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2章 お茶会

10 変わり果てた港

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 偵察隊が目にした光景、それはーーーー。

 以前は船を着岸させるためだけの簡素な造りだった着岸施設は、今は木材が綺麗に組み並べられ安全に船に乗り降り出来るようになっており、船を繋ぎとめておく為のビットも大海原に対して背筋を伸ばし船の到着を今か今かと待ち構えるように鎮座していたとか。

 驚くのは何も着岸施設だけではなく、以前は荒くれものがそこら中にごった返していて、うっかり足を踏み入れでもしたら間違いなく身包みを剥がされ最悪の場合、命を落としても何ら不思議はなかったであろう殺伐とした港の雰囲気も今や一変し、港造りに活気づいたただの普通の港町に変わり果てていたのです。

 ただの平和な港町で、この辺一帯を支配していた荒くれ者の海賊達が忽然とその姿を消したのです。

 偵察隊は頭を捻りました。

 これはいったいどうした事だ? 場所を間違えしまったか? いや、ここは間違いなくあの港だ。遠くに見えるあの山も、森も、沖に見えるあの島も、全てが今までと同じでその中心にあるこの場所だけがまるっきりの別物で異常なのです。

 まさか、あの若者が海賊どもを追い払ってしまったのか? 朧げな記憶を辿るがあの若者は海賊相手に派手な戦いが出来るほど強者ではなかったと思う。どころかいたって普通の若者だった。恐らくは剣を持った事すらないほどに。偵察隊はそう推察します。

 目の前に広がる異様な光景に偵察隊はさらに思います。何と国王様に報告すれば良いのだろう。見たまま伝えても到底信じては貰えまい。謎が多すぎる。着岸施設の発展が、消えた海賊達が、消えた若者が、活気づいた港町が、どれもこれも報告するには理屈が分からない。

 と、その時。

 辺りに気を取られていた偵察隊は、とある人物に話しかけられます。

「おい! 邪魔なんだよ、さっきから。どけよ!」

 低く唸るように放たれたその乱暴な言葉に、偵察隊は海賊達が帰って来たと思い飛び上がりそうになったのだとか。

 急いで振り返り声の主を確認すると、真っ黒に日焼けした筋骨隆々な大男が大きな木樽を抱えて偵察隊を見下ろしていたそうです。

 海賊だ! やっぱり海賊が帰ってきたんだっ!

 声こそあげはしなかったものの、急いでその場から離れた偵察隊は少し離れた所にあった生い茂った草木の中に身を隠し町の中を観察します。

 すると、ある事に気付いたのです。

 着岸施設を作っている人、荷物を運んでいる人、木々を切り倒して加工している人、木陰で休憩している人、美味しそうな料理の匂いを漂わせている人、大声で誰かに指示を出している人、それら全ての人が筋骨隆々でいて見るからに素行の悪い悪人顔をしているのです。

 そうーーーー懸命に働く彼等こそが問題の海賊達そのものだったらしいのです。

 あの海の荒くれ者達が荒っぽさはあるものの自分達と同じく協力し合い、町を作り、発展させていたのですからこれほどの驚天動地はそうそうあるものではなかった事でしょう。

 変わり果てたかつての海の荒くれ者達の姿に、まるで夢でも見ているかのような錯覚に陥った偵察隊はついに大変化を遂げた理由を知る事となったのです。

「あれ? あなた達は……?」

 戸惑う偵察隊を不思議そうな顔で覗き込んでくる痩躯な若者が一人。

 明らかに他の連中とは違ったタイプの人間。もはや人種が違うと言ってしまっても差し支えなかったと本に書いてありました。

 そうーーーー半年前。国王様に任せてくれと言ったあの勇気ある若者だったのです。

 彼は今、目の前にいるのが王国から来た偵察隊だと気付くや否や、やや慌てる素振りを見せた後、照れ笑いを浮かべながら言ったそうです。

「あっ、もう来ちゃったんですか……」
 






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