんに貰った袋が2つ共、それなりの重量を帯びた。

 飴玉を1つ口に放り込み歩いていると、前方に更に大きな通りが現れた。

 今までいた大通りが小さく見えるほどに大きなその通りは、確認するまでもなくメインの通りで、建ち並ぶ店の大きさも、数も、人通りも、まるで別次元だった。

 そんなメインの通りを左に折れて、アセロラ城に背を向けて歩き出す。

 少しすると、通りのずっと先の方に左右に別れて全長30メートルはあろうかという、どでかい物見やぐらが見えてきた。物見やぐらは石造りのようで、綺麗にカットし並べられたところを見るとかなりレベルの高い石造建築の技術を持っている事が分かった。

 物見やぐらの横を通り過ぎると前方には分厚い木製の扉が見えてきた。

 所々、金属で補強された扉はなんの木を使用しているのかは知らないけれど重く、硬い存在感を放っている。

 扉の前には城の兵士のおじさんと20歳くらいのお兄さんが立っていて、どうやら扉の見張りをやっているらしかった。

 俺の他にも扉を通ろうとする人は大勢いて、みんな一列に並んでおじさん達と何かを話してから扉の外に出ていっているようだった。

 俺も列に並んで順番を待つ。

 俺の前にいた大きな袋を持ったおばさんの順番になった。

「やあ! ドーラさん。仕入れかい?」

「ああ、そうだよ。今回はどういう訳か《干し肉》がえらく売れてねぇ。2日前に仕入れたのにもうなくなっちまったよ!」

 その言葉を聞いた20歳くらいのお兄さんが眩しい笑顔で言う。

「商売繁盛でなによりですね! 僕もドーラさんの作る干し肉大好きなので、明々後日あたり仕事が終わったら買いに行きますね!」

「ああ、ありがとよ。たんとサービスしてやるからおいで」

「それじゃドーラさん、近頃は魔物の出没が目立ってきているから道中十分に気を付けてくれよ?」

「はいはい。ありがとうよ」

 更に眩しい笑顔で手を振って見送るお兄さん。

「お気を付けて!」

 ドーラさんと呼ばれたおばさんは少し開いた扉の隙間から外へと出て行った。

 そして、遂に俺の順番のようである。

 


 

 



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