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4章 おまじないがもたらすモノ
16 薔薇の赤
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「ーーお嬢様! お嬢様!」
左肩を押さえた男性が必死の表情で声を荒げますが、大破した馬車からは何の返答もありません。
お父様とネイブルさんは急ぎ大破した馬車へ向かって走っていき、私は若干遅れて二人の後を追います。
「お嬢様! ご無事ですかっ⁉︎ お嬢様!」
恐らく御者の方であろう男性が大破し横倒しになった馬車によじ登ろうと試みますが、怪我をしてうまく動けないのか悪戦苦闘しているご様子です。
「ーー君っーー」
「ーーあぁっ、それがーー」
酷く混乱したご様子の男性の話をお父様が真剣な表情で聞いています。ネイブルさんは男性の肩を抱いてときおり背中をさすりながら気持ちを落ち着けている最中のようです。
私が若干遅れてそこに到着すると、入れ替わるようにしてお父様とネイブルさんは大破した馬車の方へと歩み寄り横倒しの馬車へとよじ登り始めました。
「ーーあの……お怪我をされているのではありませんか?」
「あ……あなたは?」
「ポーンドット男爵の娘、ローレライ・ポーンドットと申します。そして、あちらにいるのがジェラール・ポーンドット、私のお父様ですね」
「ポーンドット男爵……そっ、そんな! まさか貴族様だとは……」
男性はお父様の背中を心配そうに見つめ声を震わせます。
「ああ、大丈夫ですよ。今から止めたって聞いてくれないだろうし。それにお父様は人助けするのが趣味みたいな方ですからどうぞお気になさらないで下さい」
「しかし……よろしいのでしょうか?」
「大丈夫です。それよりも、あなたのお怪我の方が心配です。あそこに見えるのはポーンドット家のお屋敷なんですが、もしよろしければあちらで怪我の手当ても含めてしばらくお休みになって下さい。歩けますか?」
「いえ。私だけ行くわけには……お嬢様を優先しなければーー痛っ! まともに歩けもしない役立たずですが、お嬢様のご無事をこの目で確かめない事には……」
非常に無念そうな表情をその顔に浮かべつつ、男性は自身を襲う痛みに耐え大破した馬車を真っ直ぐに見つめます。
そんな男性の横顔を見て私も考えを改めます。
大切な人の安否が確認できない状況で、自分だけがおちおち休むなんてできっこないですよね、普通。
「ーー分かりました。一緒にお嬢様のご無事を祈りましょう」
「はいっ!」
私達が見つめる視線の先、そこでは賢明な救助作業が行われています。
当初、お父様達は馬車によじ登り空を仰いだ出入り口から救助しようと試みていたようですが、女性一人を抱えての救助は困難だと判断したらしく、今は壊れた馬車の前方の木材を取り除き救出するための隙間を確保しているようでした。
真剣な表情のお二人が力を合わせて次々に木材を引っ張り馬車を解体していきます。
「大丈夫です。きっとお嬢様は無事です。大丈夫、大丈夫、絶対、大丈夫です」
男性を落ち着かせる為か、あるいは私自身を落ち着かせるためか私はぽつりぽつりとそう呟きます。
救出作業からしばらくすると、ポーンドット家のお屋敷から使用人の方々が駆けつけ救出作業に加わりました。
救出作業は急ピッチで進められ、そして遂に大破した馬車内部からお嬢様が救い出されました。
「ーーっ! お嬢様! ご無事ですかっ⁉︎ お嬢様ぁぁぁ!」
お父様達に抱えられたお嬢様は意識を失っているご様子で、今は力無くその身を預けています。
また、頭部を強く打ち付けたのか顔が見えなくなるほどの出血を伴っていて、事故の凄惨さを物語っています。
慎重に屋敷に向かって運ばれていくお嬢様が私達の前を通り過ぎていきます。隣の男性は足がガクガクと震えていて立っているのがやっと、といった風でした。
「ーーーーっ!」
ドクンッ、と。私の心臓が驚くほどに跳ね上がります。
生々しく、痛々しく、赤々とした薔薇の花のような血にまみれたお嬢様の横顔。
私はその女性をよく知っています。
「ベア……トリック……様……」
左肩を押さえた男性が必死の表情で声を荒げますが、大破した馬車からは何の返答もありません。
お父様とネイブルさんは急ぎ大破した馬車へ向かって走っていき、私は若干遅れて二人の後を追います。
「お嬢様! ご無事ですかっ⁉︎ お嬢様!」
恐らく御者の方であろう男性が大破し横倒しになった馬車によじ登ろうと試みますが、怪我をしてうまく動けないのか悪戦苦闘しているご様子です。
「ーー君っーー」
「ーーあぁっ、それがーー」
酷く混乱したご様子の男性の話をお父様が真剣な表情で聞いています。ネイブルさんは男性の肩を抱いてときおり背中をさすりながら気持ちを落ち着けている最中のようです。
私が若干遅れてそこに到着すると、入れ替わるようにしてお父様とネイブルさんは大破した馬車の方へと歩み寄り横倒しの馬車へとよじ登り始めました。
「ーーあの……お怪我をされているのではありませんか?」
「あ……あなたは?」
「ポーンドット男爵の娘、ローレライ・ポーンドットと申します。そして、あちらにいるのがジェラール・ポーンドット、私のお父様ですね」
「ポーンドット男爵……そっ、そんな! まさか貴族様だとは……」
男性はお父様の背中を心配そうに見つめ声を震わせます。
「ああ、大丈夫ですよ。今から止めたって聞いてくれないだろうし。それにお父様は人助けするのが趣味みたいな方ですからどうぞお気になさらないで下さい」
「しかし……よろしいのでしょうか?」
「大丈夫です。それよりも、あなたのお怪我の方が心配です。あそこに見えるのはポーンドット家のお屋敷なんですが、もしよろしければあちらで怪我の手当ても含めてしばらくお休みになって下さい。歩けますか?」
「いえ。私だけ行くわけには……お嬢様を優先しなければーー痛っ! まともに歩けもしない役立たずですが、お嬢様のご無事をこの目で確かめない事には……」
非常に無念そうな表情をその顔に浮かべつつ、男性は自身を襲う痛みに耐え大破した馬車を真っ直ぐに見つめます。
そんな男性の横顔を見て私も考えを改めます。
大切な人の安否が確認できない状況で、自分だけがおちおち休むなんてできっこないですよね、普通。
「ーー分かりました。一緒にお嬢様のご無事を祈りましょう」
「はいっ!」
私達が見つめる視線の先、そこでは賢明な救助作業が行われています。
当初、お父様達は馬車によじ登り空を仰いだ出入り口から救助しようと試みていたようですが、女性一人を抱えての救助は困難だと判断したらしく、今は壊れた馬車の前方の木材を取り除き救出するための隙間を確保しているようでした。
真剣な表情のお二人が力を合わせて次々に木材を引っ張り馬車を解体していきます。
「大丈夫です。きっとお嬢様は無事です。大丈夫、大丈夫、絶対、大丈夫です」
男性を落ち着かせる為か、あるいは私自身を落ち着かせるためか私はぽつりぽつりとそう呟きます。
救出作業からしばらくすると、ポーンドット家のお屋敷から使用人の方々が駆けつけ救出作業に加わりました。
救出作業は急ピッチで進められ、そして遂に大破した馬車内部からお嬢様が救い出されました。
「ーーっ! お嬢様! ご無事ですかっ⁉︎ お嬢様ぁぁぁ!」
お父様達に抱えられたお嬢様は意識を失っているご様子で、今は力無くその身を預けています。
また、頭部を強く打ち付けたのか顔が見えなくなるほどの出血を伴っていて、事故の凄惨さを物語っています。
慎重に屋敷に向かって運ばれていくお嬢様が私達の前を通り過ぎていきます。隣の男性は足がガクガクと震えていて立っているのがやっと、といった風でした。
「ーーーーっ!」
ドクンッ、と。私の心臓が驚くほどに跳ね上がります。
生々しく、痛々しく、赤々とした薔薇の花のような血にまみれたお嬢様の横顔。
私はその女性をよく知っています。
「ベア……トリック……様……」
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