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3章 同性愛と崩壊する心
2 ドア越しに
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「…………」
部屋のドアをノックする音で私は意識を覚醒させました。
辺りを見回すと見慣れた天井が当たり前にそこにあって、床にはお母様のドレスが脱いだままになっています。窓の外にはすっかりと深まった闇が広がっていて、辺りは静けさに包まれています。
未だ世界の輪郭が歪み定まらないままで見慣れた天井をもう一度眺めます。
「…………」
あのまま寝てしまったんですね、私。
部屋の片付けもせずにこんな格好のままで寝てしまうなんて、お父様に見られでもしたら大変です。
早く、着替えて片付けないと……。
私はベッドから起き上がりクローゼットからネグリジェを取り出し素早く着替えて、床に置いたままだったお母様のドレスを拾いあげ、泥汚れを洗うため洗い場へと向かう事にしました。
自室のドアの前に立ちドアノブを回そうと手を伸ばしたその時、ドアがノックされました。弱々しい控えめなノックです。
今が夜である事を考えると控えめなノックになるのは当然なのですが、それでもそのノックにはドアの向こうに立つ人物の癖がありありと現れています。そういえば私、ノックで目が覚めた事をすっかり忘れていました。
「ーーーーアンナ?」
「お嬢様! 平気ですか? 体調が優れないとお聞きしてからずっと心配していました」
ほんの少し取り乱しているのか、アンナは早口でそう告げました。
私はドアノブに手を掛けわずかにノブを下げたところで手を止めました。
静まり返った部屋の中に金属の擦れる音が響きます。
いつもなら、すぐにでもドアを開けて心配するアンナを抱きしめて安心させてあげるのですが、ベアトリック様の言葉と身体に刻まれた無数の傷跡が私を躊躇させます。
両腕の傷跡に関してはネグリジェでほとんど見えはしないのですが、顔にも多少の傷跡があるはずなので今は対面するのはさすがにやめておいた方が無難でしょう。
「ーーーーええ、でも平気。体調が優れないとは言ってもただ単に慣れない場所でのお茶会で、つい気が張ってしまって疲れちゃっただけだから。それに、少し寝たらずいぶん楽になったわ」
「しかし……私は全然気付きませんでしたが、お嬢様がお屋敷に戻られてから明らかに様子が変だったと皆が話していますし、それに……」
と、アンナは言いづらそうに言葉を詰まらせました。
「…………」
「…………」
ドアを隔てて私とアンナの間には微妙な空気が漂います。
「そっ、それにお夕食もまだ……召し上がっていませんし……」
私の事を慮ってくれたのか、それに……の後の話を変更してくれました。
本当はお母様のドレスについての話をしようとしていたんでしょうけどね。本当に優しいですね、アンナは。
「ええ、なんだか食欲がないの。明日の朝、たくさん食べるから心配しなくて平気よ。ありがとうね、アンナ」
「はい……あっ、と、えっと……」
まだ何か言いたそうな様子のアンナですが、私は少し無理矢理に会話を中断する事にしました。
「じゃあ、私はもう少しお勉強を続けるから。アンナもまだお仕事残っているんでしょう? また明日ね、おやすみなさい」
そう言ってアンナが去っていく足音に耳を澄ませます。
ですが、しばらく待ってもアンナの足音はおろか物音一つさえ一向に聞こえてきませんでした。
不思議に思いドアを開けて確認しようとノブに手を伸ばすと、カチャリッという金属音と共にノブが下がりました。
そして、ドアがゆっくりと開いていき姿を見せたのは、まるで怯えた小動物のような様子のアンナでした。
「ーーーーアンナ⁉︎」
「おっ、お嬢様! そのお顔は⁉︎」
部屋の中へと入ったアンナは必死の形相で私に詰め寄ってきました。
部屋のドアをノックする音で私は意識を覚醒させました。
辺りを見回すと見慣れた天井が当たり前にそこにあって、床にはお母様のドレスが脱いだままになっています。窓の外にはすっかりと深まった闇が広がっていて、辺りは静けさに包まれています。
未だ世界の輪郭が歪み定まらないままで見慣れた天井をもう一度眺めます。
「…………」
あのまま寝てしまったんですね、私。
部屋の片付けもせずにこんな格好のままで寝てしまうなんて、お父様に見られでもしたら大変です。
早く、着替えて片付けないと……。
私はベッドから起き上がりクローゼットからネグリジェを取り出し素早く着替えて、床に置いたままだったお母様のドレスを拾いあげ、泥汚れを洗うため洗い場へと向かう事にしました。
自室のドアの前に立ちドアノブを回そうと手を伸ばしたその時、ドアがノックされました。弱々しい控えめなノックです。
今が夜である事を考えると控えめなノックになるのは当然なのですが、それでもそのノックにはドアの向こうに立つ人物の癖がありありと現れています。そういえば私、ノックで目が覚めた事をすっかり忘れていました。
「ーーーーアンナ?」
「お嬢様! 平気ですか? 体調が優れないとお聞きしてからずっと心配していました」
ほんの少し取り乱しているのか、アンナは早口でそう告げました。
私はドアノブに手を掛けわずかにノブを下げたところで手を止めました。
静まり返った部屋の中に金属の擦れる音が響きます。
いつもなら、すぐにでもドアを開けて心配するアンナを抱きしめて安心させてあげるのですが、ベアトリック様の言葉と身体に刻まれた無数の傷跡が私を躊躇させます。
両腕の傷跡に関してはネグリジェでほとんど見えはしないのですが、顔にも多少の傷跡があるはずなので今は対面するのはさすがにやめておいた方が無難でしょう。
「ーーーーええ、でも平気。体調が優れないとは言ってもただ単に慣れない場所でのお茶会で、つい気が張ってしまって疲れちゃっただけだから。それに、少し寝たらずいぶん楽になったわ」
「しかし……私は全然気付きませんでしたが、お嬢様がお屋敷に戻られてから明らかに様子が変だったと皆が話していますし、それに……」
と、アンナは言いづらそうに言葉を詰まらせました。
「…………」
「…………」
ドアを隔てて私とアンナの間には微妙な空気が漂います。
「そっ、それにお夕食もまだ……召し上がっていませんし……」
私の事を慮ってくれたのか、それに……の後の話を変更してくれました。
本当はお母様のドレスについての話をしようとしていたんでしょうけどね。本当に優しいですね、アンナは。
「ええ、なんだか食欲がないの。明日の朝、たくさん食べるから心配しなくて平気よ。ありがとうね、アンナ」
「はい……あっ、と、えっと……」
まだ何か言いたそうな様子のアンナですが、私は少し無理矢理に会話を中断する事にしました。
「じゃあ、私はもう少しお勉強を続けるから。アンナもまだお仕事残っているんでしょう? また明日ね、おやすみなさい」
そう言ってアンナが去っていく足音に耳を澄ませます。
ですが、しばらく待ってもアンナの足音はおろか物音一つさえ一向に聞こえてきませんでした。
不思議に思いドアを開けて確認しようとノブに手を伸ばすと、カチャリッという金属音と共にノブが下がりました。
そして、ドアがゆっくりと開いていき姿を見せたのは、まるで怯えた小動物のような様子のアンナでした。
「ーーーーアンナ⁉︎」
「おっ、お嬢様! そのお顔は⁉︎」
部屋の中へと入ったアンナは必死の形相で私に詰め寄ってきました。
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