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終章 私達の物語

6 アンバランス

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「ーーっ! レライ、あなたその扇子……」

「あっ、はい。先日、アリーお姉様から頂いた物です。ですが本当によろしかったんですか? すごく高価な物のようですけれど……」

「ええ大丈夫、気にしないで。それにその扇子も私よりあなたに持っていて欲しそうだし、ね」

「……?」

「ふふふっ、それにしても違和感の塊ね。その扇子はどう頑張ってもレライには似つかわしくないわ」

「はい。今はそうかもしれませんが、いつかきっと似合うようになってみせます!」

「いえいえ、きっと無理。そもそも方向性がまるっきり逆だし、もはや相反していると言っても過言ではないくらいなのだから」

「それは……そうですね、何となく分かるような気がします。この扇子は私みたいな子供じゃなく、アリーお姉様のような大人の女性にしか似合わないと思います。だからこの扇子はある意味御守りとして持っているんです。アリーお姉様がいつも側にいてくれているような気がするので……」

「ああーー逆って別にそういう意味ではないのよ。私が言っているのは、例えば朝と夜が両立しないといったような事なのよ。太陽はどれほど頑張っても月にはなれない。けれど、太陽には太陽にしかない魅力がある。レライ、あなたは太陽。そしてその扇子はこの場合、月という事になるわね」

「太陽と月……」

「なんてーーそんな事言って、それはただの私自身の願望なのだけれど。私はレライにはずっと太陽のようでいて欲しいと、そう思ってる。でも、あなたが頑張って月のようになる事は可能だわ。この世に不可能な事なんて無いのよ、自分自身が勝手に決め付けてしまわない限りは。可能性はいつだってそこにある……私はそう思っーー」

「……?」

「私とした事が少々、喋り過ぎたわね……。もう何か、口から血とか吐いちゃいそう……」

「えっ⁉︎ 大丈夫なのですか?」

「ええ、まあ……。あくまでもその可能性があるというだけの話だし……」

「ああ……。さっきの会話の続きなんですね」

「とにかくーーその扇子を身に付けていてくれてとても嬉しいわ。ありがとう、レライ。大切にしてね」

「はい、もちろんです!」

 そんな会話をしばらく続けていると、数名の知らない男性から声をかけられました。

「こんにちは、私はルイン伯爵家のーー」

「お初にお目にかかります、私はカイリー伯爵家のーー」

「あなたがローレライ嬢ーー」

「初めまして、私はマユーン侯爵家のーー」

「私、私、私! 私はですね! ローレライ嬢!」

「えっ? えっ? えっ?」

 次々と知らない男性から声をかけられ圧倒された私は、無意識にアリーお姉様の背後へと逃げ込みます。

「何ですあなた方! いったい私になに用です」

 毅然としたアリーお姉様が語気を強めてそう言い放ちます。

「いえ……あなたではなくーー」

「私が用があるのは後ろのーー

「ロ、ローレライ嬢、どうかこちらにーー」

「だまらっしゃい! 私はあなた達なんて知らないし、用もないと言っているのが分からないのですか⁉︎」

「いや……」

「そんな……」

 男性方は完全にアリーお姉様のペースに飲み込まれ、もはや籠絡ろうらくされてしまったご様子です。

 こうして、いつだってアリーお姉様は私を守ってくださるんですよね。アリーお姉様の側にいるととても心が落ち着きます。

「う……そっ、それでは失礼します」

「また、後ほど……」

「ごきげんよう……」

 引きつった表情の男性方は、わらわらと集団の中に戻っていき今のやりとりを遠巻きに見ていた方々は私達から若干距離をとったようでした。

「ふんっーー何よ、あの人達……」

「ありがとうございます、アリーお姉様。助かりました」

「まったく……私が珍しく屋敷から出てきたからって途端に飛びついてくるだなんて、はしたないわ。私に会うまたと無いチャンスなのは分かるのだけれど、あれほどグイグイ来られたらか弱い私としてはどうしても引いちゃうわよね。それにしても恋は引き際が肝心だと言うけれど、引き際を熟知した私って……罪な女よね。ねえ、レライ? あなたもそう思わない?」

「ーーっえ⁉︎ ええ……そうですね。さすがです、アリーお姉様」

「お待たせ致しました。国王陛下がまもなく参りますので、皆様は庭園の方へとお進み下さい」

 その声を皮切りに部屋中に溢れかえる程の人の群れがゆっくりと動き出しました。


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