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2章 お茶会
32 薔薇の棘
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「だからーーーーいつまでそうやって泣いているのよっ!」
苛立ちを露わにしたアレンビー様が私の右手を強く引き、そのまま薔薇の植え込みの中へと私を突き飛ばしました。
「ーーーー痛っ! い、痛い、痛い! あっ、棘が……」
咲き誇る薔薇の鋭く尖った棘が露出している私の両腕と顔に容赦なく襲いかかります。
鋭い痛みが走る両腕に視線を移すとそこには、うっすらと血の赤を滲ませた線状の傷が無数に刻まれていました。
「痛っ!」
痛みに反応し身体を仰け反ると、また新たな棘が身体に深く深く突き刺さってきて更なる痛みと恐怖が押し寄せてきます。
動けば動くほど執拗に絡み付いてきて、無数の棘を突き刺しては滴る血を吸い上げ自らの赤を濃くする呪いの薔薇のようです。
それに、薔薇の棘が傷付けるのは肌だけではありません。
ドレスを、大切なお母様の形見をも傷付けるのです。
私はなんとかドレスを守ろうとしますが、幾重にも折り重なった薔薇の蔓と棘が私の身体とドレスを捉えて離してくれません。
「ーーーードッ、ドレスが……痛っ!」
繊細なシルクの柔肌を鋭利な棘が撫でるたびに糸がつれてしまい、ドレスのあちこちで糸が弧を描いてしまっています。
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。
「あっははは! ローレライ、あなた、そんな所で寝転んでいったい何をやっているの? まだお祖父様に謝罪してくれているの?」
「棘が痛いでしょう? 私より目立とうとした罰よ、存分にその身で堪能するがいいわ」
「ドレスもいい感じで糸がつれているわね。まるで恐ろしい蜘蛛の糸にかかった可哀想な蝶々のようで見ていてとても楽しいわ。本当に可愛いのですね、ローレライ」
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。
私は心の中で必死にドレスに謝りこれ以上ドレスがダメにならないよう、この薔薇の魔手から一刻も早く逃れようと決意しました。
両手をついて立ち上がろうとすると、当たり前ですが容赦なく薔薇の棘が手のひらに突き刺さります。
「い、痛い……いっ……」
とても痛いです。腕から力が抜けてしまって震えてしまいます。
痛みに耐えどうにか体勢を整えて、ドレスに引っ掛かっている薔薇の棘を慎重にひとつひとつ外していき、大方の棘が取れたあたりで思い切って植え込みから脱出しました。ですが、ちょうど真後ろで見えなかった裾のあたりにも棘が引っかかっていたようで、私の身体の動きに逆らってぷつんっと糸が切れたような感触がドレス越しに伝わってきます。
その感触がはっきりと全身を駆け巡り、完全に私の身体から消えるまで動く事が出来ませんでした。
ごめんなさい……お父様、お母様。
「うっ……ひぐっ……」
「あーらら、せっかくのドレスが台無しじゃない、何やってるのよ本当にドジね」
「そんなに泣かないでください、ローレライ。あなたが泣くと私も悲しいわ」
「あっははははははははははははははははははははははははははははははははは!」
ベアトリック様は声高に笑います。広大な薔薇園の外にも届くほど凄惨に、盛大に笑います。そして、
「ーーーーはぁ……。さて、それではお茶もすっかり冷めてしまった事だし……どうしましょうか? ここでお開きにする? それともお茶のお代わりを用意させましょうか? どちらがいいかしらね、ねえ? ローレライ」
「……うっ……うっ……ひぐっ……」
「いつまでもいつまでも子供みたいに……ドレスくらいまた買えばいいじゃない。いくら下層貴族だってそれくらい出来るでしょう? あなたまさか……子供みたいに泣いたりして、それって私への当てつけじゃないでしょうね⁉︎ そんなに私が子供っぽく見えるって言いたいの⁉︎ どうなのよっ⁉︎」
「よほど怖かったのですね……。よしよし、もう大丈夫、大丈夫。もうお茶会はお開きですだからね。帰ってゆっくりケーキでも食べなさい。きっとすぐに元気になるわ。ね? そうしなさい、ローレライ」
「あっははは……ふぅ、少しやりすぎたかもしれないわね。ごめんなさいね、ローレライ。あなたが可愛くて可愛くて仕方がないから、つい意地悪したくなっちゃって……本当にごめんなさい……私、すごく反省している……ごめんなさいね、ローレライ」
ベアトリック様は私の両肩に優しく手を置いて、そう言いました。
苛立ちを露わにしたアレンビー様が私の右手を強く引き、そのまま薔薇の植え込みの中へと私を突き飛ばしました。
「ーーーー痛っ! い、痛い、痛い! あっ、棘が……」
咲き誇る薔薇の鋭く尖った棘が露出している私の両腕と顔に容赦なく襲いかかります。
鋭い痛みが走る両腕に視線を移すとそこには、うっすらと血の赤を滲ませた線状の傷が無数に刻まれていました。
「痛っ!」
痛みに反応し身体を仰け反ると、また新たな棘が身体に深く深く突き刺さってきて更なる痛みと恐怖が押し寄せてきます。
動けば動くほど執拗に絡み付いてきて、無数の棘を突き刺しては滴る血を吸い上げ自らの赤を濃くする呪いの薔薇のようです。
それに、薔薇の棘が傷付けるのは肌だけではありません。
ドレスを、大切なお母様の形見をも傷付けるのです。
私はなんとかドレスを守ろうとしますが、幾重にも折り重なった薔薇の蔓と棘が私の身体とドレスを捉えて離してくれません。
「ーーーードッ、ドレスが……痛っ!」
繊細なシルクの柔肌を鋭利な棘が撫でるたびに糸がつれてしまい、ドレスのあちこちで糸が弧を描いてしまっています。
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。
「あっははは! ローレライ、あなた、そんな所で寝転んでいったい何をやっているの? まだお祖父様に謝罪してくれているの?」
「棘が痛いでしょう? 私より目立とうとした罰よ、存分にその身で堪能するがいいわ」
「ドレスもいい感じで糸がつれているわね。まるで恐ろしい蜘蛛の糸にかかった可哀想な蝶々のようで見ていてとても楽しいわ。本当に可愛いのですね、ローレライ」
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。
私は心の中で必死にドレスに謝りこれ以上ドレスがダメにならないよう、この薔薇の魔手から一刻も早く逃れようと決意しました。
両手をついて立ち上がろうとすると、当たり前ですが容赦なく薔薇の棘が手のひらに突き刺さります。
「い、痛い……いっ……」
とても痛いです。腕から力が抜けてしまって震えてしまいます。
痛みに耐えどうにか体勢を整えて、ドレスに引っ掛かっている薔薇の棘を慎重にひとつひとつ外していき、大方の棘が取れたあたりで思い切って植え込みから脱出しました。ですが、ちょうど真後ろで見えなかった裾のあたりにも棘が引っかかっていたようで、私の身体の動きに逆らってぷつんっと糸が切れたような感触がドレス越しに伝わってきます。
その感触がはっきりと全身を駆け巡り、完全に私の身体から消えるまで動く事が出来ませんでした。
ごめんなさい……お父様、お母様。
「うっ……ひぐっ……」
「あーらら、せっかくのドレスが台無しじゃない、何やってるのよ本当にドジね」
「そんなに泣かないでください、ローレライ。あなたが泣くと私も悲しいわ」
「あっははははははははははははははははははははははははははははははははは!」
ベアトリック様は声高に笑います。広大な薔薇園の外にも届くほど凄惨に、盛大に笑います。そして、
「ーーーーはぁ……。さて、それではお茶もすっかり冷めてしまった事だし……どうしましょうか? ここでお開きにする? それともお茶のお代わりを用意させましょうか? どちらがいいかしらね、ねえ? ローレライ」
「……うっ……うっ……ひぐっ……」
「いつまでもいつまでも子供みたいに……ドレスくらいまた買えばいいじゃない。いくら下層貴族だってそれくらい出来るでしょう? あなたまさか……子供みたいに泣いたりして、それって私への当てつけじゃないでしょうね⁉︎ そんなに私が子供っぽく見えるって言いたいの⁉︎ どうなのよっ⁉︎」
「よほど怖かったのですね……。よしよし、もう大丈夫、大丈夫。もうお茶会はお開きですだからね。帰ってゆっくりケーキでも食べなさい。きっとすぐに元気になるわ。ね? そうしなさい、ローレライ」
「あっははは……ふぅ、少しやりすぎたかもしれないわね。ごめんなさいね、ローレライ。あなたが可愛くて可愛くて仕方がないから、つい意地悪したくなっちゃって……本当にごめんなさい……私、すごく反省している……ごめんなさいね、ローレライ」
ベアトリック様は私の両肩に優しく手を置いて、そう言いました。
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