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2章 お茶会
31 引き裂かれた、
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「分かってもらえた? ローレライ? あなたの貴族としての価値観のズレ。あなたは平民同然の貴族なのだけれど、それでもやはり貴族は貴族なのよ。なのであれば、それ相応の振る舞いをしないと他の貴族もあなたのように見られてしまう、貴族としての誇りが失われてしまうわ。とても由々しき事でしょう?」
「そうよ、そうよ。私達まであなたみたいに見られてしまっては、正直かなわないわ。それとも何? 私の身長が貴族らしくないとでも言いたい訳⁉︎ 平民の子供にしか見えないとか思ってる訳⁉︎」
「落ち着いてアレンビー嬢、そう興奮しないで。でも、そうですね。ベアトリック嬢やアレンビー嬢が言うように、そこはちゃんと一線引いておいた方がよろしいでしょうね。平民ごときに寝首をかかれる訳にもいきませんし」
「そうよね。あっ! それかあなた、お父様にお願いして男爵の爵位を返上してもらうって手もあるんじゃない? 返上してしまえばあなたはもう貴族ではないのだから、虫ケラと何してようとあなたの勝手よね? あっははは! それいい、それがいいわ! 返上なさいよ! 男爵の爵位!」
「ふむ。その手がありましたか……。確かにそうした方が、あなたの為にもなるかもしれませんね。ねぇ? ローレライ?」
「平民落ちのローレライちゃん……なんだか可愛い響きじゃない!」
「それは……」
「なに? 踏ん切りがつかないの? やはり貴族の方がいいのかしら? 私が直々に背中を押してあげてもいいのだけれど……さて、どうしたものかしらね……」
ベアトリック様は右手を顎に当てて私をしばらくの間見つめてやがて、
「ん? 今、気付いたのだけれどローレライ、貴方……いつも同じドレスを着ていない?」
「そう? 私の記憶が確かなら、先日アヴァドニア公爵邸で行われた茶会の時には別のドレスだったような……」
「そうですね。先日は確かに違っていました。けれど、その前は今日と同じドレスでしたわね」
「という事は……二着を交互に着回していると? そうなの? ローレライ?」
「は、はい……」
「はぁ……本当にあなたって不憫ね。そこまで無理して貴族でい続ける理由って何よ……。ドレスのデザインも何だか古臭いし……あっ! そうだわ! いい事を考えたわ! あなた達、ちょっと……」
ベアトリック様はアレンビー様とルークレツィア様になにやら耳打ちしています。耳打ちされた御二方は、次第に悪い笑みを浮かべて私の側まで歩み寄ると私の両腕を抱えてその場に立つよう指示しました。
「っ痛!」
さっき暴行を受けた箇所が鈍く痛みます。
御二方に支えられて何とか立ち上がった私は、支えが無いとその場に立つ事すらままならない状況でした。
私の視線の先、テーブルについたベアトリック様は扇子で口元を隠し、じっとこちらを見ています。目尻がわずかに下がっているので、扇子の向こうでは笑っているのでしょう。
そして、ベアトリック様が小さくコクンッと頷くと信じ難い事が起こりました。
私の両腕を抱えていたアレンビー様とルークレツィア様が私のドレスの両方の袖を思い切り引っ張ったのです。
「ーーーーあっ!」
もともと繊細なシルク素材で作られた薄手のドレスだったので袖部はいとも簡単に破れてしまい、今は私の手首の辺りからだらりと垂れ下がっています。
「あっははは! 良いわ、良いわ! 新しいドレスの完成よっ! あっははははは!」
「ごめんね、ローレライ。少し痛かったでしょう?」
「ハサミがあれば良かったんですけれど、ちょうど今、手元になかったものだから……でも、上手くいったようで安心しました」
散々足蹴にされ続けドレスも泥だらけにされた事で、もう全てどうでもいいと思っていた筈なのに、私の目からは反射的に大粒の涙が零れ落ちてきました。
それほど強いショックを受けました。
「なっ……なんで……こんな、こんな……酷い……事……」
「あっはは! だからずっと言っているじゃない……あなたが貴族の誇りを傷付けた罰だって」
「自業自得でしょ? それなのに何故泣いているの? まさか泣く事でか弱い可愛い女の子アピールしてるんじゃないでしょうね⁉︎ そこまでして私より目立ちたいの⁉︎ 本当に油断も隙もあったもんじゃない!」
「泣いても仕方がないじゃない。まさかあなた……こんな辛い目にあっている自分の事を可哀想だとか思っているんじゃない? 力のある私達から好き放題に散々罵られて可哀想だって、私こんなに頑張ってるのにって、そう思ってしまっているんじゃない? 悲劇のヒロイン気取りはやめなさいよ」
私は破れたドレスの袖をぎゅっと握りしめて、ただただ泣く事しか出来ませんでした。
「そうよ、そうよ。私達まであなたみたいに見られてしまっては、正直かなわないわ。それとも何? 私の身長が貴族らしくないとでも言いたい訳⁉︎ 平民の子供にしか見えないとか思ってる訳⁉︎」
「落ち着いてアレンビー嬢、そう興奮しないで。でも、そうですね。ベアトリック嬢やアレンビー嬢が言うように、そこはちゃんと一線引いておいた方がよろしいでしょうね。平民ごときに寝首をかかれる訳にもいきませんし」
「そうよね。あっ! それかあなた、お父様にお願いして男爵の爵位を返上してもらうって手もあるんじゃない? 返上してしまえばあなたはもう貴族ではないのだから、虫ケラと何してようとあなたの勝手よね? あっははは! それいい、それがいいわ! 返上なさいよ! 男爵の爵位!」
「ふむ。その手がありましたか……。確かにそうした方が、あなたの為にもなるかもしれませんね。ねぇ? ローレライ?」
「平民落ちのローレライちゃん……なんだか可愛い響きじゃない!」
「それは……」
「なに? 踏ん切りがつかないの? やはり貴族の方がいいのかしら? 私が直々に背中を押してあげてもいいのだけれど……さて、どうしたものかしらね……」
ベアトリック様は右手を顎に当てて私をしばらくの間見つめてやがて、
「ん? 今、気付いたのだけれどローレライ、貴方……いつも同じドレスを着ていない?」
「そう? 私の記憶が確かなら、先日アヴァドニア公爵邸で行われた茶会の時には別のドレスだったような……」
「そうですね。先日は確かに違っていました。けれど、その前は今日と同じドレスでしたわね」
「という事は……二着を交互に着回していると? そうなの? ローレライ?」
「は、はい……」
「はぁ……本当にあなたって不憫ね。そこまで無理して貴族でい続ける理由って何よ……。ドレスのデザインも何だか古臭いし……あっ! そうだわ! いい事を考えたわ! あなた達、ちょっと……」
ベアトリック様はアレンビー様とルークレツィア様になにやら耳打ちしています。耳打ちされた御二方は、次第に悪い笑みを浮かべて私の側まで歩み寄ると私の両腕を抱えてその場に立つよう指示しました。
「っ痛!」
さっき暴行を受けた箇所が鈍く痛みます。
御二方に支えられて何とか立ち上がった私は、支えが無いとその場に立つ事すらままならない状況でした。
私の視線の先、テーブルについたベアトリック様は扇子で口元を隠し、じっとこちらを見ています。目尻がわずかに下がっているので、扇子の向こうでは笑っているのでしょう。
そして、ベアトリック様が小さくコクンッと頷くと信じ難い事が起こりました。
私の両腕を抱えていたアレンビー様とルークレツィア様が私のドレスの両方の袖を思い切り引っ張ったのです。
「ーーーーあっ!」
もともと繊細なシルク素材で作られた薄手のドレスだったので袖部はいとも簡単に破れてしまい、今は私の手首の辺りからだらりと垂れ下がっています。
「あっははは! 良いわ、良いわ! 新しいドレスの完成よっ! あっははははは!」
「ごめんね、ローレライ。少し痛かったでしょう?」
「ハサミがあれば良かったんですけれど、ちょうど今、手元になかったものだから……でも、上手くいったようで安心しました」
散々足蹴にされ続けドレスも泥だらけにされた事で、もう全てどうでもいいと思っていた筈なのに、私の目からは反射的に大粒の涙が零れ落ちてきました。
それほど強いショックを受けました。
「なっ……なんで……こんな、こんな……酷い……事……」
「あっはは! だからずっと言っているじゃない……あなたが貴族の誇りを傷付けた罰だって」
「自業自得でしょ? それなのに何故泣いているの? まさか泣く事でか弱い可愛い女の子アピールしてるんじゃないでしょうね⁉︎ そこまでして私より目立ちたいの⁉︎ 本当に油断も隙もあったもんじゃない!」
「泣いても仕方がないじゃない。まさかあなた……こんな辛い目にあっている自分の事を可哀想だとか思っているんじゃない? 力のある私達から好き放題に散々罵られて可哀想だって、私こんなに頑張ってるのにって、そう思ってしまっているんじゃない? 悲劇のヒロイン気取りはやめなさいよ」
私は破れたドレスの袖をぎゅっと握りしめて、ただただ泣く事しか出来ませんでした。
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