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2章 お茶会
2 貴婦人
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「おお、おはよう。ローレライ」
朝食をとるためダイニングルームに向かっていると少し手前の通路で、私と同じく朝食をとるためダイニングルームへと向かっていたお父様と鉢合わせました。
「おはようございます、お父様」
私はつい伏せがちになる視線をどうにか持ち上げ、お父様の表情を伺ってみると昨日のような感情を高ぶらせた様子は一切感じず、代わりにいつもよりもひどく疲れたようなご様子でした。
昨日は様々な事があって心身ともに疲れ果てていたでしょうに、恐らく昨日も深夜まで仕事に追われていたのでしょう。体調を崩さなければいいのですが……。
「昨日はよく眠れたか?」
寝起きの潰れたような声のお父様が聞いてきます。
私はこれ以上の心配を掛けたくない一心から、
「はい」
と、答えました。
お父様は声の調子を整えるように咳払いをひとつした後、
「そうか」
と、短く返事をしその後は共に無言のままダイニングへと向かいました。
いつものようにお父様と向かい合ってテーブルにつくと、すぐに朝食の準備が進められていきます。
そこには当然ですがアンナの姿もあって、私の視線に気付いたアンナは一瞬、子供のような照れ笑いを浮かべました。
本当にもう……可愛いんだから。そんな愛らしいアンナのはにかんだ顔を見るとそう思わざるを得ません。
アンナはすぐに私から視線を外すと真剣な表情へととって変わり、食事の支度をそつなくこなしていきます。
私はグラスに注がれたよく冷えたお水を一口くちにすると、乾いていた身体が潤っていくのを感じました。今日の私は自分でも気付かないくらい身体が乾ききっていたようです。
グラスのお水を飲み終えると、どうやらお目当ての物がテーブルの上に登場したようです。
アンナの手で運ばれてきたお皿の中央には軽く焼き目が付けられたパンが二段重なり合っていて、そこからはなんとも言えない小麦の香ばしい香りが立ち込めています。そんな香ばしいパンの上には、上等な絹糸でつくられたドレスを身に纏った高貴な貴婦人が優雅に佇んでいます。
私の大好物、ポーチドエッグ婦人のご登場ですね。
また、お皿の外周部分には彩り豊かなお野菜達が中央のメインヒロインに華を添えるように配置されています。
私は少しも我慢が出来ずにすぐにメインヒロインへと手を伸ばします。
右手のシルバーに輝くナイフが絹のドレスの表面を優しく撫でるとたちまち鮮やかな濃厚ソースが溢れ出し、パンの焦げ目を優しく包み込みながらどんどんと尾をひいていき、ついにはお皿の上にまで到達しました。
淑やかな純潔の象徴たる絹のドレスを脱ぎ去り、豪奢で華やかなパーティードレスを身に纏う貴婦人は今から舞踏会に出席でもするようにお皿の上でより一層の輝きを放っています。
すっかりお色直しを終えた貴婦人と、それらを取り巻く全てのものを隅々までじっくりと見終えた私はすでに満足していました。
だって、大好物のポーチドエッグの楽しみの半分は今のお色直しなのだから。
普段は淑やかで控えめな女性がとある事がきっかけで大変身を遂げて、誰もが羨む美貌を手に入れ注目の的になる。そして素敵な王子様と幸せになる。
女の子なら誰でも一度は夢見る事です。
そんなの当たり前です。
楽しみはまだまだ終わりません。みんなの憧れ、大変身を遂げた貴婦人を次はいよいよ実食です。
せっかく大変身を遂げた貴婦人を食べてしまうのは自分で勝手に考えた想像上の事とは言え正直、感慨深いものがあります。
ですが、貴婦人の具体的なイメージは当然、私自身なので私が私を食べるのならそこまでの抵抗はありません。
それに、私が実際に大変身するなんて事は絶対にないですし。
様々な思いが駆け巡る中、私は左手のフォークでパンを捉えます。
朝食をとるためダイニングルームに向かっていると少し手前の通路で、私と同じく朝食をとるためダイニングルームへと向かっていたお父様と鉢合わせました。
「おはようございます、お父様」
私はつい伏せがちになる視線をどうにか持ち上げ、お父様の表情を伺ってみると昨日のような感情を高ぶらせた様子は一切感じず、代わりにいつもよりもひどく疲れたようなご様子でした。
昨日は様々な事があって心身ともに疲れ果てていたでしょうに、恐らく昨日も深夜まで仕事に追われていたのでしょう。体調を崩さなければいいのですが……。
「昨日はよく眠れたか?」
寝起きの潰れたような声のお父様が聞いてきます。
私はこれ以上の心配を掛けたくない一心から、
「はい」
と、答えました。
お父様は声の調子を整えるように咳払いをひとつした後、
「そうか」
と、短く返事をしその後は共に無言のままダイニングへと向かいました。
いつものようにお父様と向かい合ってテーブルにつくと、すぐに朝食の準備が進められていきます。
そこには当然ですがアンナの姿もあって、私の視線に気付いたアンナは一瞬、子供のような照れ笑いを浮かべました。
本当にもう……可愛いんだから。そんな愛らしいアンナのはにかんだ顔を見るとそう思わざるを得ません。
アンナはすぐに私から視線を外すと真剣な表情へととって変わり、食事の支度をそつなくこなしていきます。
私はグラスに注がれたよく冷えたお水を一口くちにすると、乾いていた身体が潤っていくのを感じました。今日の私は自分でも気付かないくらい身体が乾ききっていたようです。
グラスのお水を飲み終えると、どうやらお目当ての物がテーブルの上に登場したようです。
アンナの手で運ばれてきたお皿の中央には軽く焼き目が付けられたパンが二段重なり合っていて、そこからはなんとも言えない小麦の香ばしい香りが立ち込めています。そんな香ばしいパンの上には、上等な絹糸でつくられたドレスを身に纏った高貴な貴婦人が優雅に佇んでいます。
私の大好物、ポーチドエッグ婦人のご登場ですね。
また、お皿の外周部分には彩り豊かなお野菜達が中央のメインヒロインに華を添えるように配置されています。
私は少しも我慢が出来ずにすぐにメインヒロインへと手を伸ばします。
右手のシルバーに輝くナイフが絹のドレスの表面を優しく撫でるとたちまち鮮やかな濃厚ソースが溢れ出し、パンの焦げ目を優しく包み込みながらどんどんと尾をひいていき、ついにはお皿の上にまで到達しました。
淑やかな純潔の象徴たる絹のドレスを脱ぎ去り、豪奢で華やかなパーティードレスを身に纏う貴婦人は今から舞踏会に出席でもするようにお皿の上でより一層の輝きを放っています。
すっかりお色直しを終えた貴婦人と、それらを取り巻く全てのものを隅々までじっくりと見終えた私はすでに満足していました。
だって、大好物のポーチドエッグの楽しみの半分は今のお色直しなのだから。
普段は淑やかで控えめな女性がとある事がきっかけで大変身を遂げて、誰もが羨む美貌を手に入れ注目の的になる。そして素敵な王子様と幸せになる。
女の子なら誰でも一度は夢見る事です。
そんなの当たり前です。
楽しみはまだまだ終わりません。みんなの憧れ、大変身を遂げた貴婦人を次はいよいよ実食です。
せっかく大変身を遂げた貴婦人を食べてしまうのは自分で勝手に考えた想像上の事とは言え正直、感慨深いものがあります。
ですが、貴婦人の具体的なイメージは当然、私自身なので私が私を食べるのならそこまでの抵抗はありません。
それに、私が実際に大変身するなんて事は絶対にないですし。
様々な思いが駆け巡る中、私は左手のフォークでパンを捉えます。
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