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2章 お茶会

9 昔話

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 誰かと自分を比べて自分の方が優れているから勝ったとか、あるいは負けたとか、そういう考え自体は普通だと思うんです。だけどその結果、勝ったから偉いとか負けたから偉くないとか、相手より優れていたから強い、劣っていたから弱いって事にはならないと思うんですよね……。

 だって、かけっこで勝ったからって偉いわけじゃないでしょう?

 絵が上手だから強いって事にもならないと思うんですよ。

 ポーンドット男爵家に生まれた15歳の少女ローレライと平民の家庭に生まれた15歳の少女アンナは生まれた家庭が違うだけでそれ以外は全く同じのただの人間なのですから。

 アンナはドジっ子ですが私はドジっ子ではない。

 アンナは元気いっぱいの可愛らしい子ですが私はそうじゃない。

 私はアップルパイを作るのが得意ですがアンナは得意ではない。

 むしろ私はアンナみたいな明るくて可愛い女の子になりたいとさえ思います。

 色々違っていて、勝っていて負けていて、全く同じなんて事一つもなくて、それが当たり前なんです。それが個性であり自然なんです。

 なのにどうして家柄とか仕事内容でそうなっちゃうのか、私には分かりません。

 自分ができない事を誰かが代わりにやってくれて、誰かがやれない事を自分が代わりにやってあげる。誰かが誰かを支えて支え合って、上手く循環していく。そういうものだと思うんですけどね……。

 そういう世の中の仕組みを理解出来ないところがやはり、私はまだまだ子供なのかもしれないですね。

 今後の成長と共に理解できるようになる事を願うばかりです。

 さて、ついついあれこれ考え込んでしまいましたが窓の外の景色は更に変化し、潮の香りが嗅覚を刺激します。

 耳を澄ますと今にも打ち寄せる心地良い波の音が聞こえてくるようです。

 穏やかで雄大な海に面したニルヴァーナ公爵領。

 ニルヴァーナ公爵領内には複数の港があって、毎日早朝から大海原へ出ては国中にお魚を届けるために漁が盛んに行われています。

「…………」

 ベアトリック様のお屋敷まであと少し時間が掛かりますね。そういえばここ、ニルヴァーナ公爵領にはこんな昔話がありましたっけ。

 幼い頃に読んだ絵本にも出てくる誰もが知ってる有名なお話。

 それは、ずいぶん昔の事でした。今でこそニルヴァーナ公爵領は穏やかな海が広がる港町ですが、今よりずっと昔は海賊が横行する荒れ果てた土地だったらしく、陸に上がった海賊がそのまま王国内に攻め込んできて金品や食料を奪っていく事も間々あったのだとか。そんな野蛮な海賊達にほとほと困り果てていた当時の国王様でしたが、ある日一人の若者が国王様の元を訪れ『私に考えがあるのでどうか試させて欲しい。その為にはまず、海賊達のいる荒れた土地を私に譲って欲しい。もし、上手くいかなかった場合は土地は返還します』と提案したのだとか。

 海賊達をどうにか出来るのならと国王様は喜んでその若者の提案を受け入れたのです。

 若者はにこりと微笑むと、すぐさま荒れた土地へと向かいそのまま消息を絶ちました。

 三ヶ月、半年。いくら経ってもあの若者は帰っては来なかった。だから国王様は思いました。きっとあの若者は海賊に捕まり殺されてしまったのだと。

 若者の勇気に心を打たれ、日々あの若者に祈りを捧げている時ふと気付いたのです。若者が旅立ってから一度も海賊達が攻め込んで来ていない事に。

 国民からの報告が滞っているのかと思い確認するも被害報告は無し。

 状況が全く理解できない国王様は海賊達の支配する荒れた土地に偵察を送り現状を調べさせました。

 偵察隊はそこでとても信じられないような光景を目にしたのです。






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